監督:Neil LaBute
原作小説:A.S. Byatt 小説『抱擁』1990年刊 ブッカー賞受賞作
脚本:David Henry Hwang/Laura Jones/Neil LaBute
アメリカから来た特別研究員ローランド・ミッチェルは、ヴィクトリア朝の桂冠詩人アッシュを研究しているうちに、これまでの定説を覆す大発見をする。 それは愛妻家で高潔な人物として知られるアッシュが妻以外の女性に・・・結婚もせずボヘミアン的な生き方をした女性詩人クリスタベル・ラモットに宛てて書かれた情熱的な恋文だった。ローランドは研究者でラモットの妹の曾孫でもあるモード・ベイリーに協力を仰いで調査を始めた。 やがてアッシュとラモットが密かに想いを通わせ、ふたりきりで旅行に出ていたことを突き止め、ローランドとベイリーも詩人たちの足跡をたどってヨークシャーへ。 研究を進めるうちにいつしかローランドとモードも互いに惹かれあうようになるが、情熱的なヴィクトリア朝の詩人たちと違って恋愛に臆病な現代人であるふたりは、なかなか次の一歩が踏み出せない。そしてふたりがたどり着いた驚くべき真実とは・・・
A.S. バイアットのブッカー賞受賞作を原作に、ハリウッドから『恋に落ちたシェイクスピア』Shakespere in Love (1998)のオスカー女優グィネス・パルトロウとニール・ラビュート監督作品に数多く出演しているアーロン・エッカートのふたり、そして『十二夜』Twelfth Night: Or What You Will (1996)のトビー・スティーブンス。
過去のパートでは『エマ』Emma(1996)のジェレミー・ノーザムや『高慢と偏見』Pride and Prejudice (1995)のジェニファー・イーリー、『フェイス』Face(1997)のリナ・ヒーディという実力派俳優を起用した話題作。
クリスティーズ(Christie's)と並んでイギリスの二大オークションハウスとして名高いサザビーズ(Sotheby's)は、18世紀創業の老舗。 アッシュの直筆もここでオークションにかけられている。
サザビーズ(Sotheby's) sothebys.ebay.com
クリスティーズ(Christie's)www.christies.com
中世以来イギリスでは当代一の詩人を称えこの称号が贈られてきたが、17世紀より正式に王室付きの詩人として任命されるようになった。 サウジー、テニソン、ワーズワースをはじめとして、ダニエル・ディ=ルイスの父セシル・デイ・ルイスも桂冠詩人として知られる。
*字幕の一部およびチラシなど各種媒体では一部「月桂詩人」となっていたが、一般的には「桂冠詩人」と訳される。
ラモットと同居している女性ブランチ・グローバーは画家。 ラモットに中世風の衣装を着せて絵のモデルにしているが、その描いている絵は当時流行していたラファエル前派風そのもの。
ラファエル前派とは、1848年にロンドンで結成された芸術家のグループで、硬直化した芸術規範を良しとせず、ラファエル以前の素朴な目で芸術と向き合おうとする運動。ダンテ・ガブリエル・ロセッティ、バーン・ジョーンズ、ジョン・エヴァレット・ミレイらを中心に、アーサー王伝説やテニソンの詩などに素材を求め中世風の衣装を描くことを好んだ。 ラモットがモデルになっていた絵は、ちょうどロセッティの画風に酷似している。
クラッブ=ロビンソン氏の夕食会で初顔合わせしたアッシュとラモット。アッシュから是非また逢いたいと請われるが、ラモットは次のような言葉で断る。「私の拙い手紙の方がキューカンバー・サンドウィッチのもてなしよりましでしょう。」
現在のイギリスではアフタヌーンティーの定番ともなっているきゅうりのサンドイッチだが、この時代のキュウリは高級品で、薄くスライスしていたのは価格が高かったからだとも言われる。
現代に比べてはるかに厳しい規律とモラルが求められた19世紀のイギリス、ヴィクトリア朝ロンドン(その反動で陰では性的奔放さや反社会的なものに対する渇望も強かったらしいのだが)。
女性は結婚して家庭に入るものという考えが一般的だった時代において、ラモットとブランチのような独立した成人女性が結婚もせず一緒に暮らしているという状況は、当時としてはかなり奇異に見られていただろう。 モードは"クリスタベルとブランチはレズビアンの関係だったのよ"と言っているが、どちらにせよ"変わり者"と周囲に思われていたことは間違いない。
また、アッシュとラモットのように、夫婦でもない男女がふたりきりで旅行に出ることも、当時のモラルからは大きく外れた行いだった。
チャールズ・ダーウィン
Darwin, Charles Robert (1809-1882)1859年に『種の起源』が発表されると、ダーウィンの理論はヴィクトリア朝のイギリス社会に衝撃を与え、知識層の間で物議をかもしていた。アッシュとラモット(ブランチを同伴していた)が再会したのも、ダーウィニズムの講演会でのこと。
ダーウィンの理論は生物の種の多様性は環境によってもたらされるもので、生物は環境の違いに適応ように進化していったという理論。
フランスから戻ったラモットがアッシュとともに交霊会に参加する場面が。
ヴィクトリア朝はまた神秘的・超自然的なものに対する関心が強まった時代でもあり、ヴィクトリア女王を始めとして上流階級の間では交霊会(降霊会)が盛んに行われていた。 >>『切り裂きジャック』Jack the Ripper (1988) など
映画『フェアリーテイル』FairyTale: A True Story (1997), 『妖精写真』Photographing Fairies (1997)などにも描かれているような神智学協会が盛んに活躍していたのもこの時代であった。
アッシュのモデルとなったのは、原作者のアントニア・バイアット自身も愛読者であると言うロバート・ブラウニングだといわれている。ロバート・ブラウニングは、実際に20世紀に成ってからこれまで知られていなかったJulia Wedgwood とのロマンスが発見されている。
ラモットのモデルは、クリスティーナ・ロセッティやエミリー・ディキンソン、そしてロバート・ブラウニングの妻エリザベス・バレット・ブラウニングという説が。
原作は1990年に発表されたA.S. Byattのブッカー賞受賞作『抱擁(Possession)』。
原作ではローランドはイギリス人青年。 アメリカ製作の映画なので、"型破りな若きアメリカ研究者が閉鎖的なイギリスのアカデミックな世界に風穴を開けた"という構図にしたかったのかも。
A.S. Byatt作品の映画化としては他にマーク・ライランス&クリスティン・スコット=トーマスの『変態愛 インセクト』Angels & Insects (1995) がある。小説"Morpho Eugenia"が原作だが、あまりにもひどい邦題。
(実際のロケ地については後述)
[大英博物館、ブルームズベリー地区]
大英博物館のあるブルームズベリー地区は、古くから文教地区として知られるアカデミックな場所。 ローランドやファーガスが出入りしている図書室や展示室、そしてアッシュの没後100年回顧展が開かれていたのも(大きな垂れ幕が入り口にかかっている)、この大英博物館。
他にロンドンの街並みの風景も映し出され、ローランドがダブルデッカー(赤い二階建てバス)の後部からひらりと飛び降りる場面も(停車中なら後部から勝手に降りても良い)。
ヴィクトリア朝の桂冠詩人アッシュが妻とともに住んでいたのも、このブルームズベリー地区のラッセル・スクエア。
[リッチモンド]
クリスタベル・ラモットが画家のブランチ・グローバーと暮らしていたのは、ロンドン郊外のリッチモンド。 女性二人が世俗を離れた生活を送るにふさわしい、テムズ川沿いの閑静な美しい街。
[Putney Bridge]
ブランチが身を投げたのは、ロンドン南西郊外のパットニー橋(テムズ川にかかる)。 リッチモンドよりはロンドン中心部に近い。
[リンカン大学(Lincoln University)]
モードの勤務先の大学 。 彼女はLincoln近郊に住んでいる。
[シール館(Seal Court)]
ラモットが晩年を過ごした屋敷(ラモットは妹夫婦のもとに身を寄せた)。 モードも幼少期をこの屋敷で過ごした。 現在はモードの親戚でもあるベイリー卿夫妻が当主としてこの館を管理している。 由緒ある屋敷らしく、アンティークにあふれた趣きある家。この屋敷からラモットとアッシュの往復書簡が発見される。
モードが運転する車で、アッシュたちが旅行したヨークシャーへ向かうローランド。(アメリカ人のローランドには、イギリスの右ハンドルの車は運転しづらいだろう) 大地を紫色に染め上げるヒース(ヘザー)、羊、蒸気機関車といういかにもヨークシャーらしい風景が美しい。
[Whitby]
"ストーの店"でアッシュは妻のエレンとラモットに装身具を買う。
[トマソン滝(Thomason Foss)]
アッシュとラモットが訪れた思い出の滝。 後ろにある滝つぼのことがラモットの詩に登場する
[North York Moors Railway]
ピカリング駅など、アッシュとラモットがヨークシャーへの旅行に使った。
www.nymr.demon.co.uk
(ギリシャ彫刻の部屋、図書室など)
サザビーのオークション会場など
シール館として
www.leightonhall.co.uk
モードの勤務先
www.lincoln.ac.uk
www.ravenhall.co.uk
Ravenscar,Scarborough,North Yorkshire, YO13 0ET
www.stonor.com
Henley-on-Thames,Oxfordshire RG9 6HFBuckinghamshireとなっている資料も
(Skipton近郊)
www.broughtonhall.co.uk
Skipton, North Yorkshire, BD23 6EX.
www.boltonabbey.com
By the courtesy of "Shooting the Past:
Possession"
その他の参考資料:DVDのオーディオ・コメンタリー
Aaron Eckhart .... Roland Michell (アメリカ人・特別研究員)
Gwyneth Paltrow .... Dr Maud Bailey (ラモットの姪の子孫、ラモット研究者)
Toby Stephens .... Fergus Wolfe(文学研究者・ローランドのライバル・モードのBF)
Trevor Eve .... Mortimer Cropper (アッシュ研究者にしてコレクター)
Tom Hickey .... Blackadder (ローランドやファーガスが師事している教授・アイルランド人)
Georgia Mackenzie .... Paola(ブラックアダー教授の秘書)
Graham Crowden.... Sir George Bailey(シール館の当主・モードの親戚)
Anna Massey .... Lady Bailey (シール館の当主夫人)
Tom Hollander .... Euan (弁護士・ローランドの友人)
Shelley Conn .... Candy (Euanのフラットメイト)
Jeremy Northam .... Randolph Henry Ash(桂冠詩人)
Jennifer Ehle .... Christabel LaMotte (詩人)
Lena Headey .... Blanche Glover (画家・ラモットと同棲中の恋人)
Holly Aird .... Ellen Ash(アッシュ夫人)
Holly Earl .... May Bailey (ラモットの姪)
Elodie Frenck .... Sabine (フランス人・ラモットのいとこ)
Meg Wynn Owen .... Mrs. Lees(霊媒師)
Christopher Good .... Crabb-Robinson(アッシュとラモットが出会った夕食会の主催者)
Official
www.possession-movie.comShooting the Past: Possession
shootingthepast.tripod.com/possession.htm
(2002年 アメリカ 102分)
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