監督:ニール・ジョーダン
製作:Neil Jordan/Redmond Morris/Stephen Woolley
脚本:Patrick McCabe/Neil Jordan
原作:Patrick McCabe
音楽:Elliot Goldenthal
撮影:Adrian Biddle
編集:Tony Lawson
プロダクション・デザイン:Anthony Pratt
美術:Anna Rackard
衣装デザイン:サンディ・パウエル
1960年代初頭、アイルランドの田舎町。 12歳の悪ガキ フランシーは、飲んだくれの父親と精神を病んだ自殺未遂を繰り返す母親、そして貧しい家庭という厳しい環境に育ちながらも、大親友のジョーと一緒に毎日野山を駆け巡ったり秘密基地を作ったりと、夢見がちな毎日を過ごしている。 そんな彼が目の敵にしていたのは、気取り屋のニュージェント夫人とその息子のひよわなフィリップ。何かにつけて彼らを標的に嫌がらせを仕掛けていた。 クリスマスの後、両親の諍いに嫌気がさしたフランシーは、ひとりダブリンへちょっとした家出を決行する。しかし帰ってみると、かねてから情緒不安定で自殺衝動のあった母が自らの命を絶っていた。
実生活が悲惨さを増すにつれ、彼のファンタジーはとめどもなく広がってゆく。目の上のたんこぶであるニュージェント夫人の家に不法侵入し、暴虐の限りを尽くした罪で、フランシーはとうとう更正施設に収容されてしまった。 施設内では模範的な子供を演じていたが、ある日神父のひとりに性的いたずらをされ、その口止めと引換えに出所を認められ、街の肉屋で働き始める。 ところが懐かしい街に帰ってみると、血の契りを結んだ大親友のジョーはどこかよそよそしく、父もまもなく息を引き取ってしまった。 これもすべてニュージェント夫人のせいだと恨んだフランシーはとうとう・・・
少年の心の闇をブラック・コメディ・タッチで描いたニール・ジョーダン監督の力作で、ベルリン映画祭を初めとして各国で高い評価を受けた。(日本では、世を震撼させたある少年犯罪事件とのからみで劇場公開されず)
フランシーが診察を受けた精神科医の部屋にもアメリカ大統領J.F.ケネディ(在任1961-63)の写真が飾られていたが、ケネディはアイルランド系移民のカトリックで初めてアメリカ大統領になった人物。 ルーツとなったアイルランドでも英雄のように捉えられていた。
>>『恋はワンダフル!?』The MatchMaker (1997)1960年代は冷戦、すなわちアメリカとのソビエト連邦(現ロシア)緊張が高まっていた時期で、核戦争の恐怖が広く語られていた。 同時にソ連やフルシチョフをはじめとする共産主義者(コミュニスト)への警戒や嫌悪感も激しいものだった。
フランシーの目にNugent夫人は「イギリス帰りを鼻にかけてこの街で一番偉そうな顔をしている」ように映っている(実際はどうだか知らないが)。 小奇麗な一戸建てに住み、庭にはたわわに実った林檎の木が。 これはコックス・ザ・ピピンというイギリスやアイルランドで好まれる小ぶりのリンゴ。
Nugent夫人はケーキ作りがうまいことでも有名で、彼女の家には三段重ねの皿に載った色とりどりの綺麗なケーキが並んでいる。 キッチンはピンクとブルーで統一された清潔な空間で、それが余計にフランシーの怒りを誘う。
小綺麗なNugent夫人の家とは対照的に、フランシーが住むのは狭くて薄暗い路地を入った長屋。 フランシーのことを指して「お前の長屋(terrace)の友達」などといわれている場面も。 注:イギリス英語で長屋のことを「Terrace(d) House」という。
精神を病んで入院していた母もクリスマスには自宅に帰ってきた。 躁鬱が激しい彼女はちょうど躁状態の周期に当たっていたようで、誰が食べるんだと首を傾げたくなるような量のケーキをひたすら作り続ける。 台所中クリームやアイシングのかかったケーキでいっぱい。その中のひとつ、「バタフライ・バンズ」は、蝶々のような形にケーキの上面を飾り切りするケーキ。
ヒッチハイクをしながらダブリンにたどり着いたフランシー。 人々がフィッシュ&チップス等を食べているファーストフード店で、フランシーはチップス(フライドポテト)を買うが・・・
フランシーの父ベニーも叔父のアロも入ったことがある
芝刈りをしていた用務員のジミーは、自称"マイケル・コリンズの同志"だそうで、神父たちの態度が大きいことに腹を立てている。
施設の子供たちが朝食にポリッジ(麦のおかゆ)を食べている場面も。
最初に近づいてきた先輩たちを、フランシーは「田舎もの(Bogman)」と呼んで馬鹿にしている。
更正施設での作業のひとつに、泥炭掘りがあった。
泥炭は寒冷地域で植物が腐らずに堆積したもので、燃料などに使われる。
更正施設に収容されている子供たちは、泥炭を切り出したり、乾いた泥炭を集めたりとといった作業をしている。 (写真はアイルランドコネマラ地方の泥炭掘り現場) |
大人になったフランシーが最後に再びマリア様と出会った場面の後、階段を数段昇ったところにマリア像が建てられている祠(Grotto)が見える。
このような祠はアイルランド各地で見受けられるもので、裕福な人からの寄付で建つこともあるらしい。 (写真はアイルランドでよく見かけるマリア像の祠) |
フランシーの両親が新婚旅行で訪れた思い出の地、そしてジョーやフィリップが通うことになった寄宿学校があるバンドーランという街は、アイルランド北西ドネゴール郡にあるシーサイド・リゾート。
フランシーの前に現れる聖母マリアは、歌手のシネイド・オコナー。
更正施設の仲間の中に、『草原とボタン』War of the Button (1996)の主演Gregg Fitzgeraldが。
フランシーの出所後に噴水の縄張りを取ってしまった子供たちの一人は、主演のイーモン・オーウェンズの実弟キーラン。キーランは『アンジェラの灰』 Angela's Ashes (1999) でフランクの少年時代を演じている。
「The Butcher Boy」というのはアイルランドのトラッドのひとつ。そのほかにもアイルランドならではの音楽がいっぱい。
"Clo-Ness"と発音するそうだ。原作者のPatrick McCabeがこの街出身だったことから、ロケ地に選ばれた。
ベルリン国際映画祭:銀熊賞(監督賞)受賞ニール・ジョーダン、特別賞受賞(イーモン・オーウェンズ)、作品賞ノミネート
LA批評家協会賞:音楽賞(Elliot Goldenthal)
Eamonn Owens .... Francie Brady
Stephen Rea .... Benny Brady (Francieの父・アル中の元ミュージシャン)
Aisling O'Sullivan .... Annie Brady (Francieの母・精神不安定)
Ian Hart .... Alo (Francieの叔父・ロンドンで働いている)Fiona Shaw .... Mrs Nugent (意地悪なおばさん)
Andrew Fullerton .... Phillip Nugent(Mrs Nugentの息子)
John Olohan .... Mr NugentAlan Boyle .... Joe Purcell (Francieの親友)
Ardal O'Hanlon .... Mr Purcell (Joeの父)Sean McGinley .... 街の巡査
Peter Gowen .... Leddy(精肉店の主人)
John Kavanagh .... Dr Boyd (街の医師)
Rosaleen Linehan .... Mrs. Canning (近所のおばさん)
Anita Reeves .... Mrs Coyle (近所のおばさん)
Gina Moxley .... Mary(Aloが昔付き合っていた女性)
Niall Buggy .... Dom神父
Anne O'Neill .... Mrs McGlone
Joe Pilkington .... Charlie McGlone(Francieの父の友人)Brendan Gleeson .... Bubbles神父(更正施設の神父)
Milo O'Shea .... Sullivan神父(更正施設の変態神父)
Sinead O'Connor .... 聖母マリア
http://us.imdb.com/Title?0118804
Official: Warner Bros.
www.thebutcherboy.comVHS(字幕なし)
Soundtrack
The Butcher Boy Patrick McCabe (著) ペーパーバック (1993/03/12)
(1997年 アイルランド 110分)
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