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『ベッカムに恋して』Bend It Like Beckham (2002)

監督:Gurinder Chadha

Story

舞台はロンドン西部郊外。インド系移民二世のジェスは、フットボール(サッカー)をこよなく愛しベッカムに憧れる18歳の女の子。 公園で男の子たちと草フットボールに興じているところを、ジュールズという女子チームのエースストライカーに誘われ、チームの一員として練習に参加するようになる。 しかし、ジェスの姉が結婚を控えている大事な時期とこともあって、両親は伝統的な価値観に反することをよしとしない。そして、親友ジュールズが想いを寄せているコーチのジョーに、ジェスも次第に惹かれていくようになり・・・

さまざまな障害を乗り越え夢をつかもうとするインド系の女の子を中心に、恋と友情、家族の愛と葛藤を描いた快作。

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アジア系移民

ジェスの住むロンドン西部郊外にあるSouthallという街は、インド系移民のコミニュティがあるところ。街の風景もエスニックな雰囲気に満ちている。

イギリスでは「Asian」というとインド・パキスタン系の人々を指す。それくらい、旧植民地であったインド・パキスタン系住民の数が多い。(日本人・中国人など東アジア系は「Oriental」と区別するような?)

フットボールの試合でジェスがユニフォームをつかまれて転倒した時、相手が「パキ!」と言ったためにつかみあいになる。「パキ」とはパキスタン人への人種差別意識をむき出しにした蔑称。 イギリス人には区別がつかないかもしれないが、インド系とパキスタン系は互いに非常に仲が悪く、インド系であるジェスにとっては二重の意味でひどい屈辱と感じたのかもしれない。
ちなみにインド系はヒンドゥー教徒、パキスタン系はイスラム教徒。 ジェスが保守的な両親や親戚の人々のことを説明するのに「イギリス人だったらまだしも、イスラム教徒と付き合ったらコレよ」と首を切る仕草をしたのも、イスラム教徒であるパキスタン系に対する根強い反感の表れか。

マイノリティは実力で認められる世界で活躍したいと望む者が少なくない。 ジェスが法学部に入って弁護士になるという将来の計画を立てていたのも、そんな意識の現われかも。

ジェスの父はターバンを巻いているところを見るとシーク教徒らしい。知識人の好むクオリティ・ペーパー(高級紙)「ガーディアン」を読んでいた。 www.guardian.co.uk

 

ピンキーの婚約披露パーティー、賑やかな結婚式の様子や、集まった親戚の人々の衣装、ダンスも興味深い。

インド・パキスタン系移民を描いた作品
『ぼくの国、パパの国』 East Is East (1999) マンチェスター近郊のパキスタン系移民を描いた作品。
『マイ・ビューティフル・ランドレット』My beautiful Launderette(1985)パキスタン系移民の青年とその一族が登場。
『相続王座決定戦』Splitting Heirs (1993)主人公はインド系移民のコミュニティで育つ。ロケはロンドン近郊Southall

デイビッド・ベッカム

ジェスが憧れているのは、プレミアリーグ、マンチェスター・ユナイテッドのフットボール選手デイビッド・ベッカム。日本でもワールドカップ以来"ベッカム様"ブームが沸き起こったのは記憶に新しい。

この映画の原題「Bend It Like Beckham」はフリーキックの際「ベッカムのように(ボールを)曲げろ」という意味。練習のときにも人間に見立てた柵の障害を前にカーブをかけてボールを蹴りこむ練習をしたり、自宅の庭に干してある洗濯物に当たらないように蹴ろうとしていた場面が。

ベッカムの背番号は「7」なので、ジェスも部屋にベッカムのユニフォームのレプリカを着ており(マンチェスター・ユナイテッドの赤いユニフォーム。 前面にはマンUのスポンサーである携帯電話会社Vodaphoneの文字がくっきりと。)、ハウンズロー・ハリアーズでプレイする際も、やはり背番号は「7」。彼女の親は、ベッカムのスキンヘッドを見て「ハゲ」などと言うのだが。

スパイス・ガールズ

ジュールズの母がスポーツに熱中するだけで男っ気のない娘を心配して「(スパイス・ガールズの)5人の中で男がいないのは"スポーティ・スパイス"だけよ」という台詞も。スパイス・ガールズにはメンバーにそれぞれ愛称が付けられている。

ベッカムの妻と言えば、元アイドルグループ「スパイスガールズ」の"ポッシュ・スパイス"ことヴィクトリア。

この作品のサントラには"スポーティ・スパイス"ことメル・Cの「Independence Day」や、ヴィクトリアの歌う「I wish」も使われている。

>>スパイス・ガールズの映画『スパイス・ザ・ムービー』Spice World (1997)

ジュールズの家族

ジュールズの父は無類のフットボール好きで、庭に作ったゴールの前で娘と一緒になってはしゃいでいる。彼女の家の庭には薔薇のアーチやトピアリーがあったりと、かなりガーデニングに手をかけている様子。

空港

ジェスの住むSouthallやフットボールのグラウンドがあるHounslowはロンドンの西部に位置し、ヒースロー国際空港にも程近いため、上空に飛行機が飛んでいる場面がよく出てくる。

ジェスの姉ピンキーも空港に併設するレンタカー会社か何かで働いているのか(胸に"FLIGHT CARS"というバッジをつけている)、空港のフェンス脇に車を止めて恋人のTeetuといちゃついている。

ヒースロー空港の出発ロビーでの場面で、ベッカムとその妻ヴィクトリアが偶然通りがかる場面も。(注:演じているのは、ベッカム公認そっくりさんのAndy Harmer氏)

ビーンズ・オン・トースト

ジェスの脚にある火傷痕は、8歳のときに「ビーンズ・オン・トースト」を作っていた時の事故が原因。 「ビーンズ・オン・トースト」は、ベイクド・ビーンズ(大豆のトマト煮、イギリス人の大好物)の缶詰をあけてトーストに乗せた軽食。字幕では字数制限もあって短く「豆」となっていたが、子供のジェスが「豆を煮ていた」わけではなく、単に「豆の缶詰を温めてトーストに乗せる準備をしていた」ということ。注:ベイクド・ビーンズ缶詰は非常に安くどこでも手に入るため、わざわざ自分で似て作ろうとするイギリス人はめったにいないだろう。

パブのある風景

スポーツシューズを買いに行った帰り、ジェスとジュールズはロンドンの繁華街SOHOにあるパブ「The Three Greyhounds」に寄り道。 パブはタバコを吸っている人がたくさんいるため、タバコに匂いを髪につけて帰ったジェスは親に隠れて煙草を吸っていたのではないかと疑われる。

The Three Greyhounds
25 Greek St, London, W1D 5DD

クリケット

ジェスの父はナイロビ(ケニアの首都)にいた頃、クリケットの名選手としてならしていたが、イギリスでは人種差別の壁の前に挫折してしまった。インド系移民であるということでフットボールの世界で嫌な思いをするかもしれないと、娘がフットボールプレイヤーになることに難色を示す。

ジェスの父とコーチのジョー、トニーが白いクリケットのユニフォームに身を包んでプレイしている場面も。

アイリッシュ

ジェスたち旧大英帝国植民地出身のインド系移民が差別を受けているのと同様、同じく植民地であったアイルランド系のジョーもこれまでイギリス社会で様々な差別を経験してきたらしい。イギリスでは白人でもアイルランド系は何かと差別の対象となることが少なくない。 試合中に「パキ!」と罵声を浴びせられ傷つくジェスに、ジョーも同じく差別を受けてきた者として同情を示すのだった。

ゲイ

ジェスとジュールズの会話を立ち聞きしたジュールズの母ポーラは、自分の娘がジェスに失恋したのだと思い込んで夫に話す。
「それにしてもジョージ・マイケルはお気の毒。ワイセツだのゲイだの言われて・・・」
「ジョージはまだスターだ。君だってWHAM!を聴くじゃないか」
注:ジョージ・マイケルはイギリスのポップスターで、元WHAM!のヴォーカル。 公衆トイレで逮捕されゲイであることをカミングアウトした。>>www.georgemichael.com

ポーラはのちに「私もナブラチロワのファンだったわ」とも言っている。
注:ナブラチロワ・・・テニス・プレーヤー。レズビアンであることでも有名。

アスコットじゃないんだぞ

娘の出場する決勝戦を観に行こうと、ジュールズの母は紫色のつばの広い帽子をかぶってめかしこみ、夫に「アスコットに行くんじゃないんだぞ」とたしなめられる。 アスコット競馬は王室の人々も来臨する一大社交場で、女性はみな色とりどりのドレスや帽子を身につけてやってくるところ。『マイ・フェア・レディ』My Fair Lady(1964) のイライザも、大きな帽子をかぶってやってきた。

父と子の関係

イギリス社会で差別を受けクリケットの夢を諦め挫折した過去を持つがために、愛情から娘にフットボールを禁じるジェスの父。

庭にフットボール用のゴールまで作って娘を応援するジュールズの父。

そして自分の身勝手から結果的に息子の選手生命を絶ってしまい、その息子が女子チームのコーチに"成り下がった"とさげすむ、ジョーの父。

さまざまなかたちの父子関係が描かれている。

キャスト・特別出演

Hounslow Harrierの主将メルは、オール・セインツのメンバー。

ピンキーを演じたアーチー・パンジャビは『ぼくの国、パパの国』 East Is East (1999) の長女役で高い評価を得ている。

冒頭のTV番組のスタジオ解説をしていたのは、リネカー、ハンセン、バーンズ本人という豪華メンバー。

監督Gurinder Chadhaはケニア生まれでイギリス育ちのインド系移民の女性。 ジェスの父がナイロビにいたこともあるという設定は、彼女自身の生い立ちに重なる。また、Chadhaの夫はアメリカ人でサンタ・クララ大学出身。 ジェスとジュールズがアメリカに渡って留学する先もサンタ・クララ。

 

ロケ地

Broadway Street, Southall, Middlesex

Damini's, Southall Middlesex

ジェスの姉が婚約式の服を買いに行った店
58 The Broadway, Southall Middlesex UB1 1QB

Contessa Lingerie Shop, Twickenham, Middlesex

ジュールズが母とブラを買いに行ったランジェリーショップ
35 King St Parade,Twickenham Middlesex TW1 3SG

Sutton Square, Heston, Hounslow, Middlesex

フットボール場

Hounslow Central Tube Station, Hounslow, Middlesex

ジェスとジュールズがサッカー用の靴を買いに行くときに利用した地下鉄駅

Piccadilly Circus Tube Station, London

ジェスとジュールズがサッカー用の靴を買いに行くときに利用した地下鉄駅

Piccadilly Circus, London

カーナビーストリート, London

ジェスとジュールズが靴を買ったスポーツ用品店

The Three Greyhounds, London

ジェスとジュールズが靴を買った帰りに寄ったSOHOにあるパブ

25 Greek St, London, W1D 5DD

ヒースロー空港

Hamburg, Germany

Elbe River, Lower Saxony

Hotel Steigenberger

キャスト

Parminder K. Nagra .... Jesminder Bhamra(インド系2世の女の子)
Keira Knightley .... Juliette Paxton(Hounslow Harrierの選手)
Jonathan Rhys-Meyers .... Joe(Hounslow Harrierのコーチ、アイルランド人)

Anupam Kher .... Mr. Bhamra(ジェスの父)
Shaheen Khan .... Mrs. Bhamra(ジェスの母)
Archie Panjabi .... Pinky Bhamra(ジェスの姉)

Frank Harper .... Alan Paxton(ジュールズの父)
Juliet Stevenson .... Paula Paxton(ジュールズの母)

Shaznay Lewis .... Mel(Hounslow Harrierの主将)

Ameet Chana .... Tony (ジェスの幼なじみ・ゲイ)

Kulvinder Ghir .... Teetu(ピンキーの婚約者)
Ash Varrez .... Teetuの父
Harvey Virdi .... Teetuの母

冒頭のスポーツ番組の司会
Gary Lineker
Alan Hansen
John Barnes

 

参考資料とソフト

imdb.com/Title?0286499

オフィシャル・サイト
www.foxsearchlight.com/benditlikebeckham/
www.albatros-film.com/movie/beckham/

書籍『ベッカムに恋して―オリジナル・シナリオ対訳』愛育社

書籍『Bend It Like Beckham』Narinder Dhami (著)

書籍『ベッカムに恋して』 Book plus ノベライズ版
Narinder Dhami (原著), 酒井 紀子 (翻訳)角川書店

サントラ(国内盤UK盤US盤)

(2002年 イギリス 112分)

 


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