タイトル*
監督:マイケル・ウィンターボトム
脚本: John Forte
撮影監督:ブノワ・デロム
北アイルランドの首都ベルファスト。結婚して5年になるロージーとヴィンセントはそろそろ子供をと考えていたが、なかなか子宝に恵まれない。そんな二人の前に現れたのは、ロージの昔の文通相手にして初恋の人、夫とは正反対のロマンティックなフランス人ブノワ。そこにヴィンセントの昔の恋人キャシーもからんで、夫婦の関係に微妙なさざなみが立ち始めるが・・・?
□ウォーターフロント・ホール
ロージーが受付嬢として勤務しているのは、ベルファスト中心部、Lagan川沿いに立てられた多目的施設「Waterfront Hall」。 ロージーが「昔ここがバス・ステーションだった頃、ファースト・キスをした」という台詞があるように、このホールができる前はここにバスステーションがあった。(昔の地図で確認済み)
ロージーとブノワは、このホール内のレストラン「The Waterfront Brasserie」から外を眺めて、王立裁判所やドネゴール広場を見渡している。参考: Belfast Waterfront Hall(http://www.waterfront.co.uk)
□北アイルランド
南北に分裂したアイルランド。ベルファストを中心とした北アイルランド(6州)はUK(=イギリス)の一部で、南の26州はアイルランド共和国(Eire)として独立。北アイルランドはイギリスの一部としてプロテスタント系住民が多数派を占め、虐げられてきた少数派(3割)のカトリック系住民との抗争が絶えず、長年紛争が続いてきた土地柄。この作品はテロのない新鮮な北アイルランドを描いたとして評価された。
□ケイリー
クラリネットの得意な音楽好きのブノワは、アイルランドご当地ならではの催し「ケイリー(歌と踊りの夕べ)」に興味を示すが、ロージーもヴィンセントも行ったことがない。「ケイリーはカトリックの人達向けなの。ヴィニーも警官だったし。」アルスター警察=支配階級であるプロテスタント系住民のヴィンセントが、カトリック住民の集まるケイリーに参加したことがないのは当然といえば当然か。
□警官という職業
ヴィンセントはロージーの父親が経営するガラス屋を手伝っているが、元は警官。妻のために誇り高い職業を辞めた。
北アイルランドのアルスター警察では、93パーセント以上の警官がプロテスタント系と言われているが、友人のブライアンやニールも当然プロテスタント。参考文献『アイルランド問題とは何か―イギリスとの闘争、そして和平へ』 鈴木 良平 (著)
□「オレンジ党員にでもなれば?」
日曜はゴルフに行きたいという夫のヴィンセントに対し、「ゴルフは口実で、本当は男友達と騒ぎたいんでしょ。オレンジ党員にでもなれば?」と不満を漏らすロージー。
「オレンジ党」というのは、オレンジ公ウィリアムと呼ばれたウィリアム3世(ボイン川の戦いで勝利しプロテスタントの優位を決定的にした英国王)にちなんで名づけられてたプロテスタント系の団体。アイルランド共和国との併合を拒否し、イギリスに忠誠を誓っている。ベルファストでは毎年7月12日のボイン川戦勝記念日に、黒い背広にオレンジ色の肩飾りをかけたオレンジ党員が、旗を掲げて笛や太鼓を打ち鳴らし、市内(特にカトリック居住区)を練り歩いている。
「騒ぎたいのならオレンジ党員にでもなれば?」というのは、このパレードを念頭に置いた台詞だろう。
□Sunday Dinner
日曜昼に、ロージー夫婦とブノワは、ロージーの実家のSunday Dinnerに招かれる。 Dinnerというと日本では"夕食"のイメージだが、もともとは一日のうちで一番豪華な食事を指すので、しばしば昼食のことをDinnerと表現するケースが少なくない。 ブノワも「thanks for dinner.」と礼を言っている。特に日曜の昼食は家族が顔を揃える賑やかなものになる。
□「TVではIRAのことばかり」
ロージーの実家に食事に招かれたブノワ。ロージーの母に北アイルランドの印象を尋ねられ「いいところです。TVとは大違い」と答える。それを聞いたロージーの父は「TVではRepublican(字幕:IRA)のことばかりやっていて、わしらのことなんか取り上げる余地はない。この国を築いた人々なのに」と。 Republicanとは、イギリスの支配を脱し、アイルランド共和国との統合を望むカトリック系住民のこと。北アイルランドを築いたプロテスタント入植者の子孫としてのアイデンティティがそう言わせるのだろう。 「カトリックに反感はない」と付け加えてはいるが。
□80年代の音楽
この作品のタイトルにもなったU2の名曲「With or Without You」をはじめとして、スパンダー・バレエの「True」など、ロージーとブノワが文通をしていた1980年代のヒットソングが随所に散りばめられ、いい雰囲気を出している。ロージーが昔飼っていた黒ウサギは「ボノ」(U2のヴォーカルの名)という名前だったというエピソードも。
□スーパー
ロージーとブノワが買い物をしていた大型スーパーは、生協の一種「Co-operative Wholesale Society」。イギリス各地に店舗展開。
Co-operative Wholesale Society (http://www.co-op.co.uk)
□「スコットランドに帰れ!」
ロージーの嫌味な上司オーモンド氏はスコットランド出身らしい。ロージーは彼に対する不満を「スコットランドに帰れ」という歌にぶつけてストレス解消した。
□パブのある風景
ブノワの希望で、ロージー夫婦は初めてカトリック系住民が集まるパブにケイリーを見に行く。
ロージーが仕事を辞めてきた後パブに寄り、ウィスキーを飲む場面が。「ウィスキーは年を重ねるほど美味ね。」
□結婚式のケーキは
イギリスでは、段重ねになった結婚式のケーキの最上段を、最初の子供の洗礼式のときまで大切にとって置くという風習がある。砂糖をたっぷり使ってあるどっしりしたケーキなので、ちょっとやそっとのことでは腐らないのだが、結婚から5年もたってしまってロージーは「カビだらけよ」と嘆く。(実際はカビは生えていなかったようだが)
□Belfast Waterfront Hall
WebSite: http://www.waterfront.co.uk
Address: 2 Lanyon Place, Belfast BT1 3WH□Belfast International Airport(www.bial.co.uk)
□王立裁判所, Belfast
□The Crown Bar
Europa Hotelの真正面にあるベルファストで最も有名と思われる歴史あるパブ。お店めぐりをしていたブノワが伝統あるパブから出てくる場面、ロージーが辞めた後ブノワとウィスキーを飲むのもこのパブ。(情報提供:Eikoさん)
www.belfasttelegraph.co.uk/crown/□Europa Hotel, Belfast
市庁舎のすぐ近くにある、ベルファストで最も有名なホテル。Great Victoria st.□Donegall Square, Belfast
市庁舎(city Hall)に面した広場で、ヴィクトリア女王の像が立っている。□Macgilligan Strand, Limavady(砂浜)
□北ロンドン
□Formby Beach(リヴァプール近郊)
Christopher Eccleston .... Vincent Boyd (元警官・ロージーの夫・34歳)
Dervla Kirwan .... Rosie Boyd (受付嬢・29歳)
Yvan Attal .... Benoit (ロージーの文通相手・フランス人)
Julie Graham .... Cathy (美容師・Vincentの昔の恋人・Rosieの元親友)Alun Armstrong .... Sammy O'Neil (Rosieの父・ガラス工務店経営)
Fionnula Flanagan .... Irene O'Neil (Rosieの母)
Donna Dent .... Lillian (Rosieの姉妹)
Lloyd Hutchinson .... Neil (警官・Vincentの友人)
Michael Liebman .... Brian (警官・Vincentの友人)
Doon Mackichan .... Deidre (Rosieの同僚・受付嬢)
Gordon Kennedy .... Ormonde (Rosieの嫌味な上司)
■参考文献・ソフト
国内盤DVD
Official Site:(アスミック)
参考文献
『アイルランド問題とは何か―イギリスとの闘争、そして和平へ』
鈴木 良平 (著) / 丸善ライブラリー/ 新書(2000/03/01) ISBN: 4621053159
(1999年 イギリス 90分)
監督・脚本:パトリス・シェロー・・・『王妃マルゴ』『愛するものよ、列車に乗れ』
原作:ハニフ・クレイシ「ぼくは静かに揺れ動く」アーティストハウス刊
脚本:Patrice Chereau/Anne-Louise Trividic
薄曇りの冬のロンドン。1年前に妻子と別れてひとり暮らしをしているバーテンダー、ジェイ。彼のもとには毎週水曜日の昼下がりにやってくる女がいて、ふたりは互いの名前も素性も知らないまま言葉も交わさずに情交を重ねる。 肉体だけのつながりであたはずが、しだいにふたりの間にはある種の親密さが育ってゆく。ところがある水曜日に女が訪れなかったことからジェイは彼女の素性が気になり始め、あとを尾ける。そして彼女=クレアはアマチュア演劇の女優であること、夫と子どもがいる幸せな人妻だということを知るのだが・・・。
□ジェイのフラット
キッチンには、Kencoインスタント・コーヒー(イギリスで人気があるコーヒーブランド)の瓶が。
www.kencocoffee.co.uk牛乳のプラスティック・パックなども見える。壁紙はウィリアム・モリスの柳柄。
家を出る前のジェイは妻子とともにロンドン中心部にも比較的近い(この地域にはテート・ギャラリーなどもある)Pimlicoに住んでいたが、別居した後はぐっと家賃が安いロンドン南部ニュークロスにあるフラットに居を構えたようだ。フラットの近くに「(ロンドン大学)Goldsmiths College」が近いことを示す自転車マークがついた看板や、「New Cross Road(SE14)」という道路標識がある。
Goldsmiths College
Lewisham Way New Cross
London SE14 6NW
www.goldsmiths.ac.uk
□交通機関いろいろ
クレアの後を尾ける際にジェイはダブル・デッカーや地下鉄などを乗り継いでゆく。クレアの家はWandsworth(SW18)にある
□パブシアター"The Earl Derby"
クレアの劇団がテネシー・ウィリアムズの名作"ガラスの動物園(The Glass Menagerie)"公演していたのは、パブ"The Earl of Derby"の地下にある小劇場。 一階は普通のパブで、スヌーカーで遊べるようにもなっている。 妻を待つ間アンディはスヌーカーに興じる。
#このパブは「ウェスト・ケンジントンにある」という言及も見られるが、同名のパブがKensal Town(W10)に実在し、尚且つサウンドトラックのに「Wandsworth Road/Kensal Town」という曲名のものがあるらしいことを考え合わせると、実際にはKensal Townにあるパブが使われた可能性も高い。このパブをご覧になった方がいましたらぜひご連絡ください。
The Earl Derby, 50 Bosworth Road London W10 5EG
uk.multimap
□ハニフ・クレイシの原作
『マイ・ビューティフル・ランドレット』の脚本でも知られるハニフ・クレイシ。パトリス・シェローは本作を作るにあたって、クレイシの4つの作品からインスパイアされたそうだ。 この4品とエッセイが収められた『Intimach and Other Stories』という作品集もイギリスで出版されている。(参考:一連のクレイフ作品を翻訳された中川五郎氏のコメントより)
- 長編小説「ぼくは静かに揺れ動く」
- Nightlight
短編集『Love in a Blue Time』に収録- 会う時は他人(StrangerWhenWeMeet)
短編集『Midnight All Day』に収録- In a Blue Time
短編集『Love in a Blue Time』に収録
ソーホー
・・・ジェイが勤めるバーがあるところ。エレファント&カッスル
・・・ジェイがクレアを尾行する場面で通るマーケットなどニュークロス(ロンドン南部)
・・・ジェイのフラットがある地域ワンズワース(ロンドン南部)
・・・クレアの家がある地域バタシー発電所
チェルシー・ブリッジ
ヴィクトリア駅
・・・子どもたちを送っていったジェイが妻に会う場面ヴィクトリア・パーク、Hackney
・・・クレアとベティが散歩する公園
The Clash: London Calling
David Bowie: Candidate
Iggy Pop and James Williamson: Consolation Prizes
Iggy and the Stooges: Penetration
David Bowie: The motel
2001年ベルリン映画祭
グランプリ(金熊賞)・主演女優賞(銀熊賞)・嘆きの天使賞受賞
Mark Rylance .... Jay
Kerry Fox .... ClaireTimothy Spall .... Andy(Claireの夫・タクシー運転手)
Susannah Harker .... Susan (Jayの妻)
Alastair Galbraith .... Victor (Jayの友人・訪問販売業)
Philippe Calvario .... Ian (Jayが勤めるバーの新入り・ゲイ)
Marianne Faithfull .... Betty (Claireの演劇仲間)
Fraser Ayres .... Dave (演劇仲間・ジョイスの"亡命者たち"でBettyの相手役)
Michael Fitzgerald .... Jayが勤めるバーのオーナー
Robert Addie .... Jayが勤めるバーのオーナー
Greg Sheffield .... Jayの息子
Vinnie Hunter .... Jayの息子
Joe Prospero .... Claireの息子
(2000年 仏=英=独=西 121分)
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