監督:Shekhar Kapur
1585年のイングランド。即位後四半世紀余りが経ちながら独身のまま君臨していたエリザベスだったが、いまだにカトリック問題は彼女の悩みの種。自国内のカトリック教徒らに命を狙われ、カトリック教国の盟主を自認するスペインのフェリペ国王の脅威がある。また、庶子のエリザベスより自分の方がイングランドの王位継承権があると主張する隣国スコットランドの女王メアリーの存在など、不安要因を抱えていた。
そんな時にエリザベスの前に現れたのは新世界から戻ったばかりの海の男ウォルター・ローリー。野生的なローリーが語る遠い世界の冒険談に耳を傾けているうちに、一生独身を貫こうとしていた彼女の心に淡い恋の感情が芽生え始める。しかしローリーは彼女のお気に入りの侍女ベスと密かに情を通じていた。
やがてエリザベス暗殺未遂事件にスコットランドの女王メアリーが関わっていたことが発覚し、18年間幽閉されていたメアリーはついに処刑される。カトリックのメアリーが処刑されたことを口実に、スペインのフェリペ二世はイングランドを征服するため無敵艦隊を差し向ける。圧倒的に軍事力に劣るイングランドはスペイン艦隊を相手に立ち向かえるのか・・・?
前作『エリザベス』Elizabeth(1998) から9年、エリザベス一世の黄金時代を描いた続編。
フランシス・ウォルシンガムが組織した情報網は戦争を優位に進めたり数々の陰謀や暗殺未遂事件を阻止したりと、エリザベスの治世を支えるために欠かせない重要な役割を果していた。ウォルシンガムもケンブリッジのキングス・カレッジで学んでいたが、伝統的にイギリスの情報部員はオックスフォードやケンブリッジ出身者が多い。この時代に情報戦を重視していたというのが007を初めとして数々のスパイものの傑作を世に送り出してきたイギリスらしい。
カトリックのフランシス・スロックモートンFrancis Throckmorton (1554-1584) によるエリザベス暗殺をもくろんだ陰謀で、ウォルシンガムにより事前に発覚し事なきを得た。外交官ニコラス・スロックモートン(Nicholas Throckmorton 1515-1571 ヘンリー8世妃キャサリン・パーのいとこ)の甥で、エリザベスの侍女エリザベス・スロックモートンの従兄にあたる。スロックモートンの陰謀は1583年の事件なので、やはりこの映画では微妙に年代をずらされている。
イエズス会士John
Ballardやカトリックの若者Anthony
Babington (1561-1586)がエリザベスの暗殺を企てた事件。ウォルシンガムは事前にこの陰謀について探り当てており、メアリーの手紙は全て入手していたらしい。メアリーとバビントンがやり取りした暗号文の手紙が発見され、メアリーのエリザベスに対する反逆罪の決定的証拠となった。手紙はビール樽の栓の中に隠してやり取りされていた。
この映画に登場するイエズス会の陰謀家ロバート・レストンは架空の人物だが、モデルはバビントン事件に関与したJohn Ballardか。
アルマダの海戦ではスペイン側は船131隻、兵員約30,000人に対し、イギリス側は当初船105隻、兵員約15,000人と圧倒的な軍事力の差があった。しかしながら小型で足回りの良い艦船を揃えたイギリス軍はスペインの大型船に対し機動的に攻撃を仕掛け、7月28日のカレー沖の海戦で仕掛けた火船(Fire Ship)攻撃で体制を崩されたスペイン艦隊は大混乱に陥り多くの艦船が錨を失った。映画では火船を直接スペイン艦船にぶつけたように描かれているが、実際はスペイン側の陣形を崩して混乱させることが目的だったらしい。陣形を崩されたスペイン艦隊はイギリス海軍の砲火を浴び、大敗を喫したスペイン艦隊は北海からスコットランド、アイルランドをまわって敗走しスペインに帰国した。
こちらもご覧下さい>>『無敵艦隊』 Fire Over England (1937)
この映画は1585年からアルマダの海戦(1588)頃までを描いているので、当時50代のエリザベスに次々と求婚者たちがやってくるというのは時代考証をかなりずらしている。多くの求婚者たちはエリザベスがもっと若い頃に立候補していた。求婚者として名前が挙がっていたロシアのイワン雷帝(1584没)やスウェーデンのエリック14世(在位1560-1568、1577没)は1585年には既に没している。また、求婚者の一人オーストリア大公カール2世(1540-1590)が妃のMaria Anna of Bavaria (1551-1608)との間に第一子をもうけたのが1572年でその後15人もの子供を作り続けているので、1585年頃にエリザベスに求婚したというのはありえない。字幕では「シャルル」と書かれていたが、ドイツ語読みなので正しくは「カール」である。
当時エリザベスの周辺にはウォルシンガムとウォルター・ローリー以外に寵臣エセックス伯ロバート・デヴァルー(またはデュヴルー Robert Devereux)やレスター伯ダドリー、バーリー卿ウィリアム・セシル(1520-1598)らが出仕していたはずだが、ウィリアム・セシルは前作で引退したことになっているので出てこなかったし、息子のロバート・セシルも出てこなかった。
映画で描かれている通り、メアリーはフォザリンゲイ城(Fotheringay Castle)での処刑の際にガウンを脱いで赤いドレス姿で断頭台に向かったと言われている。斬首の際の血飛沫が目立たないようにという配慮だったとか。実際は処刑人の手元が狂って3回目に斧を振り下ろした時やっとメアリーの斬首に成功したという悲惨な最期だったという。しかも斬りおとされた首を見物人たちに見せようと髪の毛を掴んだら、メアリーはカツラを被っていたため首がゴロゴロと下に転がってしまったらしい。
(在位:1556-1598)皇太子時代にエリザベスの異母姉メアリー一世と結婚する。彼女の死後エリザベスにも求婚するが断られ、1559年にアンリ2世とカトリーヌ・ド・メディシスの娘エリザベートを妃に。後に無敵艦隊を率いてエリザベスと対決することに。イタリア・ネーデルラント・新大陸に広大な領土を有し、新教徒弾圧、対英・対仏干渉、オスマントルコの撃破(レパントの海戦)、ポルトガル併合などを行った。
ちなみにこの映画でInfanta Isabel of
Spain (フェリペ二世の王女) は少女の姿で登場するが、彼女は1566年生まれで1585年には19歳になっていた。
ケント州Chislehurst生まれ。ケンブリッジで学んだ後外交官に。1568年エリザベス女王の元で出仕を始める。のちにナイトの称号を受ける。反カトリック。国内外のスパイ網を活用した情報収集に秀でており、スロックモートンやバビントンの反乱計画を暴き、スコットランドのメアリー・スチュワートの処刑にも一役買った。
詳細は『クイーン・メリー/愛と悲しみの生涯』Mary, Queen of Scots (1971) のページに記載
エリザベス一世の寵臣で新世界で初めてイギリスの植民地を作った人物。女王の行く先にあった水溜りに自分のマントを敷いて通らせたというエピソードはあまりにも有名。イギリスに新世界からタバコとジャガイモをもたらしたのは彼だと言われている。
ウォルター・ローリーとベス・スロックモートンの秘密結婚は実際は1591年(アルマダの海戦の3年後)のことで、翌年それが発覚し投獄される。映画ではアルマダの直前に発覚し投獄、釈放されたことになっている。エリザベスの死後、ジェームズ一世に対する反逆罪に問われ1603〜1616までロンドン塔に投獄された。その間に『世界の歴史』という本を著した。釈放後南米の探検隊を指揮した際に行った現地での略奪の罪を問われ1618年に斬首された。ベス・スロックモートンは防腐処置を施した彼の首を手元に置いていたという。
1580〜1587の間メアリー女王の監視役を勤めていた
占星術師、錬金術師、数学者。エドワード6世(エリザベスの弟)の宮廷に仕えるが、メアリー1世(エリザベスの姉)の即位後魔術を操るという容疑で投獄される。1580年頃からエリザベスに重用されるようになり、占星術や心霊研究を駆使して女王に様々な助言をしていた。『ジュビリー』Jubilee (1978) にもジョン・ディー博士は登場する。
1577〜80年にゴールデン・ハインド号で史上2番目の世界一周を達成する(史上初はマゼラン)。西インド諸島や南米のスペイン船団やスペインの植民地を襲い莫大な財宝を略奪していた。エリザベスはこのような海賊行為を半ば黙認しており、スペインから略奪した財宝はイギリスの国家財政を大いに潤していた。アルマダの海戦ではイギリス艦隊の副司令官として総司令官チャールズ・ハワードの下で実質的な戦闘指揮に当たった。
メアリーが幽閉されていた城(Chartley Hall)として
(ティルベリーTilbury での閲兵、演説の場面)
(John Dee博士の家/ロンドンの通り/パリの街路の場面)
(ローリーの屋敷の外観として)
(ローリーの屋敷、ウォルシンガムの屋敷、チャペルの内部として)
(ホワイトホール宮殿の内部として)
(Chartley Hall、ウォルシンガムの屋敷の内部として)
(Chartley Hall、Whitehallの外観)
(Windsor Great Park)
(メアリーが処刑されたFortheringay Castle/Chartley Hall内部として)
(ホワイトホール宮殿の外観として/テムズ)
(ホワイトホール宮殿の内部として)
(スペインのエスコリアル宮/リスボン大聖堂の内部として)
(St. Paul's Cathedral/The Chapel Royal内部/gallows scene)
Cate Blanchett ... エリザベス
Geoffrey Rush ... Sir Francis Walsingham
Clive Owen ... Sir ウォルター・ローリー
Abbie Cornish ... Elizabeth Throckmorton(エリザベスの侍女)
Samantha Morton ... スコットランド女王Mary Stuart
Jordi Molla ... スペイン王フェリペ二世
John Shrapnel ... Lord Charles Howard(イギリス海軍提督)
Aimee King ... Infanta Isabel of Spain (フェリペ二世の王女)
Rhys Ifans ... Robert Reston(イエズス会の陰謀家)
Eddie Redmayne ... Thomas Babington (暗殺者)
Steven Robertson ... Francis Throckmorton(カトリック、侍女Elizabeth Throckmortonの従兄)
Adam Godley ... William Walsingham (ウォルシンガムの弟:架空の人物)
Tom Hollander ... Sir Amyas Paulet (メアリーの監視役)
Christian Brassington ... オーストリア大公カール
David Threlfall ... Dr. John Dee
David Robb ... Admiral Sir William Winter
http://www.allcinema.net/prog/show_c.php?num_c=329147
http://www.imdb.com/title/tt0414055/
オフィシャル・サイト
http://www.elizabeththegoldenage.net/
http://www.elizabeth-goldenage.jp/
書籍
『華麗なる二人の女王の闘い』 (朝日文庫) 小西 章子 4022605308
『女王エリザベス』クリストファー ヒバート (著)
Copyright (c)2008
Cheeky All Rights Reserved
当サイトに掲載されている情報・記事・画像など、全ての内容の無断転載を禁止します。
引用される際は、必ず出典として当サイト名とURLを明示してください。