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『ザ・クレイズ/冷血の絆』 The Krays (1990)

監督:Peter Medak
脚本:Philip Ridley
音楽:マイケル・ケイメン

(1990年 イギリス 119分)

Story

1960年代のロンドンを震撼させた伝説的なギャングスター、クレイ兄弟。戦時中のイーストエンドでの子供時代から、次第に暗黒街の帝王にのし上がっていく過程、それぞれの恋と歪んだ凶暴性、盲目的なまでに強い母の愛・・・

今なお語り継がれる実在のギャングを、スパンダー・バレエのケンプ兄弟が演じる。タイトルが「Kray Twins」でなく「The Krays」なのは、双子たちだけでなくヴァイオレット・クレイやフランシス・クレイといった女たちにもスポットを当てて描いているためか。

 

Check!

イーストエンド界隈とクレイ一家

イーストエンドはロンドンの中でも特に貧困層や移民が多く住み、昔から犯罪多発地域として知られていた場所。 19世紀末の有名な連続殺人犯"切り裂きジャック"がいたのもこの地域。 この映画の中にも 「自分の母親が切り裂きジャックを見たことがある」と主張する老人も出てくる。 人口密度も高く、第二次大戦中の空襲で最も甚大な被害を蒙ったのはこのイーストエンドだったといわれている。

1932年からクレイ家はショーディッチのStene Street(near Kingsland road)に住んでいたが、第二次大戦が始まった1939年にベスナルグリーンのVallance Road178番地に転居。ロンドンの中でも最も犯罪率が高く貧しいスラム街だった。貧しさにもかかわらず、母はいつも子供たちにこざっぱりとした身なりをさせていたという。

クレイ一家の親戚もこの地域にまとまって住んでおり、おばのローズやメイやおじのジミーの家も同じVallance Roadに、母方の祖父"キャノンボール・リー"一家も近所に住んでいた。

父方の祖父"Mad" Jimmy Krayはペチコート・レーン(マーケットがあるので有名)にストールを出して古着商をしており、母方の祖父Jimmy Lee the "Southpaw Cannonball"は元ベア・ナックル・ボクサーでエンターティナー。

 

戦争の翳・徴兵制度

小学生たちはみなガスマスクを持っており、教室でかぶってみせている子供もいる。 戦争が激しくなった1940年に、母子はSuffork州Hadleighに一時疎開する。

イギリスの徴兵制度は、第一次大戦中の1916年1月に導入された(対象:18〜41歳独身男性)が終戦後に廃止、第二次大戦前の1939年5月に再び徴兵制度が復活した。兵役が廃止されたのは1963年のこと。

クレイ兄弟の父は徴兵を逃れるため、警官の姿が見えると慌てて身を隠している。ボクサーだったという父は徴兵されたが逃げ回り、警察が始終クレイ家を訪ねていたという。 一部宗教的理由や自己の政治的信条により「良心的兵役拒否者(conscientious objector)」として徴兵を拒否することも認められているが、監獄送りになったり、またそうでなくても周囲の人々から軽蔑の眼差しで見られることが少なくなかった。 ましてやクレイ兄弟の父の場合、単純に兵役が嫌だと逃げ回っていただけなのだから。

第二次大戦後もしばらく徴兵制度は存続しており、クレイ・ツインズは18歳の時(1952年3月)に兵役についたが、軍曹に暴行を働いたり脱走したりして、2年間の兵役期間のほとんど営倉で過ごしていた。

地下鉄構内は防空壕

ドイツ軍の空襲が激しくなっていた第二次大戦下のロンドンで、地下鉄の駅構内は防空壕として利用されていた。 クレイ一家も最寄の地下鉄駅、ベスナル・グリーン駅の構内に避難しており、階段からホームまで人々があふれている。 (参考:映画『哀愁』など)

ジフテリア

双子はジフテリアに罹り入院する。レジーはすぐ回復したが、ロニーの症状はかなり重かった。
映画にも描かれているように、母は無理を言って病院から自宅療養に切り替えている。

ボクシング

双子が兄のチャーリーと一緒に父からボクシングを教えてもらう場面があるが、クレイ・ツインズの母方の祖父"キャノンボール・リー"または"サウスポー・キャノンボール"ことジミーもボクサー(ベア・ナックル・ボクサー=素手ボクシング)だった。 彼らはめきめきと実力を上げ、数々の大会にも出場している。

The Regal

クレイ兄弟がスヌーカー・クラブでひと悶着おこす場面がある。 これはベスナルグリーンの「The Regal」(Eric Street, off the Mile End Road)。

The Regalは何かとトラブルの絶えないスヌーカークラブで、兄弟はこれを買収。 マルタ島系のギャングがみかじめ料をせしめようとやって来たとき、双子は返り討ちにする。ひとりは銃剣で手のひらを刺され、もうひとりは命からがら逃げ出した。

他に賭け屋の用心棒をやったりと、ふたりは次第にイーストエンドでの実力を高めてゆく。

スーツはサヴィル・ロウ仕立て

スヌーカー場を高級クラブに改装し、そのオープニングセレモニーの準備をする兄弟。 スーツはロンドンの高級紳士服を扱う通りサヴィル・ロウで誂えたもので、英国紳士的なブレイザーズ(サスペンダー)、モノグラム入りのシャツなどを身に着けている。

ヴィクトリア・パーク

「ヴィクトリアパークの池が干上がったら何が出てくると思う?(中絶した)赤ちゃんの死体よ。」ローズおばさんが戦時中に女性たちが味わった苦労について語る言葉。 イギリスで人工妊娠中絶が解禁されたのは1967年なので、闇で処置してもらった女性たちは公園の池にこっそり沈めに行ったということか。

ヴィクトリア・パークは、ハックニーとベスナルグリーンの中間くらいの位置にある公園。

母方の祖父も昔素手の賭けボクシングをヴィクトリア・パークでやっていたそうだ。

ハネムーンはホワイトクリフで

レジーとフランシスはハネムーン旅行中にイングランド南東部の、いわゆる「ホワイトクリフ」と呼ばれる白い石灰岩質の崖の上でピクニックをしている。 (注:実際のレジー夫婦が訪れたのは、ギリシャのアテネだったとか。)

いかにもイギリス的なピクニック・ハンパー(かご)に、モエ・エ・シャンドンを添えて。 ポークパイ、フルーツなども見える。 レジーか構えているカメラはYASHICA。

ふたりきりの時間を楽しんでいるところにロニーがやってきて、可愛がってくれたおばローズの死を告げる場面が。 しかし、実際にはローズはふたりの結婚よりだいぶ前に(1957年12月)死んでおり、しかもちょうどその時ロニーはCamp Hill prisonで服役中でおばの死に目に会えなかった。

ギャングも紅茶

クレイ兄弟一派のギャングたちが集まると、母のヴァイオレットは彼らに紅茶を運んでやる。 ギャングたちの会合でも口にしているのは紅茶というところがイギリス的か。 出されたビスケットを紅茶に浸して食べている。

ポットにあったティーコゼーをかけているところがほほえましい。

同性愛

ロニーは同性愛者であるという自分のセクシュアリティを隠そうとしなかった。 イングランドとウェールズで、成人(21歳以上)男性間の合意に基づく私的な性行為が解禁されたのは1967年のことなので、これは非常に大胆な振る舞いといえようか。 1964年には貴族院議員Boothby卿との仲がマスコミに取りざたされている。この映画の中でもロニーは年下の青年とベッドをともにしている場面が。

しかしながら、晩年ロニーは獄中で二度女性と結婚している。

セレブリティとの交際

クレイ兄弟は政財界や上流階級との交際もあり、しばしば政治家や貴族などセレブリティとの交際を誇っている。

チャリティ

クレイ兄弟がチャリティに貢献していたという新聞記事が登場するが、実際に彼らはギャングであるにもかかわらず慈善活動などにも積極的にかかわっていたらしい。

雑貨屋

イーストエンドの行きつけの雑貨屋ではクレイ兄弟とその関係者をお得意様として特別待遇している。 フランシスがお使いにやられた時も、長い行列を無視して特別に店主に相手をしてもらって苦痛を覚える。

この店内にレトロな「OXO」の看板が見える。(注:OXOはイギリスの固形スープキューブ)

Trivia

ロニーは実際に子供の頃「眉毛がくっついている」といじめられたことがあるそうだが、ロニー役のガリー(ゲイリー)・ケンプも眉毛がくっついている。

双子を演じたスパンダー・バレエのケンプ兄弟のルックスは、「一卵性双生児」というにはかなり違っているが、双子は子供の頃ジフテリアにかかったときの症状の違いで発育に差が出ていたとも言われている。

ペラムの若妻を演じたセイディ・フロストは、この映画の撮影当時は主演のGary Kemp(スパンダー・バレエ)と結婚していた。

 

年表

1933 10月24日
レジー(レジナルド)&ロニー(ロナルド)生まれる。当時のクレイ家はStene Streetに住んでいた。
父チャーリー、母ヴァイオレット。長男チャーリーJr.は7歳(1926年生まれ)。
   
1939 9月
英独戦争始まる(第二次世界大戦)

クレイ一家、ベスナルグリーンのVallance Road178番地に転居。

1940 母子はSuffork州Hadleighに一時疎開する
1941 レジー&ロニー、ジフテリアにかかる。 レジーはすぐ回復したが、ロニーは重症だった。
1945 第二次世界大戦の終わり
1952 1952年3月、兄弟兵役に就く
2年間の兵役だったが、軍曹に暴行を働いたり脱走したりして営倉で過ごすことが多かった。
   
1957 クリスマス
おばのRose死亡。そのためCamp Hill prisonで服役中のロニー、精神状態おかしくなる。
1959 ロニー釈放
   
1964 ロニー、貴族院議員Boothby卿との仲がマスコミに取りざたされる
1965 1月10日
Hew McCowanのウェストエンドにあるクラブthe Hideaway

4月20日
レジーは友人フランクの妹であるFrancis SheaとベスナルグリーンのSt James’s Church で結婚。(レジー27歳、フランシス16歳)ハネムーンはアテネ。

1966 1966年にRushey Greenにあるクラブ「Mr Smiths」で銃撃戦

1966年にロニーはパブ「the Blind Beggar」でGeorge Cornellの頭を撃ち抜いている

1967 レジーの妻Francis自殺(薬のオーバードーズで死亡)、Chingford Cemetery に葬られる

10月28日
レジー、ロニーにそそのかされてJack 'The Hat' McVitieを殺す。, Stoke Newington(Evering Road)の地下室に誘い出し、刺殺した。

1968 5月8日
レジー&ロニー逮捕。対立するギャング、ジョージ・コーネルとジャック"The Hat"マクビティを殺害した罪で、投獄される。
   
1982 母ヴァイオレット死亡。
   
1995 3月17日
ロニーは服役して28年経った頃獄中(Broadmoor Prison Hospital)で死亡(心臓発作)。
2000 4月
長兄チャーリー死亡

10月1日
レジーは32年服役した後釈放されたが、間もなく死亡。

 

ロケ地

Caradoc Street, Greenwich, London

Reading, Berkshire, England

ホワイトクリフ

Awards

ポルトガル国際映画祭:International Fantasy Film Award受賞
フランダース国際映画祭:Georges Delerue Prize受賞
英アカデミー賞(BAFTA):助演女優賞ノミネート(Billie Whitelaw)

キャスト

Gary Kemp .... Ronald Kray
Martin Kemp .... Reggie Kray

Billie Whitelaw .... Violet Kray(母)
Alfred Lynch .... Charlie Kray(父)
Roger Monk .... Charlie Jr. (長兄)
Kate Hardie .... Frances(Reggie Krayの妻)
Susan Fleetwood .... Rose (クレイ兄弟のおば)
Charlotte Cornwell .... May (クレイ兄弟のおば)
Jimmy Jewel .... Cannonball Lee (双子の祖父)

Tom Bell .... Jack 'The Hat' McVitie(クレイ兄弟と対立するギャング)
Steven Berkoff .... George Cornell(クレイ兄弟と対立するサウスロンドンのギャング)
John McEnery .... Eddie Pellam(クレイ兄弟と対立するギャング)
Philip Bloomfield .... Charlie Pellam(クレイ兄弟と対立するギャング)
Sadie Frost .... Sharon Pellam (Charlie Pellamの妻・Francesの学友)
Gary Love .... Steve(ロニーの愛人)

 

参考資料とソフト

imdb.com/Title?0099951

www.thekrays.co.uk
www.thekrays.com
www.reggiekray.com

The Kray Twins: Brothers in Arms_ by Thomas L. Jones
Crime Library
www.crimelibrary.com

『ザ・クレイズ―冷血の絆』
John Pearson (著) 吉岡 晶子 (翻訳)ハヤカワ文庫NF (1991/06)

Profession of Violence - The Rise and Fall of The Kray Twins
John Pearson (著) (1994/07/01) HarperCollins

『恐怖の都・ロンドン』
スティーブ・ジョーンズ (著) 友成 純一(訳)ちくま文庫(1997/05)

 


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