監督：William K. Howard
原作小説：A.E.W. Mason
1587年、無敵艦隊を擁する強国スペインとの緊張関係が高まっていたエリザベス朝のイギリス。 スペイン側に情報を送っていたスパイのヴェインを吐かせる前に誤って殺してしまったため、イギリス宮廷にひそむ裏切り者の名を知るために、彼と背格好の似たマイケルをスパイとしてスペインに送り込み・・・
名高い無敵艦隊撃破の史実に緊迫感あふれるスパイ合戦の妙味を加えた歴史劇。 のちに結婚するローレンス・オリヴィエとヴィヴィアン・リーはこの作品で共演したことをきっかけに交際を始めたとか。
1588年、スペインのフェリペ二世は当時世界最強といわれた130隻からなる艦隊をイギリスに差し向けた。 （フェリペ二世はエリザベスの異母姉メアリー一世の夫でもあった。）エリザベスがカトリックであるスコットランドの女王メアリー・スチュワートを処刑したこと、ネーデルランドの(スペインからの)独立を支援したことなどが、原因だった。 この海戦での劇的な勝利の結果が、イギリスとエリザベスが国際社会において大きく発展する足がかりとなり、スペインの発言力は低下・凋落をたどることとなった。
イギリス艦隊最高司令官：ハワード・エフィンガム(Howard Effingham)
副官：フランシス・ドレイク(Francis Drake)、ジョン・ホーキンス(John Hawkins)スペイン艦隊最高司令官：メディナ・シドニア公(Duke of Medina Sidonia)
副官：フロレス・デ・バルデス(Diego Flores de Valdez)
この作品の中でスペイン人に「エル・ドラコ」と呼ばれていたフランシス・ドレイク。
1577年晩秋にプリマス港を出発したドレイクは、南米のチリやペルーなどスペインの植民地を襲撃し、スペイン人が国に持ち帰ろうとした金銀を強奪し、1580年にゴールデン・ハインド(The Golden Hind)号で帰国しイギリスに莫大な富をもたらした。大西洋からマゼラン海峡を経て太平洋を横断し、インド洋から喜望峰を経てイギリスに戻った彼は、マゼランについで2番目に世界周航を果たした人物となる。この功績により、彼はゴールデン・ハインド号の上でエリザベスからナイトの称号を与えられる。
1587年ドレイクはカディス湾でスペイン艦隊を攻撃し、翌1588年には副官としてイギリス艦隊の実質的な指揮をとり、スペイン無敵艦隊を撃破した。
エリザベスがスペインから、イギリス人による海賊行為を取り締まるよう要請されている場面があったが、彼女はこれら海賊行為を黙認、陰では奨励さえしていた。
「陽の没することのない」大帝国スペインの国力を少しでも弱め、同時に逼迫するイギリスの財政状況を改善するのに役立つからである。
ドレイクが1577年に南米に遠征した折もスペイン船から大量の銀を強奪し、遠征に際して出資したエリザベスやレスター伯を始めとして宮廷の主だった人々も大いに潤ったとか。
ドレイクの海賊行為によって、イギリスはかねてからの懸案事項であった外国からの借金も綺麗に清算できるだけの金銀を得、さらに海外進出・投資の資金となった。
モンティ・パイソンのスケッチにも取り上げられ邸たが、スペインの宗教裁判は苛烈を極めたことで恐れられていた。 エリザベスの父王ヘンリー八世は自らの離婚問題を発端にローマン・カトリック教会からの離脱を宣言し、英国国教会を作った。 エリザベスの姉メアリーの時代にカトリックに戻ったが、エリザベスの時代は再び英国国教会に。 そのイギリスからやってきたマイケルの父は、カトリックの国スペインから見ると「異端」ということで宗教裁判にかけられたのだ。
マイケルがドン・ミゲルの館に厄介になっている間、その娘エレナと親しくなる。 エレナは「珍しい果実(fruit)よ」といって、ジャガイモを火にくべている。 ジャガイモはスペイン人が新大陸から持ち帰ったもので、当時は非常に珍しいものだった。
エリザベスが、スコットランドの女王メアリに仕えていたという老婆から命を狙われる場面がある。 メアリーの処刑はイギリスが無敵艦隊と対決する直前の1587年。
メアリーについて詳しくは>>『クイーン・メリー／愛と悲しみの生涯』Mary, Queen of Scots (1971)
この作品で"ロビン"と呼ばれ女王の最も側近くに侍っていたレスター伯は、実はエリザベスの愛人でもあった。 映画『エリザベス』Elizabeth(1998)でジョセフ・ファインズが演じていた役。 ロビンは若い頃結婚していた女性エイミー・ロブサートが1560年に謎の事故死を遂げ黒い噂が立ったが、その後エリザベスの愛人でありながら再び1570年にフィリップ・シドニー卿未亡人レティス・ノリスと秘密結婚していた（この再婚は1578年に発覚し女王の怒りを買う)。
マイケルとシンシアという結婚間近の若い恋人たちに宮廷から出て行って欲しいというエリザベスに対し、「私も既婚者ですよ」とレスター伯が言っている。
エリザベスはシンシアの年齢を聞き、この台詞をつぶやく。 エリザベスはヘンリー八世の娘として生まれながら幼少時から波乱の連続。 18歳の時に幽閉されていたというのは、ワイアットの乱との関りを疑われ、ロンドン塔に幽閉されていたことを指す。 この事件に関して徹底的な証人喚問が行われたがついに証拠は挙がらず、2ヶ月後にウッドストック城へ移される。
スペインから情報を集めて戻ったマイケルの手柄を称え、エリザベスは傍らにいたロビンの剣をとり、マイケルの両肩を剣で軽く叩いてKnightの位を授ける。
無敵艦隊を迎え撃とうと集結した兵士たちを前に、エリザベスがティルベリーで"My loving people..."と激励する場面。君主自ら戦地に赴いたこの時のスピーチは歴史的名演説としてよく知られている。
I know I have but the body of a weak and feeble woman; but I have the heart of a king, and of a king of England, too;
それぞれの人物についての解説は>>『エリザベス』Elizabeth(1998)
Queen Elizabeth I(1558-1603)
レスター伯ロバート・ダドリー
バーリー男爵ウィリアム・セシル(1520-1598)
スコットランドの女王メアリ
スペイン王フェリペ二世
Flora Robson .... エリザベス一世
Leslie Banks .... ロビン(レスター伯ロバート・ダドリー)
Laurence Olivier .... Michael Ingolby
Lyn Harding .... Sir Richard Ingolby(マイケルの父、ドン・ミゲルの親友)
Vivien Leigh .... Cynthia(バーリー卿の孫娘・マイケルの恋人)
Morton Selten .... 大蔵大臣バーリー卿
James Mason .... Hillary Vane (スパイ)
George Thirlwell .... Lawrence Gregory(裏切り者)
Graham Cheswright .... Joseph Maddison(裏切り者)
Francis De Wolff .... Sir James Tarleton (裏切り者)
Howard Douglas .... Lord Amberley (裏切り者)
Roy Russell .... Sir Humphrey Cooper (裏切り者)
Cecil Mainwaring .... Lord Illingworth (裏切り者)
Raymond Massey .... スペイン王フェリペ二世
Robert Rendel .... Don Miguel(Sir Richard Ingolbyの親友でマイケルを助ける)
Tamara Desni .... Elena（ドン・ミゲルの娘)
Robert Newton .... Don Pedro
Donald Calthrop .... Don Escobal
Charles Carson .... Valdez提督
Henry Oscar .... スペイン大使
小学館『日本大百科全書（ニッポニカ）』ポケット版データベース
www.bbc.co.uk/history/timelines/britain/tud_henry.shtml
www.bbc.co.uk/history/historic_figures/drake_francis.shtml
www.bbc.co.uk/history/state/monarchs_leaders/adams_armada1.shtml
(1937年 イギリス 87分)
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