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タイトル*マ


『マイ・フェア・レディ』My Fair Lady

監督:ジョージ・キューカー

ジョージ・バーナード・ショーの戯曲「Pygmalion」をもとにしたミュージカルの映画化。コヴェントガーデンの貧しい花売り娘イライザが、音声学者ヒギンズ教授の指導で洗練されたレディに変身する、オードリー・ヘップバーンの溌剌とした魅力が光るミュージカル。

タイトルの「マイ・フェア・レディ」は、高級街である「メイフェア」をコックニー読みすると「マイフェア(eiがaiに変化)になることをひっかけている。

 

■Check!

□コヴェント・ガーデン界隈

1974年にテムズ対岸のVauxhallに市場が移されるまで、青物市で賑わっていた地域で、この映画でも野菜などがたくさん並んでいるのが見える。有名なオペラハウスがある。

□音声学

ヒギンズ教授はしゃべり方から相手の出身地や学歴、現在の住まいなどをピタリと当ててしまう。
たとえば、イライザはLisson Grove(=ロンドン西北部。ハイドパークの北約3キロにある町名)出身、ピカリング大佐はチェルトナム出身、学歴はハロー校&ケンブリッジ大学、インドにも住んでいた。
自称ヒギンズの一番弟子のインチキ音声学者カーパチも、話し方から相手の素性を嗅ぎ分けることができるので、それをゆすりの材料に使っている。

□ピカリング大佐

ロンドン郊外にある名高いパブリックスクールハロー校から、ケンブリッジ大学に進んだという輝かしいバックグラウンドを持つエリート。こういったコースを経てイギリスの上流階級は人脈を広げていく。「ホワイトホールの内務省に勤めている学友」がいるのもそのためか。

ヒギンズ教授に出会った時、ピカリングが滞在していたCarlton Gardensは、軍人の多く住む場所として知られており、Trafalgar Squareの西隣。

「レディと花売り娘の違いは、どう振る舞うかではなくどう扱われるかです」…ヒギンズはイライザのことを小馬鹿にしていたが、ピカリングの方は最初からコックニーまるだしの花売り娘をレディとして丁重に扱っていた紳士的人物。

□階級を隔てる言葉の壁

イライザのひどい下町訛りを聞いたヒギンズは「人間として正しく話す力を授かりながら、シェイクスピアやミルトンの国の言葉を汚している!」と嘆く。「このままじゃ一生どぶ板暮らし・・・」と気付いたイライザは授業料を払うから言葉を矯正して欲しいとヒギンズの家を訪ねることになる。(結局その費用はピカリングが出すことになったが)
のちにイライザはフレディを連れて昔住んでいた青物市場界隈に戻るが、訛りのない美しい英語を身につけた今となってはもう昔の自分には戻れなくなってしまう。

ヒギンズ教授ほどではなくとも、イギリスでは話し言葉でその人のだいたいのバックグラウンドが知れるという。イギリスの元首相サッチャーはLinconshireの片田舎の雑貨屋の娘(=労働者階級)だったが、ティーンエイジャーの頃から中央で政治家になることを志し、アクセントを矯正する学校に通い、奨学金を得てオックスフォード大学に進み、完璧に美しいオックスフォードアクセントを身につけた。

□コックニー

イーストエンドにあるSt.Mary-le-Bau教会の鐘の音が聞こえる範囲で生まれた人が生っ粋のロンドンっ子(=コックニー)と定義される。発音上の特徴としては、[ei]と[ai]の区別がつかないこと、Hの音を落とすことなどが挙げられる。

これを矯正するためにヒギンズ教授が与えた練習問題:「Rain in Spain stays mainly in a plain.」「In Hertford, Hereford, and Hampshire, Harricanes hardly ever happen.」

文法的には二重否定をよく用いる。イライザの台詞「I ain't done nothing wrong.」も「何も悪いことしちゃいない」という意味になる。

□イライザの父親

身持ちの悪いゴロツキ(=Black Adder)のゴミ屋(=dustman)で、娘にまで小銭をせびる。イライザがヒギンズの家に引き取られたことを知って、きっかり5ポンドゆすりにきた。「not a penny less, not a penny more!」

ハウンズロー育ちで母親はウェールズ出身。ダストマンらしく裾を絞ったズボンをはいている。中産階級道徳の批判をしてヒギンズに気に入られ、冗談半分で講演会に推薦され金持ちになってしまうが、そのせいで中産階級のモラルに縛り付けられるようになったことを嘆く。

□ヒギンズ教授

彼の家がある27A Wimpole Streetは当時医者や学者の多く住む住宅地で、現在の地下鉄の駅でいうとRegent St.、Bond St. 、Oxford Circusの3駅に囲まれたあたりで、高級ショッピング街メイフェアにもほど近い。ハウスキーパーのMrs. Pearceが用意したイライザの部屋は白を基調としたもので、ウィリアム・モリスの壁紙も。教授の母親はアスコット競馬の初日にボックス席を確保していることからも伺えるように、社交界の名流婦人。

□アスコット競馬

上流階級の人々が集う社交の場で、みな美しく着飾ってくる。

練習のためにイライザも連れてこられたが、綺麗なドレスを着てすましていても「やっちまう(=done her in:”殺す”という意味の口語)」などと、レディにあるまじき珍妙な言葉づかいをしてしまう。イライザに一目ぼれしたフレディは、のちに彼女への想いを歌う場面で、この表現を応用していたのが面白い。

□George Bernard Shawの戯曲「Pygmalion」

「ピグマリオン」はギリシャ神話に登場する彫刻の得意なキプロス島の王の名で、自分で作った彫像ガラテア(Galatea)に恋して、女神ヴィーナスに祈ってガラテアに生命を与えてもらい、妻にした。「自分で作り上げたモノに恋をした」という点で、美しい英語を教え込んでどこに出しても恥ずかしくない立派なレディを作り上げたヒギンズ教授のイメージとダブらせている。

George Bernard Shaw(1856-1950)アイルランド・ダブリン生まれ。1924年にノーベル文学賞。皮肉屋で有名なShawの戯曲の結末は、このハリウッド映画のようにハッピーエンドとはいかないのだが。生身の人間をモノとして改造しようとする上流インテリ階級の倣岸さに対する批判も。

 

■ロケ地

コヴェント・ガーデン
Ascot racecourse, Berkshire

 

■Awards

アカデミー賞8部門受賞(作品賞、監督賞、主演男優賞、撮影賞、美術監督賞、音響賞、編曲賞、衣装デザイン賞)

 

■キャスト

Audrey Hepburn .... Eliza Doolittle
Rex Harrison .... Henry Higgins教授
Stanley Holloway .... Alfred P. Doolittle (イライザの父)
Wilfrid Hyde-White .... Hugh Pickering大佐
Gladys Cooper .... Mrs. Higgins (ヒギンズ教授の母)
Jeremy Brett .... Freddie Eynsford-Hill (イライザに想いを寄せる青年)
Theodore Bikel .... Zoltan Karpathy (自称ヒギンズの一番弟子のハンガリー人)
Mona Washbourne .... Mrs. Pearce (ヒギンズ教授の家のハウスキーパー)
Isobel Elsom .... Mrs. Eynsford-Hill (フレディの母)

(1964年アメリカ 172分)

「マイ・フェア・レディ」日記
セシル ビートン (著)キネマ旬報社(1996/08/01)

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