シェイクスピア映画／マクベス

シェイクスピア『マクベス』

■主な映像化作品

『マクベス』Macbeth (1948)・・・オーソン・ウェルズ監督・主演作品
『蜘蛛巣城』・・・黒澤明監督作品
『マクベス』Macbeth (1971)・・・ロマン・ポランスキー監督作品
『マクベス』Macbeth (1978)・・・トレバー・ナン演出RSC公演イアン・マッケラン、ジュディ・デンチ

■Story

11世紀のスコットランド。ダンカン王の縁戚であり勇将との誉れも高いマクベスは、三人の魔女からやがて自分が王位に即くとの予言に野心を抱きはじめ、気性の激しい妻の後押しもあって、ついに主君の暗殺に成功する。また、将来のスコットランド王になるのは自分でなくバンクォーの子孫であるという予言を阻止するために彼を殺し、王子マルカムと共にイングランドに向かった貴族マクダフの妻子を惨殺する。

度重なる暗殺劇にマクベスは貴族たちの人望を失い、マクベス夫人は罪の意識に耐えかねて次第に精神を病んでゆく。それでも魔女の「マクベスは女の腹から産まれたものの手にかかって死ぬことはない」「バーナムの森がダンシネーンに向かって動いてこない限りは誰もマクベスを負かせない」という予言を頼みに、イングランド軍に加勢されたマルコムやマクダフに立ち向かうマクベスだったが・・・。

　

■ 時代背景

『ハムレット』『リア王』『オセロ』と並んでシェイクスピア四大悲劇のひとつで、1606年に書かれたと推定される。ちょうどエリザベス一世が崩御し、スコットランドのジェイムズ６世がイングランド国王ジェイムズ一世として即位して間もない頃。ジェイムズは自分をバンクォーの子孫だと信じていたとか。1604年に魔女禁止令が改正され、魔女への関心が高まっていたという世相も反映されている。

　

■ 史実にあるマクベス

スコットランドの領土を史上最大に拡大したマルコム二世(在位1005-1034)が崩御して、その孫のダンカン一世(在位1034-1040)が即位したが、その王位継承に異議を唱えマレー伯マクベスに負け戦死した。暗殺ではなく正当に戦って即位したマクベス(在位1040-1057)は、シェイクスピアの戯曲に書かれているような横暴な王ではなく、上手に国を統治していたとか。1054年にイングランド軍の力を借りたダンカンの息子マルカム(後のマルカム三世）によって追放され、1057年に亡くなる。

マクベスの居城はインヴァネス近郊にあるコーダー城(Cawder Castle)といわれているが、彼の時代にはまだこの城はなかった。

■trivia

「マクベス」は舞台関係者にとって"縁起の悪い言葉"と思われているので、「マクベス」という名を出さず、「あのスコットランドの芝居」とぼかして言い換えられることが多い。

『ドレッサー』

うっかり口が滑った座長が、"あの忌まわしいScottish Tragedyの名を口にするなんて縁起悪い"と楽屋から追い出され、外で三回まわって厄除けのおまじないをしてから戻ることに。

　

『ブラック・アダー』

ローワン・アトキンソン演じる主人公のブラック･アダーが、役者たちにわざと「マクベス」と言って嫌がらせする場面が出てくる。俳優たちはその都度、厄除けのおまじない(この場合は、歌いながら互いの手をぴしゃりとたたくおまじない)をする羽目に陥ったのだ。

　

『ハーモニー』Cosi (1996)

精神病院でモーツアルトのオペラ「コジ・ファン・トゥッテ」を上演するという物語。マクベスの名を口にした人は"舞台がのろわれるから"と劇場の周りを走らされた。

　

■ 登場人物

Macbeth .... 王の軍隊の将軍
Lady Macbeth
Banquo .... 王の軍隊の将軍
Fleance .... バンクォーの息子
Macduff .... スコットランド貴族
Lady Macduff
Macduffの息子
Duncan .... スコットランド王
Malcolm .... ダンカン王の王子
Donalbain .... ダンカン王の王子
Witches(三人の魔女)
ヘカテ
Seyton .... マクベス付の士官
Porter(門番)
侍医
Ross .... スコットランド貴族
Lennox .... スコットランド貴族
Angus .... スコットランド貴族
Caithness .... スコットランド貴族
Mentieth .... スコットランド貴族
Young Seyward .... ノーサンバーランド伯の息子
Old Seyward .... ノーサンバーランド伯、イングランド軍将軍

関連リンク

原作のテキスト全文＞The Complete Works of William Shakespeare

『マクベス』Macbeth (1971)

監督・脚本：ロマン・ポランスキー
脚本：Roman Polanski / Kenneth Tynan

　

あらすじは上記参照

■Check!

□血なまぐさい惨劇

監督のポランスキーが妻のシャロン・テートを惨殺された事件があってから初めて手がけた作品ということもあってか、全体的に残酷な描写が目立つ異色のマクベス。謀反を起こしたコーダー領主マクドナルドの処刑、ダンカン王の暗殺、マクダフの妻子の暗殺、クライマックスのマクベスの処刑シーンと、血塗られたスコットランドの歴史をリアルに表現。

□スクーンの石

マクベスの戴冠式で使われていた石は、スクーンの石だろうか。
これは創世記にあるヤコブが枕にしたという伝説を持つ石で、６世紀にアイルランドからもたらされて以来、スコットランド王の戴冠式に用いられるかけがえのない石であったが、1296(1297?)年にイングランド王エドワード一世に奪われ(参考『ブレイブハート』)、ロンドンのウェストミンスター寺院にある戴冠用椅子の下に納められていた。1996年7月になって700年ぶりにスコットランド側に返還された。

□その他

『シェイクスピア・オン・スクリーン』(狩野良規著/三修社/1996)は、この作品について次のような興味深い指摘を挙げている：

スコットランド貴族ロスの存在がクローズアップされ、政治的状況が変わると常に新しい体制側に組する日和見主義として描いている

イングランドに逃げたダンカンの長男マルカムに対し、アイルランドに逃げた次男のドナルベインを足が不自由な障害者として描き、終幕に魔女の洞窟に彼が入っていく場面を挿入し、マクベス同様に権力を奪取する欲望にも得ていることを暗示している

　

■ロケ地

□Morfa Bychan, near Porthmadog, Gwynedd, Wales

冒頭の海岸の場面

□Bamburgh Castle, Bamburgh, Northumberland

>>WebSite
18世紀半ばにCrewe卿によって、19世紀末に初代アームストロング男爵によって修復され、現在もこの城はアームストロング卿一族の住まいとなっている。

□Lindisfarne Castle, Northumberland

ホーリーアイランド(Lindisfarne島)にある城。詳しくは同じくここで撮影された作品『袋小路』の項へ。
WebSite＞The Holy Island of Lindisfarne

□St. Aidan's Church, Bamburgh, Northumberland

Alnwick、Norhamと並んでノーザンバーランドの三大教会のひとつ。その起源は635年にSt.AidanがアイルランドのIonaからLindisfarne（ホーリーアイランド）にやってきた時に溯る。現在の建物は13世紀のもの。

□Ffestiniog, Gwynedd, Wales

スノードニア国立公園

　

■Awards

英アカデミー賞(BAFTA)：衣装賞受賞(Anthony Mendleson)
米ナショナル・ボード・オブ・レビュー作品賞

　

■キャスト

(役名の解説は上記参照)

Jon Finch .... Macbeth
Francesca Annis .... Lady Macbeth
Martin Shaw .... Banquo
Keith Chegwin .... Fleance
John Stride .... Ross
Terence Bayler .... Macduff
Diane Fletcher .... Lady Macduff
Mark Dightam .... Macduff's Son
Nicholas Selby .... Duncan
Stephen Chase .... Malcolm
Paul Shelley .... Donalbain
Maisie MacFarquhar .... Blind Witch
Elsie Taylor .... 1st Witch
Noelle Rimmington .... Young Witch
Noel Davis .... Seyton
Richard Pearson .... Doctor
Andrew Laurence .... Lennox
Bernard Archard .... Angus
Bruce Purchase .... Caithness
Frank Wylie .... Mentieth
William Hobbs .... Young Seyward
Alf Joint .... Old Seyward

(1971年アメリカ 140分)

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