タイトル*
監督監督・脚本:サリー・ポッター
原作:ヴァージニア・ウルフ
美術:Ben Van Os & Jan Roelfs・・・グリーナウェイ組
衣装:サンディ・パウエル
「決して老いてはならぬ。その若さを失わなければ、おまえとその子孫にこの屋敷を授けよう」16世紀末イングランドでエリザベス一世の寵愛を受けた青年貴族オルランド。その言葉通りに400年の時を超え、性別さえ超えた両性具有の魅力が光る、数奇な運命の物語。ロシアの姫君との恋、失恋して打ち込んだ詩にも挫折、大使として赴いたオリエントの王との友情・・・そして女性への変身・・・!
20世紀英国文学を代表する作家のひとりヴァージニア・ウルフの作品を、映像・音楽・文学と幅広く活躍するマルチ・アーティスト、サリー・ポッターが映画化。
Vita (Victoria Mary) Sackville-West (1892-1962)
原作者ヴァージニア・ウルフは、親友(レズビアン関係にあったとも言われる)ヴィタ・サックヴィル=ウェスト(1892-1962)が、女性であるゆえに彼女の家に先祖代々受け継がれてきたノールの館(Knole, Sevenorks, Kent)を相続できなかったことに想を得て、この作品を創造した。
ヴィータ・サックヴィル=ウェストは由緒あるサックヴィル男爵家のひとり娘として生まれた女流作家で、その生家は一年の日数に倣った365もの部屋と、52の階段がある豪壮なKent州のノールの館。エリザベス一世が従弟の息子トマス・サックヴィルに与えて以来、サックヴィル家の所有となっていた。ヴィータは女性であるがゆえに父からこの館を相続できなかったが、そのかわりに1928年に第4代サックヴィル男爵となったのは、ヴィータの叔父チャールズ・サックヴィル=ウェスト。ウルフの『オーランドー』は、ちょうどこれと時を同じくする1928年に出版され、ノールの館を失ったヴィタの心の慰めとなった。
ヴィタは21歳で外交官のハロルド・ニコルソンと結婚した(1913年)。彼らにはそれぞれ同性愛の恋人がいたが、生涯のよき同士として生活をともにしていた。ヴィータの同性愛の恋人して最も有名なのは、ともに駆け落ちまでしたヴァイオレット・トレフュシス(エドワード7世の愛人アリス・ケッペルの娘)だろう。
ケント州のシシングハースト・ガーデン(Sissinghurst Garden)は、ガーデナーたちの憧れの的として有名な名園だが、ここを現在あるかたちに作り上げたのは、ヴィータとその夫ナイジェル・ニコルソン。シシングハーストはエリザベス一世の行幸を仰いだこともある由緒あるマナーハウスだったが、20世紀前半にはすっかり荒れ果てていた。ヴィタとハロルドはふたりで30年以上もの歳月をかけて「英国一美しい」とまで言われる見事な庭園を作り上げた。綿密に練られたカラースキーム(色彩計画)によって作られたガーデン、特にホワイト・ガーデンが有名。
ナイジェル・ニコルソン(ヴィータの長男)は、著書『ある結婚の肖像』のなかでこの作品を「文学の形式をとった、歴史上もっとも長く、もっとも魅力的なラブレターだ。」と評している。「ヴィタとの友情はヴァージニアの人生のなかで、レナード(ウルフ)との関係、そしておそらく姉のヴァネッサ(・ベル)との関係を除き、もっとも重要な出来事だったろう。」とも。
Queen Elizabeth I(1533-1603)、在位1558-1603
詳しい解説は、映画『エリザベス』の項参照。
オルランドに「決して老いてはならぬ」と命じた女王はエリザベス一世。
「私は国家と結婚した」と宣言し独身を貫いたため、「処女王(The Virgin Queen)」と言われる。オルランドに詩を捧げられた時に、側近(オルランドの父)に「Virgo(乙女)」と呼びかけられていたのはそのため。 もっとも実際は"処女"であろうはずもなく、多くの男性と関係があったのだが。エリザベス一世の晩年期。夜の水上花火の幻想的な風景は、映画『エリザベス』Elizabeth(1998) でも描かれているが、華やか好みの女王らしい催しだろう。
オルランドが足にはめてもらったのは、名誉あるガーター勲章。
女王を男性であるクウェンティン・クリスプが演じ、16歳の青年貴族を女性であるティルダ・スウィントンが演じているところに妙味が。
ファルセット・ヴォイスが美しい歌手(ジミー・ソマーヴィル)が、女王の美徳を称えた「イライザ」を歌っている。
*ジミー・ソマーヴィル:"コミュナーズ"や"ブロンスキ・ビート"の元ヴォーカルで、オープンリー・ゲイ。
*クェンティン・クリスプ:イングランドSurrey出身。作家、俳優と多彩な才能を発揮。自伝小説「The Naked Civil Servant」はのちにジョン・ハート主演でドラマ化。オープンリー・ゲイ。
1980年代にアメリカに移住。スティングの「Englishman in NY」は、クリスプがモデルといわれている。スティングとクリスプは、映画『ブライド』で共演している。
凍り付いたテムズ河上を王侯貴族たちがスケートを楽しんでいる様が描かれているが、実際に1608年にイギリスを大寒波が襲っていたらしい。
ロシアの姫君サーシャが話すフランス語をイギリスの貴族たちは理解できない。フランス王室とも縁の深い、スコットランドのスチュワート王家出身の王ジェイムズ一世の宮廷でさえこれなのだから・・・
オルランドの婚約者ユーフロシニー:原作ではアイルランドのデズモンド家の出だと説明されている。サーシャの真心を疑うオルランドが見ていた芝居は、シェイクスピアの「オセロ」。嫉妬のあまり妻をあやめてしまう悲劇の将軍の物語だ。(オセロを演じていたのは、Dameマギー・スミスの息子にして若手の実力派俳優トビー・スティーブンス。)
ジェームズ一世
King James I(1566-1625) 、在位1603-1625
スコットランドの女王メアリー・スチュワートの長男で、スコットランド王としてはジェームズ6世(在位1567-1625)。イングランドのエリザベス一世の死後その後を継ぎ、イングランド=スコットランドの王位に就く。
性格的には"最も賢明な愚人(The Wisest Fool in Christendom)" といわれた変わり者。同性愛の傾向があったともいわれ、寵愛していたバッキンガムを公爵の位に就けたりした。
この作品のなかでは、スコットランド出身の貴族たち(Moray、Lennox、Marら)に囲まれて、氷の下で凍死している果物売りを嘲笑している場面がある。
オルランドが招いた詩人、ニコラス・グリーン。先祖はフランス貴族でウィリアム征服王とともにイングランドにやってきたと誇るこの詩人には、金に対する欲望がありありとみてとれる。"ニコラス・グリーン"は架空の人物だが、モデルは詩人Robert Greene(1560-1592)と言われている。グリーンにはアリオストの翻案劇『狂えるオーランドー物語』などの著作がある。
(グリーンを演じたヒースコート・ウィリアムズは、ラストで編集者としても登場。他の出演作には『テンペスト』The Tempest (1979) などがある)
オルランドが大使としてオリエントに赴いたのは、オレンジ公ウィリアム=メアリー二世の共同統治時代。(原作ではチャールズ二世の時代)
のちにアン女王の使いとして遣わされたハリー大公によって、オルランドにバース勲章が授けられる。美しいオリエントの王を演じたのは、『ベント』のロテール・ブリュトー。
英国王ウィリアム三世(オレンジ公ウィリアム)
King William III(1650-1702) 在位(1689-1702)
大使としてオリエントに赴くオルランドに、「土産はチューリップがいいだろう」とオランダ名物チューリップの球根を差し出した英国王ウィリアム三世は、別名「オレンジ公ウィリアム」として知られる元オランダ統領。スチュワート王家の血を引く(=英国王チャールズ一世の孫)彼は、英国王ジェームス二世の長女メアリーと結婚し、1689年の名誉革命後権利宣言を承認して、妻メアリー二世(在位1689-1694)とともに英国王として即位した。メアリー二世もこの作品の中に登場する。
カトリックだった前英国王ジェームズ二世をフランスに追放したウィリアムは、フランス王ルイ14世と対立。1690年のボインの戦い(Boyne)で、フランス=アイルランド連合軍を打ち破る。これに端を発した第一次英仏戦争は、1690-1697年まで続いた。財政面で特筆すべき政策としては、イングランド銀行を創設し近代的銀行制度の礎を築いたことが挙げられる。
1702年にウィリアムが亡くなった後は、メアリー王妃の妹アン(1665-1714、在位1702-1714)が女王として即位した。
女性に変身したオルランドは、イギリスに戻り社交界の集まりに加わるように。きついコルセット、つけぼくろ、髪を高く結い上げかつらをつけたロココ調ファッションが見物。
招かれた伯爵夫人のサロンに集まっているのは、当代一の文人たち、ジョナサン・スウィフト、ジョセフ・アディソン、アレグザンダー・ポープらだが、彼らの女性に対する侮蔑の念は隠しようがない。
この時代の女性の立場は極めて低く、オルランドは誰かと結婚しない限り財産を相続することができないと訴訟を起こされている。
庭園:庭師が植栽を三角形のトピアリーに刈り込んでいる整型式庭園。ところどころに彫像が置かれていて、イタリア風。オルランドがMaze(生け垣で作った迷路)の中を駆け抜けていく場面が印象的。ジョナサン・スウィフト
Jonathan Swift(1667-1745)
「ガリバー旅行記」など風刺小説で知られる小説家。アイルランドのダブリンに生まれ、1688年の名誉革命の時にイギリスに渡る。Whig、Tory両党の政争に論客として参加。アディソンやスティールらとは友人として交流があった。ジョセフ・アディソン
Joseph Addison(1672-1719)
軽妙な随筆で知られる文筆家、政治家。オックスフォード大学卒。1704年のモールバラ公戦いを称えた詩「The Campaign」で名をあげる。リチャード・スティールと共同で「タトラー」紙、「スペクテーター」紙を創刊。アレグザンダー・ポープ
Alexander Pope(1688-1744)
古典主義期の代表的詩人。風刺詩「愚者列伝」(全4巻)などを書いた。「イリアッド」「オデッセイ」の英訳でも名を残す。幼少期の病気が原因で背が4フィート半しかなかった。
とうとうヴィクトリア女王より使者が遣わされ、オルランドが相続人となる男子を産まなければ財産は没収するとの通告が来る。これより少し時代はさかのぼるが、ジェーン・オースティンの作品群にも、女であるゆえに父親の財産を相続できず貧しい暮らしを強いられる女性が多く描かれている。
参考>『いつか晴れた日に』(1995) 、TVドラマ『高慢と偏見』 (1995)
原作は、この本が出版された1928年で終わっているが、映画は20世紀末まで続く。
長身・馬面のルーマニア大公妃ハリエットがハリー大公に変身する場面が。
原作では、オルランドから生まれた子供は男子だが、映画では女子だったため、家屋敷を失うことに。このオルランドの娘を演じているのは、ティルダ・スウィントンの実子。
なお、原作に挿入されているオルランドの挿し絵は、すべてヴィータとその先祖たちの肖像画である。ヴァージニア・ウルフの姉ヴァネッサ・ベルの娘アンジェラ・ガーネットも、ロシアの姫君サーシャに扮している。
"Eliza is the fairest Queen"
作曲:エドワード・ジョンソン
歌:ジミー・ソマーヴィル"Where'er You Walk"
作曲:ヘンデル
Performed by Andrew Watts"Coming"
作曲:サリー・ポッター、ジミー・ソマーヴィル、デヴィッド・モートン
歌:ジミー・ソマーヴィル
Hatfield House, Hatfield, Hertfordshire AL9 5NQ
http://www.hatfield-house.co.uk/
Blenheim Palace, Woodstock, Oxfordshire OX20 1PP
http://www.blenheimpalace.com
英アカデミー賞:メイキャップ賞受賞(Morag Ross)、コスチュームデザイン賞ノミネート(Sandy Powell)
米アカデミー賞: 美術賞(BEN VAN OS)、衣裳デザイン賞(Sandy Powell)ノミネート
Tilda Swinton .... Orlando
[1600: Death]
Quentin Crisp .... Queen Elizabeth I
Jimmy Somerville .... 歌手
John Bott .... オルランドの父
Elaine Banham .... オルランドの母[1610: Love]
Charlotte Valandrey .... Princess Sasha(ロシア大使の娘)
Anna Healy .... Euphrosyne(オルランドの婚約者)
Dudley Sutton .... ジェームズ一世
Simon Russell Beale .... Moray伯爵
Matthew Sim .... Francis Vere卿
Toby Stephens .... (劇中劇の)Othello
Viktor Stepanov .... ロシア大使(サーシャの父)[1650: Poetry]
Heathcote Williams .... Nick Greene(詩人)[1700: Politics]
Thom Hoffman .... オレンジ公ウィリアム(ウィリアム三世)
Sarah Crowden .... Queen Mary
Lothaire Bluteau .... The Khan (オリエントの王)
John Wood .... Harry大公[1750: Society]
Kathryn Hunter .... 伯爵夫人
Roger Hammond .... ジョナサン・スウィフト
Peter Eyre .... アレグザンダー・ポープ
Ned Sherrin .... ジョセフ・アディソン[1850: Sex]
Billy Zane .... Shelmerdine (アメリカ人冒険家)[現代:Birth]
Heathcote Williams .... 出版者
Jessica Swinton .... オルランドの子
Jimmy Somerville .... 天使
『ある結婚の肖像』ナイジェル・ニコルソン(著)、栗原知代・八木谷涼子(訳)平凡社
『オーランドー』ヴァージニア・ウルフ(著)、杉山洋子(訳)、ちくま文庫
- 『オーランドー』杉山 洋子 (翻訳)
『オーランドー―ある伝記』川本 静子 (翻訳)
『オーランドー』杉山 洋子 (翻訳)
ヴァージニア・ウルフ著書を検索『とびきり愉快なイギリス史』
ジョン・ファーマン (著), 尾崎 寔 (翻訳) ちくま文庫 (1997/04/01) 筑摩書房
(1992年 英=露=伊=仏=蘭 94分)
監督:J. リー・トンプソン・・・『恐怖の岬』『ナバロンの要塞』
脚本:John Hawkesworth / Shelley Smith
原作:Noel Calef ・・・『死刑台のエレベーター』
恋人のいるカーディフに戻ったポーランド人船員Korchinsky。航海で得た給料を手に恋人Anyaを訪ねると、すでに他の男の愛人となっていた彼女から別れ話を切り出され、口論の末撃ち殺してしまう。 それを見ていたのは、おばの家に預けられてやっかいもの扱いされている少女Gillie。しだいに奇妙な友情で結ばれるようになった二人は、逃避行を続けるのだが・・・
舞台となったのは、石炭の一大産地南ウェールズを後ろに控え(参考『わが谷は緑なりき』 )、"Tiger Bay"と呼ばれ活況を呈していた頃のウェールズの首都カーディフの港。主人公の恋人であるポーランド人のAnyaをはじめとして、この町にはたくさんの外国人が住んでいた。Gillieの遊び友達の子どもたちの人種も様々。
Gillieの家のダイニングテーブルの上にはHPソース(イギリスの定番ブラウンソース)が。
逃亡中のKorchinskyとGillieがつかの間の安らぎを得るウェールズの丘が美しい。
少女Gillieを演じたHayley Millsは、グレアム警視を演じたSir John Millsの実の娘。
カーディフ(ウェールズ)
ベルリン国際映画祭:特別子役賞受賞(Hayley Mills)、金熊賞ノミネート
英アカデミー賞(BAFTA):新人賞受賞(Hayley Mills)、3部門ノミネート
Horst Buchholz .... Korchinsky (ポーランド人船員)
Hayley Mills .... Gillie Evans(Korchinskyの殺人を目撃した少女)[警察関係者]
John Mills .... Superintendent Graham
Meredith Edwards .... George Williams巡査
Christopher Rhodes .... Bridges警部補
George Selway .... Detective Sergeant Harvey
Edward Cast .... Detective Constable Thomas[Gillieが住むフラットの住人]
Megs Jenkins .... Mrs Phillips (Gillieのおば)
Yvonne Mitchell .... Anya(Korchinskyの恋人)
Rachel Thomas .... Mrs Parry(Gillieが住むフラットの大家)
Eynon Evans .... Mr Morgan
Marianne Stone .... Mrs Williams[その他]
Anthony Dawson .... Barclay (Anyaの愛人・スポーツ解説者)
Shari .... Christine(昔Anyaが住んでいたフラットにいた女性)
Kenneth Griffith .... 聖歌隊長
George Pastell .... Poloma号船長
Paul Stassino .... Poloma号一等航海士
Marne Maitland .... Dr. Das
Brian Hammond .... Dai Parry (Gillieの友達の少年)
リンク:IMDb
(1959年 イギリス 98分 B&W)
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