監督・脚本:リチャード・エア
共同脚本: チャールズ・ウッド
原作:ジョン・ベイリー (Iris: A Memoir and Elegy for Iris)
音楽:ジェームズ・ホーナー
ヴァイオリン・ソロ:ジョシュア・ベル
「イギリスで最も素晴らしい女性」と称えられる哲学者にして作家のアイリス・マードックと、その夫文芸評論家のジョン・ベイリー。 ふたりが出会ったのは1950年代のオックスフォード、ジョンは自由奔放でいつも皆の注目の的のアイリスにひと目で恋に落ちた。アイリスは恋愛経験も豊富で複数のボーイフレンドたちにかこまれていたが、いつしかジョンの優しさに惹かれてゆき、やがて結ばれる。 40数年にわたる結婚生活を経て穏やかな晩年を送っていたふたりだったが、ある日アイリスに現代医学では治療不可能と言われるアルツハイマーという診断が下される。 イギリスの知性の代表とまで言われ敬愛されるアイリスが、次第に言葉や記憶を失っていくというあまりに厳しすぎる現実がジョンの前に突きつけられた。 時に苛立ち、時にくじけそうになりながらもアイリスを支え続けるジョンだったが・・・
アイリスとジョンはふたりともオックスフォードの卒業生で、出会った時もそれぞれ別のカレッジに勤めていた。 この作品の主な舞台として、オックスフォード大学周辺の景色がふんだんに取りれられている。
チャリティ・ディナーの席でジョンが紹介される際に字幕では「ウォルトンの教授」となっていた(ような気がする)が、正確にはSt Catherine's Collegeに所属していて「Thomas Warton Professorship of English Literature 」という地位についていたということ。 オックスフォード大学には「ウォルトン・カレッジ」は存在しない。
晩年のアイリス、若い頃のアイリス両方ともに、パブに出かけて飲んでいる場面がある。 晩年のジョンとふたりきりでパブに行くアイリス・・・ジョンはクリスプス(ポテトチップ)の袋を口にくわえて両手にビールを持って席に向かう。 クリスプスはビールのおつまみとして最もポピュラー。
若い頃のたくさんの友達に囲まれているアイリス・・・友達に囲まれ、ビールを飲みながら「A Lark in the Clear Air」を歌う。
アイリスがパブで「A Lark in the Clear Air」を歌う時、"her mother's song(彼女の母の歌)"と言われていたように、アイリスの母はアイルランド人でアイリス自身もアイルランドの首都ダブリンで生まれた。
両親はいわゆる"アングロ・アイリッシュ"で、アイリス自身も生涯にわたってアイルランドのプロテスタント側に共感の意を示していたという。
アイリスとジョンの家はオックスフォード北部Charlbury Roadにあり、ふたりとも掃除をしなかったため恐ろしく散らかっていることで有名だった。 生活雑貨から食器(ブルーウィロウ?)までありとあらゆるものがちらばっている。映画でもかなり部屋がきたないことがうかがえる。庭に狐が来るような牧歌的な環境でありながら、幹線道路にも近い便利なところらしい。
>>位置はこの辺り
晩年のアイリスとジョンがふたりでスーパーに買い物に行く場面が。 これは郊外型の大型スーパー「ASDA」。Heinzのベイクドビーンズの缶詰などを買っている。 「長持ちするから」と普通のレジ袋でなく、有料のショッピングバッグ(厚手のビニールでできており丈夫。イギリスの各スーパーにはこのような袋を売っているところが多い)も買っている。
www.asda.co.uk
テレビのインタビュー番組に出演するために、BBCのスタジオを訪れたアイリス。後述のアイリスが見ていた子供向け番組「テレタビーズ」もBBCの番組。
BBC=British Broadcasting Corporation(英国放送協会)www.bbc.co.uk
アルツハイマーの症状が進んだアイリスがテレビでBBCの子供番組「テレタビーズ」に見入っている場面が。 ジョンが「エッオー」と呼びかけるとアイリスも「エッオー」と答える。
*テレタビーズとは、1997年3月31日からイギリスのBBCで放映が始まった子供向け番組。テレタビーズは、ティンキーウィンキー(紫)、ディプシー(緑)、ラーラ(黄)、ポー(赤)の4人(匹?)で、「エッオー」と挨拶する。
www.teletubbies-jp.com
www.bbc.co.uk/cbeebies/teletubbies/
アイリスの症状を確認するために医者が「今の首相の名前は?」と質問するが、すぐに名前が出てこない。後になってやっと「トニー・ブレアよ」と思い出すが。 TVにブレア首相が映る場面も。ブレア政権が発足したのは1997年のこと。
郵便配達員が届けてくれたのはアイリスの最新作『ジャクソンのジレンマ』だったが、すでに彼女にはそれが自分の作品だとわからないほどにアルツハイマーの症状が進行していた。Suffolkの海辺に親友のジャネットを訪ねて行った時、その著書にサインをしてくれるよう頼まれるがもう字がかけなくなっていた。
暖炉の側でジョンがアイリスにジェーン・オースティンの『高慢と偏見(Pride & Prejudice)』を読んであげる場面が。 アイリスは『高慢と偏見』を「私が書いたの」と言っている。
年 | 歳 | Dame Iris Murdoch(1919-99) |
1918 | 第一次世界大戦(1914-1918) | |
1919 | 0 | 7月15日 アイリス(Jean
Iris Murdoch)、アイルランドの首都ダブリンBlessington
Street59番地に生まれる。 ひとり娘で、父は第一次大戦に従軍したこともあるイギリスの公務員、アイルランド人の母はオペラ歌手としての教育を受けた女性。 |
1 | 一家はロンドンのハマースミスに転居 | |
ブリストルの女子パブリックスクールBadminton Schoolで学ぶ | ||
1925 | (John Bayley、インドで生まれる。のちパブリックスクールのイートン校からオックスフォードに進学) | |
1938 | 19 | オックスフォード大学Somerville
College(女子だけのカレッジ)に入学し、古典や古代史、哲学を学ぶ。 1938年から43年ごろまで共産党員だったが、後にその思想に失望し離党している。 |
1939 | 20 | 9月、英独戦争始まる(第2次世界大戦の始まり) |
1942 | 22 | オックスフォード大学卒業、2年間戦時文官として大蔵省で勤務 |
1944 | 24 | 1946年までの2年間、国連救済復興機関UNNRAで難民救済活動 |
1945 | 25 | 5月ドイツ降伏(第2次世界大戦の終わり) |
1947 | 27 | ケンブリッジ大学で奨学金を得て、ヴィトゲンシュタインのもとで哲学を学び始める |
1948 | 28 | オックスフォード大学St. Anne's Collegeのフェロー(特別研究員)になり、以後1963年まで哲学を講じる |
1953 | 34 | 評論『サルトル、ロマン主義的合理主義者(Sartre: Romantic Rationalist )』発表 |
1954 | 35 | ジョン・ベイリーと出逢う。 処女長編『網のなか(Under the Net)』発表 |
1955 | (ジョン・ベイリー、オックスフォード大学New Collegeのフェローになる) | |
1956 | 37 | オックスフォード大学の英語教授で年下のジョン・ベイリーと結婚。オックスフォード北部Charlbury
Roadの家に転居。 『魅惑者からのがれて(The Flight from the Enchanter)』発表 |
1957 | 38 | 『砂の城(The Sandcastle )』発表 |
1958 | 39 | 『鐘(The Bell)』発表 |
1963 | 44 | 1967年まで王立芸術院(Royal College of Art)で講師を務める |
1973 | 54 | 『ブラック・プリンス(The Black Prince )』発表 |
1974 | 55 | 『愛の機械(The Sacred and Profane Love Machine)』でWhitbread賞を受賞 |
1976 | 57 | CBE勲章を受ける |
1978 | 59 | 『海よ、海(The Sea, The Sea)』発表、同作品でブッカー賞受賞 |
1987 | 68 | 「Dame」の称号を与えられる |
1996 | 77 | 最後の小説『ジャクソンのジレンマ(Jackson's Dilemma)』を発表 |
1997 | 78 | (ブレア政権発足) |
1998 | 79 | アルツハイマーであることが公表される |
1999 | 2月8日、オックスフォードにあるアルツハイマー患者の療養施設Vale Houseで死亡(享年79歳) |
Senate House, Malet Street,London
Richmond-upon-Thames, London郊外
Merton Street/Magpie Lane, Oxford, Oxfordshire
Southwold, Suffolk, England
米アカデミー賞:助演男優賞受賞(ジム・ブロードベント)、2部門ノミネート(主演女優賞・助演女優賞)
英アカデミー賞:主演女優賞受賞(ジュディ・デンチ)、5部門ノミネート(作品賞・主演男優賞・助演女優賞・助演男優賞・脚色賞)
米ゴールデン・グローブ賞:助演男優賞受賞(ジム・ブロードベント)、2部門ノミネート(主演女優賞・助演女優賞)
ベルリン国際映画祭:ニュータレント賞受賞(ヒュー・ボナヴィル)、金熊賞ノミネート(リチャード・エア)
Judi Dench .... Iris Murdoch
Jim Broadbent .... John Bayley
Penelope Wilton .... Janet Stone(アイリスの親友)
Saira Todd .... Phillida Stone(ジャネットの娘)
Juliet Howland .... Emma Stone(ジャネットの娘)
Eleanor Bron .... Principal (サマヴィル・カレッジ校長)
Timothy West .... Older Maurice(アイリスの昔のボーイフレンド)
Kris Marshall .... Dr. Gudgeon (担当医師)
Tom Mannion .... 神経学者
Derek Hutchinson .... 郵便配達員
Kate Winslet .... Iris Murdoch
Hugh Bonneville .... John Bayley
Juliet Aubrey .... Janet Stone(アイリスの親友)
Samuel West.... Maurice (アイリスのボーイフレンド)
Charlotte Arkwright .... Phillida Stone(ジャネットの娘)
Harriet Arkwright .... Emma Stone (ジャネットの娘)アイリスのボーイフレンドのモーリスは、回想シーンはサミュエル・ウェスト、現代の場面はティモシー・ウェストと実の父子がそれぞれ演じている。
アイリスの若い頃の親友を演じたのは、『GO NOW』『スティル・クレイジー』のジュリエット・オーブリー。
作家が過去を失うとき―アイリスとの別れ〈1〉
ジョン ベイリー (著), 小沢 瑞穂 (翻訳)愛がためされるとき―アイリスとの別れ〈2〉
ジョン ベイリー (著),中井 悠紀子 (翻訳)_Elegy for Iris _ by John Bayley
_Iris: A Memoir of Iris Murdoch_by John Bayley
_Iris: a Memoir of Iris Murdoch_
John Bayley (著), Sirデレク・ジャコビ朗読によるカセット
The Iris Murdoch Society
www.irismurdoch.plus.com日本アイリス・マードック学会
www.ndsu.ac.jp/5000_teach/2110_muroya/50_eng_muroya.htmlIris Murdoch Resources
www.robotwisdom.com/jorn/iris.htmlIris Murdoch Internet Resources
murdoch.shape9.nl_Iris Murdoch: A Life_ by Peter Conradi
アイリス・マードックのオフィシャルな伝記
(2001年 英=米 91分)
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