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『ブレイブハート』Braveheart (1995)

監督・主演メル・ギブソン

 

Story

13世紀末スコットランドが舞台。イングランドの圧政にあえぐスコットランドの民衆は、妻を殺され怒りに燃えるウィリアム・ウォレスを中心に立ちあがるが… すさまじい戦闘シーンも見物。

 

歴史的背景

>>参考資料とリンク

1296年 イングランド王エドワード一世、スコットランドに攻め入り支配下に置く
1297年 ウィリアム・ウォレスの蜂起、スターリング・ブリッジの戦い(9/11)
1298年 フランス、イングランドと単独講和、スコットランドとの同盟破棄。

フォルカークの戦い(1月)

   
1304年 ウィリアム・ウォレス刑死。
1305年 「スコットランド統治のための条例」発布(9月)
1306年 ロバート・ザ・ブルース、ダンフリースの教会で王位継承権をめぐる殺人を犯してローマ教皇から破門される。 同年スクーン宮殿にて即位。
1307年 エドワード一世、カーライルにて死亡(7月7日)
1308年 エドワード二世、フランス王女イザベラと結婚
   
1314年 バノックバーンの戦い(6/23)
1326年 王妃イザベラ、愛人のモーティマー伯とともにエドワード二世を攻める
1327年 エドワード二世廃位(1月)、のち惨殺される(12月)
1329年 ロバート・ザ・ブルース病死

この映画の主人公ウィリアム・ウォレス(William Wallace)は、イングランドの圧政に苦しんでいたスコットランドの民衆を率いて反乱を起こした実在の人物である。

当時のイングランド王はEdward the Long Shank(長脛王)と呼ばれたエドワードT世で、軟弱な皇太子(Prince of Wales)は後のエドワード2世、ソフィー・マルソー演じるフランスから嫁いで来た皇太子妃は後にフランスの雌狼と呼ばれたイザベラ。

イザベラを使者として派遣したことやヨーク攻略はフィクション。

 

ラテン語とウォレスの教養

ウォレスの父の葬式、Murronとの結婚式などで唱えられていた聖書の祈りはラテン語で唱えられていた。イギリスに英語で書かれた聖書が登場するのは1535年(ヘンリー8世の時代)。それまで聖書はすべてラテン語で書かれており、英訳聖書は読むだけで異端視されたのだ。

主人公はラテン語やフランス語もぺらぺらだったが、当時のスコットランドの状況から考えると、彼はずば抜けた教養人として描かれている。 後に主人公と結婚するMurronは文字が読めなかったので、ウォレスは絵手紙を送っているが、一般スコットランド人の識字率はかなり低かったはず。

おじのアーガイル(ウォレスは両親を亡くしておじに育てられた)についてローマに巡礼に行っていたという台詞もあったが、交通機関が発達していなかった状況を考えるとすごいことだ。

Sirウィリアム・ウォレス(1274-1304)

グラスゴー近郊の村Elderslieに生まれ、ペイズリー修道院(グラスゴー近郊)で学問を修め、ラテン語やフランス語になど高い教養を身につける。 その後の歩みについては映画を参照。

ロバート・ザ・ブルース(1274-1329, 在位1306-1329)

スコットランドの貴族ブルース家の第17代。 途中、イングランド側についたり揺れ動く心理も見られるが、バノックバーンの戦いでイングランド軍を打ち破り、スコットランド王ロバート一世となる。

1329年にハンセン氏病で命を落とす。映画の中でロバートの父親もハンセン氏病を患っていたのは、この未来を暗示しているのか。 遺体はDunfermline Abbeyに、心臓だけはMerlose Abbeyに埋葬された。

皇太子妃イザベラ

イザベラはフランス王フィリップ四世(在位1285-1314)の娘。

イザベラがエドワードと婚約したのはまだ4歳のときのことだったが、実際にイングランドに来たのはエドワード1世の死後(1308年)なので、映画のように老王がウォレスとの和議のためにイザベラを使者に遣わしたというのはフィクション。

イザベラが死の床にあるエドワード1世に「あなたの血を引かぬ子が私のお腹の中に… あなたの息子は王座を追われます」とささやくシーンがある。(映画の中でイザベラはウォレスと一夜を共にしていた) この台詞はその後の皇太子(エドワード2世)の運命を暗示している。英国の歴史に詳しい方や映画「エドワード2世」を観た方なら、ニヤリとすることだろう。即位後、寵臣ギャヴスタンにいれあげて国政をおろそかにしたエドワード2世に反感を抱く貴族たちは、王妃イザベラのもとに集まるようになった。のちにイザベラとその愛人マーチ伯モーティマーによってエドワードは捕らえられ、息子(後のエドワード3世・フランスとの百年戦争を始めた)に譲位後幽閉される。王者は体に外傷を残してはいけないので、一説によるとエドワードは肛門から焼け火箸を突っ込むという残虐な方法で殺害された。自分の息子が夫を王座から追い落とすだろうという台詞ははからずも実現したという設定にしているわけだ。

イザベラとエドワード二世の次女ジョアンは、のちにロバート・ザ・ブルースことスコットランド王ロバート一世の皇太子デイビッドと結婚する。

長脛王(ロングシャンク)エドワード1世(在位1272-1307)

父はヘンリー三世。 エドワード1世は、1282年にウェールズを征服した王として有名。王家を断絶されたウェールズ人を懐柔するために、カーナヴォン城で生まれた皇太子エドワードを「プリンス・オブ・ウェールズ」に叙位した。これが現代まで続く皇太子の称号のはじまり。

彼はスコットランド制圧にも精力的で、スコットランド王の即位に使われていた「スクーンの石」を奪い、イングランドに持ち帰った。この石はずっとウェストミンスター寺院に保管されていたが、1997年にスコットランドに返還された。

当時スコットランドの王位継承は大変不安定で、先王アレグザンダー三世の事故死により後を継いだ、幼いマーガレットも急逝。 エドワード一世は次のスコットランド王John Balliol(在位1292-1296)を追放し、ついにスコットランドをイングランドの支配下におさめる。

皇太子エドワード

賢王として誉れの高かったエドワード1世にひきかえ、その息子は歴代イングランド国王の中でも最悪の王のひとりと言われる愚王だった。同性愛趣味があったことも有名で、映画の中でも父王の居ぬ間に小姓を着飾らせたり、見目良い青年をはべらしたりしている。イングランド軍の兵士がブルース伯ロバートに向かって「尻を洗ってきたかな?国王がキスするんだぞ」と嘲笑するシーンがあるが、この台詞もエドワードの同性愛嗜好を暗示している。

このエドワードが即位しエドワード2世となってからを描いた作品もある。>>『エドワード II』

スターリング・ブリッジの戦い

映画では「スターリングの戦い」となっていた平原での合戦だが、実際は「スターリング・ブリッジの戦い」という、フォース川にかかる橋とその周囲の湿地帯を舞台にした合戦だったという。

やはりスコットランド人はキルトの下には何もつけていなかった…と、戦闘シーンを見て納得。

この戦いでの勝利で、ウォレスはナイトに叙せられる。

スコットランド人、アイルランド人、ウェールズ人

イングランドのエドワード王はスコットランド人との戦いに際して、「矢は金がかかるからまず安いアイリッシュを歩兵に出せ」と命じ、最も危険な前線に立たせる。 アイリッシュ兵はハープの絵のついた旗印を掲げて前進。 ところがアイルランド人たちはスコットランド軍に接近すると、すっかり意気投合して寝返ってしまう。それを見て、王が「アイリッシュ!」と吐き捨てるようにつぶやくシーンには大笑いしてしまった。 これは、スコットランド人もアイルランド人もケルト系の民族で、同じようにイングランドの圧政に苦しんでいたことによるもの。 ウォレスたちの仲間に加わっていた信心深いアイルランド人・スティーブンという人物が登場するが、彼がことあるごとに「アイルランド人は…」と言い出すのが面白い。

イングランドは、征服したスコットランド、アイルランド、ウェールズを一段低いものとしてみていたらしい。味方の歩兵(おそらくウェールズ人やアイルランド人)がまだ戦っているのに、射手を出して矢を雨のように降らせ味方まで傷つけても平気な顔だ。「まだ援兵はいくらでもいる」と。

スコットランドの象徴、アザミの花 (Thistle)

父の葬式で悲しむ子供時代のウォレスにMurronがアザミの花を手渡す美しい場面がある。アザミの花(Thistle)は今でも誇り高いスコットランドの象徴として愛されている。スコットランドに行ったことがある方なら、あちこちでアザミの花をかたどったデザインを目にしたことあるだろう。 成長したMurronに再会したウォレスが渡すのもアザミの花、結婚式にMurronが用意してきたハンカチにもアザミの刺繍が。

フェイス・ペインティング

スターリング(ブリッジ)での戦いで、ウォレスとその仲間たちは、顔を青く塗っている。 青地に白十字のスコットランド国旗を模しているのももちろんだが、スコットランドでは

スコットランド貴族同士の覇権争い

スターリング(・ブリッジ)での勝利後の会合でも、すでにスコットランド貴族同士の覇権争いの芽が見て取れる。 王位継承候補者の最右翼の一人と見られるベリオル卿は、エドワード一世に追われるまでスコットランド王の地位にあったベリオル家の者。 ブルース家のロバートも王位継承候補者の一人。

スコットランドでは長子相続ではなく

見世物

捕らえられたウォレスが引き出される時、民衆は口々に罵声を浴びせ野菜を投げつける。拷問や処刑見物は庶民にとって娯楽のひとつだったらしい。ロンドンにも有名なタイバーン処刑場があり、死刑が行われる日には群集がつめかけたという。

ウォレスが連れてこられるまで前座(?)として、こびとのちゃんばらが披露されていた。当時は他にも「熊いじめ」(熊をいたぶる見世物)なども喜ばれたらしい。人権擁護・動物愛護を標榜する現代のイギリスでは考えられないことだろう。

処刑の方法

映画では鎌で上着を引き裂かれた後、ウォレスの胸から上しか映らないのでわかりにくいが、この時彼は腹を割かれていたはず。 「エドワード王への忠誠を誓えば楽に死なせてやるが、そうでない場合は・・・」と脅されていたように、この時の処刑の方法は残酷極まるものだった。 史実によると何回か首に縄をかけて死なない程度に吊るして苦しめ、腹を割いて内臓をつかみ出して焼き、手足を縛った縄をそれぞれ馬に縄を引かせて八つ裂きにしたとのこと。 首は切り落とされてロンドン・ブリッジにさらされ、左腕はアバディーンに、右腕はニューカッスルに、両足もそれぞれ別の場所に埋められたという。

 

ロケ地

スコットランド

Fort William

Glen Nevis

Glencoe

Loch Leven, Onich, Highland


Glen Coe

アイルランド

St Margarets教会, Dublin, Co. Dublin

Dunsoghly Castle, Co. Dublin
・・・エディンバラ城として

The Curragh Plain, Co. Kildare
・・・スターリング(・ブリッジ)の戦いの舞台として

Ballymore Eustace, Co. Kildare
・・・フォルカークの戦いの舞台として

Sally's Gap, Co. Wicklow

Trim Castle, Trim, Co. Meath
・・・ヨーク、ロンドンの場面

Bective Abbey, Trim, Co. Meath
・・・イングランド宮廷。皇太子妃と侍女がおしゃべりしている回廊など


Trim Castle

Bective Abbey

 

Awards

米アカデミー賞:
作品賞、監督賞、撮影賞、音響効果賞、メイクアップ賞受賞、5部門ノミネート(脚本賞、音楽賞、衣装デザイン賞、音響賞、編集賞)

米ゴールデン・グローブ賞:
監督賞受賞

 

キャスト

Mel Gibson .... William Wallace

[スコットランドの人々]
Brendan Gleeson .... Hamish(ウォレスの親友・幼なじみ)
James Cosmo .... Campbell (ヘイミッシュの父)
Catherine McCormack .... Murron(ウォレスの恋人)
Tommy Flanagan .... Morrison(ウォレスの腹心)
David O'Hara .... Stephen(アイルランド人志願兵)
Sean McGinley .... MacClannough(Murronの父)

Brian Cox .... Argyle Wallace (ウォレスの伯父)
Julie Austin .... Morrisonの新妻・領主に初夜権を行使される
Alex Norton .... Morrisonの新妻の父
Gerda Stevenson .... Mother MacClannough (Murronの母)
Sean Lawlor .... Malcolm Wallace (ウォレスの父)
Sandy Nelson .... John Wallace (ウォレスの兄)
James Robinson .... 少年時代のウィリアム・ウォレス
Mhairi Calvey .... 少女時代のMurron
Andrew Weir .... 少年時代のヘイミッシュ
Ralph Riach .... ウォレスの父の葬式を執り行った神父
Robert Paterson .... ウォレスとMurronの結婚式を執り行った神父
Tam White .... MacGregor 一族の長

[スコットランド貴族]
Angus MacFadyen .... Robert the Bruce
Ian Bannen .... ロバート・ザ・ブルースの父(ハンセン病患者)
John Kavanagh .... Craig卿
Alun Armstrong .... Mornay卿
John Murtagh .... Lochlan卿
Bernard Horsfall .... Balliol卿

[イングランド]
Patrick McGoohan .... Longshanksこと英国王エドワード一世
Peter Hanly .... 皇太子 Edward(後のエドワード二世)
Sophie Marceau .... 皇太子妃 Isabelle
Jeanne Marine .... Nicolette (Isabelleの侍女)
Stephen Billington .... Phillip (皇太子の寵臣にして愛人?)
Barry McGovern .... King's Advisor
Gerard McSorley .... Cheltham (スターリングの戦いでの使者)
Richard Leaf .... Governor of York(エドワード一世の甥)
Malcolm Tierney .... ウォレスの村にやってきた執政官
William Masson .... 下士官

参考資料と関連リンク

imdb.com/Title?0112573
 
Scotland the Movie
ロケ地の詳しい地図や情報あり
 
『とびきり哀しいスコットランド史』フランク・レンウィック・著/小林章夫・訳/ちくま文庫/1998
悲惨で哀しいスコットランド史をユーモアたっぷりの口調で語る
 
『スコットランドの聖なる石』小林章夫・著/NHKブックス/日本放送出版協会/2001
スコットランドについて知りたい方にお勧め
 
『英国王妃物語』森護・著/河出文庫/1994
エドワード二世妃イザベルについて一章が割かれていて詳しい
Carinya's Mel Gibson Site
主演のメル・ギブソンファンサイト。ブレイブハートの詳しい解説あり。
 

ソフト

DVD
DVD特別編(二枚組)

CDサウンドトラック
CDサウンドトラック2

 

(1995年 アメリカ 177分)


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