UK雑記帖
たとえば中東問題〜イギリスの三枚舌〜
イスラエルとアラブ諸国の対立の主な原因を作ったのがイギリス。 第一次世界大戦中、アラブ人はイギリス人T.E.ロレンス(アラビアのロレンス)に導かれ、圧政を敷いていたトルコから独立を勝ち取るために戦ったのだが、苦難の末にやっとダマスカスに入城したアラブ人を待っていたのは、英仏の裏切りだった。
第一次大戦中にイギリスが使い分けた、二枚舌ならぬ三枚舌とは次のようなものである。
「フセイン=マクマホン協定」(1916) 英国がアラブ独立の承認と支持を約束した協定。マクマホンは英国の高等弁務官で、1914年に派遣された。
「サイクス=ピコ協定」(1916)英・仏・露の連合国でアラブを山分けするとりきめ。
「バルフォア宣言」(1917)英国外務大臣バルフォアがユダヤ人のウォルター・ロスチャイルド宛てに送った書簡。英国政府はパレスチナ内にユダヤ人の国家を設立することに賛成し、そのための最善の努力を払うことを約束する内容。
結局のところ、アラビア半島で最も肥沃な土地パレスチナはまずイギリスとフランスの統治下に置かれ、のちに第2次大戦後に国連の決議によって正式にユダヤ人に与えられた。 このパレスチナをめぐるアラブとイスラエルの対立が中東戦争の原因である。
ちなみに"アラビアのロレンス"が仕えたファイサル王子が建国したのが現在のイラク。
国力の差こそあれ、暗号もすべてつつぬけながら、ただがむしゃらに戦争に突っ込んでいった大日本帝国と、二枚舌、三枚舌を使い分けて狡猾に戦局を有利に展開していった欧米列強。 そして戦後日本は経済大国になったが、政治大国である欧米諸国の駆け引きの上手さにはまだまだ足元にも及ばない。 外交があくまでも国同士の利益を調整する場である現在、日本政府にもうちょっと巧妙に立ち回ってもらいたいと思っている日本人は私だけではないはずだ。
英国王室
ダイアナ元妃の交通事故死以来、なにかと王室廃止論が盛り上がっているイギリスだが、私個人としては王政を廃止するのは大きなマイナスだと思うのだ。
政治家とは違った切り口で外交に役立つカードを持っているというのも、王室や皇室を持つ国の強み。 たとえば何か重要な集まりがある時に、アメリカはクリントンかそれに準ずる要人を出すしかないだろうけど、イギリスならブレア首相でも、女王や皇太子でも、場合によって使い分けが出来るからより上手く事を運べそうだ。
英国元首の権限:
日本の天皇は現在の憲法では象徴に過ぎないが、英国の女王(または王)は意外に大きな権限を持っている。
- グレートブリテン島および北アイルランド、その他すべての属領(世界にはまだイギリスの統治下にある地域がたくさんある。フォークランド紛争を思い出してみよう)の元首
- 英連邦(the Commonwealth of Nations)の長。コモンウェルスとはイギリス連合王国と、イギリス植民地から独立した諸国から成る連合体のこと。ゆえにカナダ、オーストラリア、ニュージーランドなども英国女王を元首に戴く。
- 全軍の最高司令官。(議会の承認なしで命令を下せるのだ!)
- 英国国教会(アングリカン・チャーチ)の首長。王が宗教上のトップも兼任しなければならないので、「不倫・離婚した皇太子は次の王にふさわしくない」などと論議が起こるのだ。
植民地政策
香港も今年(1997)中国に返還され、かつての大英帝国の遺産も少しずつ影を潜め・・・ていくように見えるが、実のところ植民地時代に築き上げた利権の構造はそう簡単には揺らがないらしい。
たとえば南アフリカやジンバブエ。 金、ダイヤモンド、ウランなどの鉱物資源の宝庫は現在でもごく一握りの利権者の手に握られている。 私の知りあいのイギリス人自身も「南アの経済はファミリー経営のようなものだから」と言っていた。 商人や実業家だけでなく、政治家や貴族も旧植民地との太いパイプを持っている。 そういえば、ダイアナ元妃の死亡ニュース直後にコメントを発表した実弟のスペンサー伯も、ちょうどその時南アフリカにいたっけ。 デニス・サッチャー氏の南アでのロビー活動は何のため? その妻サッチャー元首相が国際的非難にも屈せず南アへの経済制裁を拒んだのはなぜ?
ただ、イギリス人のすごいところはそれだけ搾取してきても、独立後の旧植民地の人々から怨まれるどころか敬愛すら勝ち得ているところだ。 その植民地経営の巧みさには舌を巻く。 「英国病」だの「斜陽の国」だの言われてたけど、なかなかどうして! やるもんです。
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