タイトル*
『No Future: A Sex Pistols Film』 The Filth and the Fury (2000)
監督:ジュリアン・テンプル
■Story
1970年代、サッチャー時代のロンドンに誕生したロックミュージック史上最もスキャンダラスで過激なバンドのひとつ、セックス・ピストルズ。その活動期間はたった26ヶ月、アルバムは1枚のみ。パンク・ムーヴメントの立役者としてイギリスのみならず世界中を揺さぶった伝説的存在としてその名を残すピストルズの成功と凋落を、メンバーへのインタビューと当時の映像から浮き彫りにしたドキュメンタリー。
かつてドキュメンタリー映画『グレート・ロックンロール・スウィンドル』を撮ったジュリアン・テンプルが、再び真実のピストルズの実像に迫ろうと取り組んだ意欲作。
■Check!
□変革期のイギリス
1970年代後半のイギリスは若年層の失業率の高さから、特にワーキング・クラスのティーンエイジャーたちが社会に対して抱く不満や怒りが渦巻いていた時代で、人種問題、失業問題が噴出した。こうした社会情勢から、群集と機動隊が衝突する場面も。また、ちょうどアイルランドの公民権運動が盛り上がっていた関係で、イギリスでもIRAによるテロ事件が頻発していた。
□公共機関のスト
冒頭で映し出されるカウンシルフラット(低所得者向けアパート)と、そのふもとのごみの山は、この時代を象徴する風景。当時清掃業者によるストライキが頻発し、都市部ではあちこちに回収されずに腐敗臭を放つごみの山ができていた。1970年代半ばのグラスゴーを舞台にした『ボクと空と麦畑』Ratcatcher (1999) にも、こうした清掃業者のストによるゴミの山が描かれている。
□キングズ・ロード430番地とヴィヴィアン・ウェストウッド
のちにピストルズの仕掛け人となるマルコム・マクラーレンは、当初ヴィヴィアン・ウェストウッドとともにロンドンのキングズロード430番地でで「レット・イット・ロック」というテディ・ボーイたち向けのブティックを経営していた。のちに店名を「Sex」と変え、フェティッシュなボンデージ・ファッションを扱いブームを作る。当時のキングズ・ロードは流行の発信地で、最先端のファッションに身を包んだ若者たちが集まる場所でもあった。ピストルズの出発点も、このマクラーレンの店の常連だったスティーブ・ジョーンズやポール・クックらのバンド「スワンカーズ」を原形に、ジョン・ライドンをヴォーカルに加えたところから始まる。
その後店名は「Seditionaries」、「ワールズ・エンド」と変わり、ヴィヴィアン・ウェストウッドは世界的なデザイナーになっていった。
Vivienne Westwood Worlds End
430, King's Rd London SW10 0LJ
www.viviennewestwood.com□Tescoで万引き
シェパーズ・ブッシュ(ロンドン西部)育ちのスティーブ・ジョーンズは、親がTesco(庶民派スーパーマーケット)で万引きするのを見て育ったと語っているように、かなりすさんだ少年時代を送っていたらしい。
>>www.tesco.com□両親はアイリッシュ移民
ロンドン北部で育ったジョン・ライドン(ジョニー・ロットン)の両親は、アイルランドからの移民。母はアリス・クーパーのファンで、子供時代はアイルランド民謡からT-Rexまで何でも聴いたという。そのことを指して「すごく趣味が広かった(=Extremely cathoric Taste)」と語っているが、これはアイルランド移民でカトリック教徒であることと、「cathoric=普遍的」という本来の意味を踏まえたかけことば。
□シェイクスピア
たびたび引用されるローレンス・オリヴィエ版『リチャード三世』Richard III (1954)の映像は、皆から憎まれ人々が眉をひそめるような外見を持った王に、自分を重ねているためだろう。 嫌われているからといってますます偽悪的に振る舞い、勝ち目のない戦いに突進していくリチャード三世の姿がだぶる。
ほかに、オリヴィエ版『ハムレット』Hamlet (1948)(ヨリックに話しかける場面)の映像も挿入されている。
□各メンバーへのインタビュー
シド・ヴィシャスへの映像は、彼が亡くなる前年(1978年)に、テンプル監督自身がハイドパークでインタビューしたもの。他のメンバーは逆光のシルエットで、マクラーレンのみラバーマスクをつけているのが異様に映る。
□F**K発言の波紋
ピストルズは、イギリスのテレビで初めて「f**k」と言ったことでも知られている。事件はテームズ・テレビの番組「トゥデイ」生放送中におこり、翌日の新聞は一斉にこの発言を一面で取り上げ、大騒ぎとなった。この映画の原題"The Filth and the Fury"とは、この事件の記事にThe Mirror紙がつけた有名な見出しからの引用。
□女王在位25周年記念の祝祭(1977)
ピストルズは、エリザベス女王の在位25周年記念として「ゴッド・セイヴ・ザ・クイーン」をリリースし、テムズ川下りのパーティーを開いて警察に逮捕される。 この曲は強い批判にもかかわらずチャートの一位に上り詰めた。
□ナンシー・スパンゲンへの嫌悪
シド・ヴィシャスの恋人、ナンシー・スパンゲン(スパンジンと発音している?)に対しては他のメンバーのすべてが強い嫌悪感を隠さない。「あんなネガティブなパワーを持った女は他にいない。」(スティーブ談)シドをヘロイン漬けにし、他のメンバーたちとの亀裂を作ったのはナンシーが原因だと思っているからだ。シドとナンシーについてはアレックス・コックス監督作品『シド&ナンシー』Sid and Nancy (1986) で描かれている。
□スティングの映画初出演
マルコム・マクラーレンが作らせた映画として挿入されている映像にスティングが登場する。談話によればこれがスティングの記念すべき映画初出演作だそうだ。
□trivia
"サルのお茶会"の映像に登場するのは、P.G.Tips。>>Have a Nice cup of Tea
ハンカチの四隅を結んで頭にかぶるのは自分の発明だとスティーブは語るが、このハンカチをかぶってポーズを取っている格好はまるでモンティ・パイソンに出てくる"ガンビー"のよう。 ちなみにガンビーはマイケル・ペイリンの故郷であるヨークシャーの浜辺にいる典型的なおっさんたちの姿だとか。
>>『モンティ・パイソン大全』須田泰成・著/洋泉社□関連映画
『グレート・ロックンロール・スウィンドル』The Great Rock 'n' Roll Swindle (1980)
ジュリアン・テンプル監督作品の、セックス・ピストルズに関するドキュメンタリー映画。これがM・マクラレンの視点から撮られているという意見もあったため、今回の作品でもう一度ピストルズを見つめなおすことになったという。『シド&ナンシー』Sid and Nancy (1986)
中途加入したピストルズのベーシスト、シド・ヴィシャスとその恋人ナンシーを中心に描いたアレックス・コックス監督作品。ゲイリー・オールドマン主演。■ロケ地:ロンドン各地
キングズ・ロード
ハイド・パーク(シド・ヴィシャスのインタビュー場面)
100 Club
100 Oxford street London W1D 1LL
www.the100club.co.ukEMI House
20 Manchester Square (W1U 3EJ)
現在のEMI Houseは43 Brook Greenに移動しているバッキンガム宮殿
Buckingham Palace Road, SW1ビッグ・ベンと国会議事堂周辺
ピカデリー・サーカス
ハダーズフィールド
■音楽
"God Save The Queen"
"Submission"
"Seventeen"
"Anarchy In The UK"デビュー曲。「I am a anti-Christ, I am a anarchist...」
"Pretty Vacant"
"Did You No Wrong"
"Liar"ウィルソン首相に捧げる曲だとか
"EMI"EMIとの契約を打ち切られたとき
"No Feelings"
"I Wanna Be Me"
"Problems"
"Holidays In The Sun"
"Bodies"
"My Way"シド・ヴィシャスが歌う"マイ・ワイ"
"No Fun"■出演
John Lydon .... ヴォーカル:通称ジョニー・ロットン
Sid Vicious .... ベース:グレンの脱退後ベーシストとして加入
Paul Cook .... ドラム
Steve Jones .... ギター
Glen Matlock .... ベース:オリジナル・メンバー。途中で脱退。Malcolm McLaren .... マネージャー
Nancy Spungen .... シド・ヴィシャスの恋人・アメリカ人その他映像に登場する人々:
ロキシー・ミュージック(ブライアン・フェリー)、アリス・クーパー、デイビッド・ボウイ、ポリス(スティングら)、ビリー・アイドル、スージ&ザ・バンシーズ(スージー・スー)、アダム・アント、ヴァージン会長リチャード・ブランソン、ベイシティ・ローラーズ、マーク・ボランなど■参考資料・ソフト
『ロックの冒険』キーワードロック編集部・編/洋泉社/1987年発行
オフィシャルサイト
http://www.no-future.org/その他:『勝手にしやがれ(原題:Never Mind The Bollocks)』
ピストルズが遺した唯一の公式アルバム。(2000年 イギリス 105分)
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