監督は「クルーシブル」のNicholas Hytner。脚本はAlan Bennett。
Alan Bennett原作による大ヒット舞台劇"The Madness of George III"の映画化。主役のNigel Hawthorneは、その舞台を三年間演じてきた舞台の名優。
1788年、国王ジョージ3世に異変が起こり始める。早朝から寝間着で野原を駆け巡ったり、女官長に抱き付いたりする国王に周囲は手を焼き、隔離されてしまう。父親の反対する女性と密かに結婚していた皇太子は、国政を自由に動かすため、愛する女性との結婚を晴れて公にするために、王位簒奪を画策する。 悲しみにくれる王妃、政治的に暗躍する臣下たち・・・そんななかで一人の医師が国王の狂気を治すために立ち上がる・・・
現ウィンザー朝王室と直接つながりがある国王の狂気(しかも遺伝性の病気が原因の)を描いてしまうというなんとも大胆な作品。
*ハノーバー朝はドイツ系だったので、大戦中に敵国ドイツに対する国民感情に配慮して、サクス・コーダ・バーグ、後にウィンザー朝と改名したが、実質は一つの王朝。 この作品の中で王が「eins, zwei, drei. . . 」と臣下にドイツ語を披露してみせるのも、納得。
在位1760-1820。父は皇太子のFrederick Louisだったが早く亡くなった(1751)ため、祖父のジョージ2世から王位を継ぐ。植民地アメリカを失う。1783年小ピットを呼び寄せ、ウィッグ党の優越政権は終わりを告げる。 1810年精神障害が顕著になったため、皇太子(のちのジョージ4世)が摂政になる。
舞台はアメリカ合衆国が独立したばかりの1788年から始まる。内心では独立を認めたくないのでついついアメリカのことを「植民地は・・」と言ってしまう。
またこの頃ミノルカをはじめとする他の植民地も次々に失ったため、残ったのはインド・カナダ・ジブラルタルだけだった。「ミノルカとジブラルタルを交換したいと伝えてくれないか」という台詞も、こういった時代背景を反映している。
このジョージV世の時代に内閣制度が復活し、現在のように首相は下院の多数派党首が就任することになった。この作品に出てくる首相ウィリアム・ピットは、同名の父親と区別するために一般に小ピットと呼ばれる。
Rupert Everettの演じるPrince of Wales(皇太子)はこの作品中でも「デブ、デブ」と父親に罵られる不肖の息子だが、実際大酒のみの浪費家で評判だった。反面で芸術関係にも理解があり、ウォルター・スコットやジェーン・オースティンなど文化人を後援し、バッキンガム宮殿を建て、ブライトンにパビリオンを建設した。
皇太子がカトリックのマリア・フィッツハーバート夫人と密かに結婚していたことが問題に。←イギリスの宗教は英国国教会なので、カトリックは一段低く見られていた。法律的にも1673〜1828年に施行されていた「審査法」(=公職就任の際に王への忠誠と国教信奉の先生をさせた法律)のために、カトリック教徒は高官のポストから締め出されていた。
シェイクスピアの「リア王」は、財産を早めに譲って引退したために子供たちに裏切られ発狂する国王の物語。 この作品をリハビリのため(?)朗読するというのも皮肉なものだ。
この作品ではジョージV世は正気を取り戻しめでたしめでたし・・・なのだが、やはり晩年には完全に発狂してしまい、皇太子が摂政(プリンス・リージェント)として国を治めることになった。彼は父親の死後ジョージ4世として即位した。世間体を重んじてか、マリア(フィッツハーバート夫人)は結局捨てられてしまうのだ。
現代の王室に対する痛烈な皮肉が読み取れる:皇太子の愛人問題、王(女王)が長生きしたために成年になっても王位に即けない皇太子の焦り・・・「もっと理想の家族らしくしろ」という台詞は今の王室にこそ必要な言葉かもしれない。(We must try to be model of a family. There are model fam now, model villages, even model factories. We must be a model family what the nation to look to.)
ロング・ギャラリーを含む屋敷内のインテリアと幾何学式庭園を撮影に使用。
ロンドン西郊ブレントフォードの近くにあるノーザンバーランド公爵所有の400年の歴史を持つマナーハウスで、世襲相続者のいるロンドン地区唯一の大邸宅。 著名な造園家"ケイパビリティ"ブラウンが手がけた80haの広大なサイオン・パーク内にたたずむ邸内には、ロバート・アダムの見事な室内装飾が見られる。 12haの庭園内には壮大なコンサヴァトリー(温室)がある他、珍しい樹木の種類は200余りに昇る。邸宅は4-10月のみ開館(曜日により休園日あり)。
Syon House, Brentford, Middlesex TW8 8JF....TEL : 0181 560 0881
・・・ウィンザー城の内部として。
美しい林と庭園に囲まれたソールズベリー近郊のマナー・ハウスで、建築家のイニゴ・ジョーンズの設計によるもの。チューダー王朝時代の塔と厨房が現存している。館内に敷き詰められたウィルトン産カーペットと贅を尽くした家具調度が見事な17世紀建築を引き立てる。
Wilton House, Wilton, Salisbury, Wiltshire SP2 0BJ...TEL:01722 743115
小さな湖畔の町を眼下に見下ろし、高く聳え立つアランデル城は、ノルマン人によって建設され、16世紀にノフォーク公爵の手に渡り、現在も公爵家の所有になっている中世風の城。 およそ100年前に11世紀の城の跡地に建てられた。 優れた絵画や家具のコレクション、ライブラリー、兵器庫で有名。 14世紀建築の聖ニコラス教区教会が名高い。
映画の中ではウィンザー城の外観としてジョージ3世が石壁の中に閉じ込められる場面で使用。
Arundel Castle, Arundel, West Sussex...TEL : 01903 883136
・・・国会の場面
この地所には、クラレンス公(ジョージ三世の息子・のちのウィリアム六世)と短期間婚約していたSophia Wykehamの屋敷があった。 ジョージ三世の狂気の兆候が見えたことで、クラレンス公はより高い地位の女性と結婚しなければならなくなったので、婚約を破棄せざるを得なかった。
・・・王妃の居室として
カンヌ映画祭主演女優賞(ヘレン・ミレン)
米アカデミー美術賞
(その他)1999年度英国映画協会によるベスト100作品:42位にランクイン
Nigel Hawthorne .... George III
Helen Mirren .... Queen Charlotte
Ian Holm.... Dr. Willis (元牧師の医師)
Rupert Graves .... Greville大尉 (侍従)
Amanda Donohoe .... Lady Pembroke(マルボロ公の娘)
Rupert Everett.... Prince of Wales(皇太子)
Julian Wadham .... Pitt 首相
Anthony Calf .... Fitzroy大尉
『とびきり愉快なイギリス史』
ジョン・ファーマン (著), 尾崎 寔 (翻訳) ちくま文庫 (1997/04/01) 筑摩書房『英国王室史話』(上)
森 護(著)中公文庫
(1994年 イギリス 110分)
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