監督:アラン・パーカー
原作小説:ロディ・ドイル
「アイリッシュはヨーロッパの黒人だ!」アイルランドの首都ダブリンで、本物のソウル・バンドを結成するべく集まったジミーとデレク、アウトスパン。彼らは新聞広告でメンバー募集をかけたが、次々とやってくる候補者はどれも変なのばかり。 結婚式で泥酔して歌っているところをスカウトされたデコ、聖歌隊出身の三人のコーラスガール、世界中の有名アーティストと共演してきたとはったりをかますジョーイ・ザ・リップス、・・・寄せ集めながらも11人のバンド「ザ・コミットメンツ」の活動がスタートした。 用心棒として雇ったミッカーが、デコとケンカして脱退したビリーの後に入り、女たらしのジョーイはコーラスの女の子たちに次々と手を出して恐怖の四角関係。 デコは益々増長し、音楽の方向性が違ってきたメンバーも。 めきめきと実力をつけレコード会社から契約の話が来るところまでこぎつけながらも、メンバーの心は次第にてんでばらばらになっていき・・・
『スナッパー』『The Van』と続くロディ・ドイル原作の"バリータウン3部作"のひとつ。
「ソウル・ミュージックをやるには、俺たちシロすぎないか?」と問いかけられ、ジミーはこう答える。
「アイルランド人はヨーロッパの黒人だ。 ダブリンっ子はアイルランドの黒人だ。ダブリン北部に住んでる奴はダブリンの黒人だ。」
The Irish are the blacks of Europe. Dubliners are the blacks of Ireland. North Dubliners are the blacks of Dublin.ヨーロッパの中でも(主にイギリス人から)差別と偏見を受けているアイルランド人。 その中でも特に貧しいダブリン北部に住んでいるワーキング・クラスであるジミーたちは、黒人の中の黒人、ソウル・ミュージックを演奏するにふさわしい連中ということだ。
低所得層向けの公営住宅。建物から建物へとヒモが渡され、そこに洗濯ものが所狭しと干されている。
「ザ・コミットメンツ」というバンド名を決める前に彼らが考えていたのは、「ザ・リフィー・ラッズ」(ダブリンの中心を流れるリフィー川+男たち)、そして「ザ・ノースサイダーズ」と、ここにも北部住民であることにこだわっている。バンドのメンバーを集めるにあたっても「サウスサイダーズはお断りだ」と。
ゴージャスな金髪美女イメルダを見て、「彼女なら南の洒落たバーでも似合うな」という場面も。イメルダは家族とマン島にキャンプに行こうとしている場面もあったので、他のメンバーよりは裕福という設定なのかもしれない。
冒頭、ジミーたちがTシャツやカセットを蚤の市で売っている場面。 テレビから洋服まで、ありとあらゆる(ガラクタに近い)商品が並べられている。
バス・・・ジミーがバスの乗客たちにビデオを売っている場面が。「"ミシシッピー・バーニング"ある?」と聞かれているが、これは本作の監督アラン・パーカーの作品。そしてデコの本職はバスの車掌。
DART・・・鉄橋の上を電車が走る場面が
ジミーたちは結婚式の会場で、酩酊状態のデコの歌声に惹かれ、彼をボーカルにすることにした。 花嫁花婿を始め、披露宴に集まった客たちは楽しそうにダンスを踊る。
新聞広告を見て集まったのは、ボーイ・ジョージもどき、ヘビメタ、フォークソング好き、スミス好き(Heaven knows I'm miserable now〜♪)、U2ファン、列ができているからとわけもわからずに並ぶ少年・・・と、イメージに合わない人ばかり。
フィドルでアイルランドの伝統的な音楽を奏でる候補者の音色に乗って、部屋の奥ではジミーの妹たちがアイリッシュ・ダンスを踊っている場面も。
他にはイーリアン・パイプ(Uileann Pipe)奏者、順番待ちの候補者の中にボウラン(片面に皮を張った太鼓のような楽器)を持った男もいた。
Bodhran |
Uileann Pipe |
Fiddle |
デコがドイツ軍の中古コートを着ていたのを始め、Mickahがドイツ軍のタンクトップを、ジミーもドイツ軍のコートを着ている。 「敵(イギリス)の敵(ドイツ)は味方」という解釈は穿ち過ぎ?
バーニーはファーストフードの屋台の売り子として働いている。 彼女はジミーの旧友で、髪形について「シネード・オコナーは卒業か?」と聞かれているところを見ると、昔はスキンヘッズだったのだろう。ジミーは50pのチップス(フライドポテト)だけ買い、塩と酢を振ってもらう。
バーニーのうちはアイルランドらしく子沢山で、父が入院し母が臨月である今、彼女が幼い弟妹の面倒を見ながら家計を支えなければならないが、忙しいながらもバンドが唯一の慰めとなっている。バンドの練習中も、赤ん坊が乗ったベビーカーをゆすりながら歌っている。
トランペッターのジョーイは、サム・クックやオーティス・レディング、B.B.キングなどの有名アーティストたちと共演したことがあると、本当ともホラとも判別しかねることを言っている。彼は「アイルランドにはソウルが必要だと神に言われた」とジミーに告げる。「ソウルがあれば国民同士で殺しあわずにすむ」と。 カトリック系住民とプロテスタント系住民が長年にわたって殺しあってきた北アイルランド紛争のことを示しているのだ。
デコの本職はバスの車掌。 彼の仕事中に、白いベールとドレスを身にまとった初聖体拝領に向かう(又はその帰りの)女の子たちがたくさん乗っている風景が。
バーニーの住む低所得者向け公営住宅を訪ねたジミーは、馬に乗った少年がエレベーターに乗ろうとしているのを見て驚く。馬の蹄鉄屋で働くメンバーがいたり、子供たちの遊び場に馬がいたり、通りで馬車と車の交通事故を目撃したり・・・と、馬がアイルランド人にとって身近な動物であることがわかる。
ジミーはもう2年も失業しているらしく、失業手当をもらうため、その認定日に職安に並んでいたところ、ディーンにばったり。ディーンのほうは失業して3ヶ月だそうだ。 失業中といいながら、ジミーは蚤の市やバスの中でカセットやビデオテープを売って小銭を稼いでいるのだが。
現在の好景気に沸くアイルランドと違って、この映画が製作された当時は慢性的な経済不況にあえいでいた。特に若年層の高い失業率が問題になっていた。
バンドのメンバー同士のたわいもないケンカの中で、ドラマーのビリーがデコに「このジョージ・マイケル、けつにスティックを突っ込むぞ。ワセリンでも塗っとけ」という台詞が。ジョージがゲイであることをカミングアウトしたのは1998年のことだが、この映画が製作された当時、すでにゲイ疑惑があったのだろうか・・・。
ポスター用の写真撮影で、ゴミ捨て場のような場所でポーズを取るザ・コミットメンツの面々。「Butt BridgeでCustom Houseを背景にしたら?」という台詞があるが、バット橋というのはリフィー川にかかる大きな橋で、その北岸にある堂々としたカスタムハウス(税関)は、フォトジェニックな観光客が記念写真を撮るのにぴったりの美しい建物。
注:字幕では"税務署"となっていたが、ダブリンのCustom Houseは旅行ガイドブック等では通例"税関"とされている。
バンドの解散後、デレクとアウトスパンは、グラフトン・ストリートで時々ストリート・ミュージシャンとして演奏している。グラフトン・ストリートはダブリンの繁華街(トリニティ・カレッジの前)にあり、ダブリンで最もミュージシャンが集まる場所。
バンドの中で唯一のインテリであるスティーブンは、教会のパイプオルガンで「青い影」を演奏していた。
ラストにジミーがつぶやいていた台詞も、この青い影の一節。A whiter Shade of Pale
www.procolharum.com/awsop.htm
今や押しも押されぬ人気バンドとなったThe Corrsのバンド結成のきっかけは、この映画のオーディションを受けたことだったという。メンバーの役柄は以下の通り
Andrea Corr (lead vocals & tin whistle) ジミーの妹Sharon.
Jim Corr (guitar) 「Avant-Garde-A-Clue Band」のメンバーとして
Caroline Corr (drums) マリア・ドイル・ケネディがボーカルをとる"I Never Loved A Man."の演奏を聞いている観客として
Sharon Corr (violin) のちにバーニーが加わるカントリー&ウェスタンバンドのバイオリンを弾いているwww.thecorrswebsite.com
www.warnermusic.co.jp/artists/international/corrs/
英アカデミー賞(BAFTA):4部門受賞(監督賞、作品賞、脚色賞、編集賞)、2部門ノミネート
米アカデミー賞:編集賞ノミネート
東京国際映画祭:監督賞受賞
(その他)1999年度英国映画協会によるベスト100作品:38位にランクイン
冒頭の蚤の市
ジミーの家。ダブリン北部
スティーブンがパイプオルガンで「青い影」を弾く教会
ジョーイの母の家の内部と庭。このように庭の中でハシゴを上って移動することは珍しくないのだとか。St Francis Xavier Churchの向い。
ジョーイの母の家の外観
練習場として借りた場所
結婚披露パーティーの場面
Bray Head Hotel, Strand Road, Bray, Ireland
地元のホール
ウィルソン・ピケットを待ちながら演奏していたライブハウス
メンバーがケンカする更衣室
ウィルソン・ピケットが乗っていると思われるリムジンにジミーが遭遇した場面
参考資料:_On Location_ by Brian Pendreigh
Mainstream Publishing (16 October, 1995)
Robert Arkins .... Jimmy Rabbitte(バンドのマネージャー)
Kenneth McCluskey .... Derek Scully(ベーシスト・精肉屋)
Glen Hansard .... Outspan Foster(ギタリスト)
Johnny Murphy .... Joey "The Lips" Fagan(トランペッッター)
Andrew Strong .... Deco Cuffe(リードヴォーカル・本名デクラン)
Michael Aherne .... Steve Clifford(キーボード・医学生)
Angeline Ball .... Imelda Quirke (コーラス・金髪)
Maria Doyle Kennedy .... Natalie Murphy(コーラス・黒髪)
Bronagh Gallagher .... Bernie McGloughlin(コーラス・屋台の売り子)
Dick Massey .... Billy Mooney(ドラマー)
Dave Finnegan .... Mickah Wallace(後任のドラマー・喧嘩っ早い)
Felim Gormley .... Dean Fay(サックス)Colm Meaney .... Mr. Rabbitte(ジミーの父)
Anne Kent .... Mrs. Rabbitte(ジミーの母)
Andrea Corr .... Sharon Rabbitte(ジミーの妹)
Gerard Cassoni .... Darren Rabbitte(ジミーの弟)
Ruth Fairclough .... ジミーの双子の妹
Lindsay Fairclough ...ジミーの双子の妹Maura O'Malley .... Joeyの老いた厚化粧の母親
Liam Carney .... Duffy (故買屋・機材を出世払いで売ってくれるが・・・)Michael O'Reilly .... Greg(イメルダの彼氏)
Mick Nolan .... イメルダの父
Eileen Reid .... イメルダの母
Aoife Lawless .... イメルダの妹
Ger Ryan .... 質屋のおかみさん
Mark O'Regan .... Molloy神父
Phelim Drew .... Roddy(記者)
Sean Hughes .... Dave(Eejit Recordsのスカウト)
原作: _The Commitments_
by Roddy Doyle, Robin Desser (Editor)
(1991年 アイルランド 118分)
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