タイトル*
監督:David Wickes
脚本:Derek Marlowe / David Wickes
19世紀末の大英帝国を震撼させた切り裂きジャック事件。 スコットランドヤードの腕利き警部補アバリーンは部下のゴドリーとともに、この難事件を担当するように命じられる。ヴィクトリア女王お抱えの霊媒師リーズの話によると、犯人は「二つの顔を持つ男」とのこと。 挙げられた容疑者は「ジキルとハイド」公演中の俳優マンスフィールド、警察医ルウェリン、御者のネトリー、そして外科医。 目撃者によってあまりにも異なる犯人の風貌、そして筆跡。 アバリーンはある結論にたどり着くが・・・。
切り裂きジャック事件から100周年を記念しマイケル・ケインを主演にイギリスで製作された作品。
5人の殺害現場や、社会背景の解説についてはこちらをご覧ください>>切り裂きジャックについて
作中の台詞にも「8万人の娼婦」とあるように、地方から上京したものの食うに困って街頭に立つ女性が急増していた。 ジンをはじめとするアルコールにおぼれ、劣悪な衛生状態に置かれていた。
ベイツの台詞「ポーランドやユダヤ、フランス人みたいな外国人が・・・」にもあるように、この時期イーストエンドは移民が急増し、旧来からの住民との間で何かと摩擦が起こっていた。
ゴシップ好きなロンドンっ子の間でもてはやされていたイラスト入りのラブロイド紙は、切り裂きジャック事件を気に爆発的に売り上げを伸ばした。一般紙、タブロイド紙を問わず、マスメディアは連日この事件のことをショッキングに報道し、人々の興味をそそった。
街頭に立って新聞の売り子をする少年たちの姿も目に付くが、この時代子供の人権などはないに等しく、特にイーストエンドでは子供も家計のために体を張って稼ぐことを余儀なくされていた。
エマが「ストランド・マガジン用に」と、ジキルとハイドの絵を描いていたが、ストランド・マガジンは、コナン・ドイルのシャーロック・ホームズシリーズを連載していたことでも知られる人気雑誌。
スコットランドヤード(Metropolitan Police Headquarter Office)と、ロンドン市警がことあるごとに対立しているさまが見て取れる。
イーストエンドの通りに「Remember Bloody Sunday」と書かれた旗を掲げている少年たちがいたが、これは1887年11月13日にトラファルガー・スクエアで起こった「血の日曜日事件」に抗議するもの(北アイルランドデリーで起きた血の日曜日事件"Bloody Sunday"とは別)。失業者や社会主義者など約二万人の群集と、警視総監のSirチャールズ・ウォーレンが指揮する警官隊が衝突し、大混乱となった。
この事件があった当時、1886年に発表されたスティーブンソンの小説『ジキル博士とハイド氏』をもとにした舞台がウェストエンドのライシアム劇場(Lyceum Theatre)で上演されていた。主演のアメリカ人俳優リチャード・マンスフィールドは大評判を取り、実際にスコットランドヤードで取調べを受けたこともある。未来のイギリス国王となるべき人物、ヴィクトリア女王の孫クラレンス公アルバートも観劇に来ていた。
Lyceum Theatre
Wellington Street, WC2E 7DA London
この作品には女王お抱えの霊媒師リーズも登場するが、ヴィクトリア朝末期のイギリスでは、オカルト趣味に傾倒する人々が増えていた。 神智学(映画『フェアリーテイル』FairyTale: A True Story (1997), 『妖精写真』Photographing Fairies (1997) 、黒魔術師アレグザンダー・クロウリーの台頭、秘密結社の隆盛など、怪しげなものに魅力を感じる人々が多かった。
高まる社会不満を背景にして、この時期のイギリスは社会主義者、共産主義者、無政府主義者が暗躍していた。 自警団の団長ジョージ・ラスクも社会主義者で、群集を故意に煽っていた。
"同じ王立協会員だから"と、部屋にダーウィンの像を飾っているガル医師。 「フランス人が抗議に来た」というのは、カトリック教国であるフランス人の方がより強烈にダーウィンの進化論に対して反発したため。
作中の台詞にもあるように、彼女は実際にフランスに旅行したことがある。 自宅近くのパブ「テン・ベルズ」に仲間の娼婦たちとともによく飲みに来ていた。
アニー・チャップマン殺害現場に落ちていた革のエプロンが犯人の遺留品とみなされたことから(実際には近隣の住民が捨てたものだった)、切り裂きジャックはレザー・エプロンを身に着ける職業の者(靴職人、肉屋、屠畜業)ではないかと疑われた。 ポーランド系ユダヤ人の靴職人パイザーや、ユダヤ人の精肉店主などが犯人扱いされたのもそのため。
キャサリン・エドウズ殺しの現場には「The Juwes are The men that Will not be Blamed for nothing.」という白いチョークの落書きが残っていた。 現代の警察なら証拠保全のために写真などの記録を残すところだが、現場にいた警官は"ユダヤ人に対する悪感情を刺激するから"というウォーレン警視の指示でこの落書きをさっさと消してしまった。 "Jews"となるべきところを"Juwes"と誤ったつづりで書いているところにも注目。
9月25日付
初めて切り裂きジャックの名前が記された第一の投書:セントラル・ニューズ・エージェンシー宛10月1日付
二重殺人について触れた手紙10月16日着
「From Hell(地獄より)」で始まるメモに、腎臓(キドニー)の一部が添えられた手紙。自警団長のジョージ・ラスク宛
メアリー・ケリーの死体が発見された11月9日は、ちょうどロード・メイヤー(ロンドン市長)ジェームズ・ホワイトヘッド卿の就任パレードがある日だった
Belper, Derbyshire, England
Michael Caine .... Chief Insp. Frederick Abberline (スコットランドヤード警部/45歳)
Lewis Collins .... George Godley巡査部長 (Abberlineの部下で相棒)
Jane Seymour .... Emma Prentiss (Abberlineの友人・女流画家)
Armand Assante .... Richard Mansfield (アメリカ人俳優)
Ken Bones .... Robert James Lees (女王の霊媒)[マスコミ
Jonathan Moore .... Benjamin Bates, STAR紙の記者
T.P. McKenna .... O'Connor, STAR紙の編集長
Peter Hughes .... Mr Paulson, Central News Agency[医者とその関係者]
Michael Hughes .... Dr. Rees Llewellyn(警察医)
Ray McAnally .... Sir William Gull(女王の侍医)
Richard Morant .... Dr. Theodore Acland (ガル卿の娘婿・外科医)
Gerald Sim .... Dr. George Bagster Phillips (警察医)
Ann Castle .... Lady Gull (ガル卿の妻)
Sandra Payne .... Mrs Acland (ガル卿の娘・Aclandの妻)[馬車関係者]
George Sweeney .... John Netley (御者)
Jon Croft .... Mr Thackeray of The Royal Muse[スコットランドヤード
Hugh Fraser.... Sir Charles Warren(警視総監)
Denys Hawthorne .... Robert Anderson(副総監 兼 CID部長)
Harry Andrews .... Coroner Wynne E. Baxter (検死官)[ロンドン市警
Edward Judd .... Arnold刑事課長(DCS)
Jon Laurimore .... John T. Spratling警部補
Peter Armitage .... Sergeant Kerby(巡査部長)
Gary Love .... Derek (若手警官)
John Fletcher .... P.C. Watkins
Christopher Fulford .... Sergeant Brent/Beggar[政府高官など]
David Swift .... ソールズベリ公爵ロバート・セシル卿(首相)
Ronald Hines .... 内務相Henry Matthews
Neville Phillips .... Cabinet Secretary[娼婦とその関係者]
Deirdre Costello .... Annie Chapman(娼婦・第2の被害者)
Angela Crow .... Liz Stride(娼婦・第の被害者)
Susan George .... Catherine 'Kate' Eddowes(娼婦・第の被害者)
Lysette Anthony .... Mary Jane Kelly(娼婦・第5の被害者)
Kelly Cryer .... Annette (フランス人娼婦)
Gary Shail .... Billy White(ポン引き)
David Ryall .... Thomas Bowyer(メアリーを発見した家賃集金人)[イーストエンドの人々]
Michael Gothard .... George Lusk (自警団のボス)
Roger Ashton-Griffiths .... Rodman(盲目の男)
Bruce Green .... John Pizer (レザー・エプロンをつけたユダヤ系ポーランド人の靴職人)
John Dair .... Isenschmid (ユダヤ人精肉屋)
Gertan Klauber .... Louis Diemschutz (リズ・ストライドを発見したユダヤ人)[その他]
Marc Culwick .... Prince Albert Victor Christian Edward the Duke of Clarence(女王の孫)
『図説 切り裂きジャック』
仁賀 克雄 (著) ふくろうの本 (2001/05/01) 河出書房新社『恐怖の都ロンドン』
スティーブ・ジョーンズ著/友成純一・訳/ちくま文庫(1997/05/01) 筑摩書房 ISBN: 4480032649字幕ビデオ2巻組(現在廃盤?)
(1988年 イギリス 184分)
監督:陳凱歌(チェン・カイコー)・・・『さらば、わが愛 覇王別姫』『花の影』
脚本:Kara Lindstrom
原作小説:ニッキ・フレンチ『優しく殺して』
撮影:Mivcael Coulter・・・『いつか晴れた日に』『ノッティングヒルの恋人』
音楽:パトリック・ドイル・・・ケネス・ブラナー作品など
衣装:ジェマ・ジャクソン・・・『ブリジット・ジョーンズの日記』
アメリカ人Webデザイナーのアリスは、ロンドンに来てはや一年半。恋人ジェイクとの同棲生活も順調で相性もまずまず。 ところがある朝出勤途中の交差点でふと手が触れたミステリアスな男アダムに電撃的な運命を感じ、吸い込まれるように官能の嵐に溺れていってしまう。 やがてアリスはジェイクとの平穏な恋愛を捨て、情熱的なアダムと結婚。 アダムは英雄的な雪山での救助活動で著名になった登山家だが、時にひどく衝動的な暴力行為に及ぶようなことがあった。 アダムの過去を何も知らないアリスのもとに、無言電話や脅迫めいた無記名の手紙が届くにつれ、彼女は夫への疑念を深めていくのだが・・・。
『さらば、わが愛 覇王別姫』『花の影』などの名作で知られる陳凱歌(チェン・カイコー)監督による初めての英語作品。
アリスが出勤に使う地下鉄の駅、長いエスカレーター、そして車内の様子など、いかにもロンドンの地下鉄といった風景が多く登場。 アデルの家を訪ねた時降りたのは地下鉄Northern Line線High Barnet駅。 ロンドン北部郊外にある駅なので、地下鉄といっても地上駅である。
アリスとアダムは、彼が子ども時代を過ごしたイングランド北部水地方に赴き、村の教会で結婚式を挙げる。 教会の裏手はすぐごつごつした岩場と潅木が茂る景色。 石垣の境界線が延々と続くのもこの地方らしい風景。
アダムを取材に来た女性は「The Gurdian」の記者ジョアンナ。どちらかというと左寄りの知識階級に好まれるクオリティ・ペーパー(高級紙。週末には別刷り紙面もつくのでぐっと厚くなる。 アダムの記事も「Guardian Weekend」にカラーで掲載されていた。
>>www.guardian.co.uk
アリスがアダムとの情事から戻ると、フラットには同棲中の恋人ジェイクがビール片手にTVでフットボール(サッカー)観戦。 恋人そっちのけで試合にのめりこむ姿に、アリスは急速に彼への愛が色褪せてしまったのを感じていた。
アダムとアリスが朝食をとっているダイニング・テーブルを見ると、大瓶のマーマイトや赤いギンガム・チェックの蓋でおなじみのフランス製ジャム"ボンヌ・ママン"が。 アリスはアメリカ人らしく、トーストにはジャムの方をつける。壁には磁石式の包丁置き場(つけ場?)がある。
アリスが、アダムの元恋人だったと思われる人妻アデルを尋ねると、そこにいたのはアデルの母親。毛糸で編んだお手製のティー・コージーをかけたポットでお茶をいれてくれる。
ネタばれとなるので反転させてください>>映画では「アダムの姉デボラの弟への屈折した愛情」が事件を引き起こしたが、原作は「デボラは登場せず、最後にアダムが自殺する」という筋書き。
Adelphi Building, Strand, London
John Adam Street, Strand, London
・・・アリスの勤め先や、アダムがいた書店などがある界隈。 Caffe Nero(カフェのチェーン店)の看板も見える。Castle Climbing Centre
・・・アダムやデボラがクライミングの練習をしていた練習場
The Castle, Green Lanes Stoke Newington London N4 2HA
www.castle-climbing.co.uk地下鉄Waterloo駅
地下鉄Northern Line線High Barnet駅
・・・アリスがアデルの家を訪ねに行く場面Matterdale, Cumbria, England
Tarn Hows, Cumbria, England
Heather Graham .... Alice Loudon (アメリカ人Webデザイナー)
Joseph Fiennes .... Adam Tallis (著名な登山家)
Natascha McElhone .... Debora Tallis(アダムの姉)Ian Hart .... Daniel(警官)
Jason Hughes .... Jake(アリスの元恋人)
Amy Robbins.... Silvie(アリスの親友)
Ulrich Thomsen .... Klaus(アダムの友人・伝記本の作者)
Yasmin Bannerman.... Joanna Noble(ガーディアン紙記者)
Kika Markham .... Mrs Blandhard(アダムの元恋人アデルの母)
Olivia Poulet .... Claudia(アリスの同僚)
Rebecca Palmar .... Michelle(アダムを中傷するfaxを送ってきた女性)
Ronan Vibert .... Mike
Helen Grace .... Lucy
原作
『優しく殺して』ニッキ・フレンチ著角川文庫 (2001/02/01)
(2002年 アメリカ 101分)
監督:パット・オコナー
製作:デヴィッド・パットナム
原作小説・脚本:Bernard MacLaverty ・・・ 『青い夜明け』The Dawning (1988)
撮影:Jerzy Zielinski
音楽:マーク・ノップラー
カトリックとプロテスタントの間の抗争が絶えない1980年代の北アイルランド。 20歳の孤独で繊細なカトリックの青年キャルも、積極的にIRA構成員となるまでには至らずとも、時にはテロや資金調達のための暴力行為の際の運転手として協力していた。 彼は町の図書館で見かけた年上の美しい未亡人マーセラの夫がIRAの襲撃により殺されたこと、そしてその襲撃は自分が運転手として協力した時に起こったものだと知り、良心の呵責に苦しむ。 罪の意識を感じながらもマーセラへの思いは日々募ってゆき、彼女のほうもキャルに好意を持つのだが・・・
バーナード・マクラバティの小説を原作にしたパット・オコナー監督の長編映画デビュー作。
一般地区と、カトリック系住民居住区との間には検問所(barrier)があり、銃を持った英国軍兵士がひとりひとり厳しく取調べしている。 食料を抱えてカトリック側の道路に車を停めていたマーセラも検問でチェックされている。 このような検問はベルファストを舞台にした映画『ボクサー』The Boxer (1997)にも登場。
住民間の対立を象徴するかのような落書きも目立つ。たとえばカトリック系住民の居住区には「Brits Out」、「Vote シンフェイン(シンフェイン党に投票しろ)」と。プロテスタント側は「Remember 1690(=オレンジ公ウィリアムがカトリック軍を撃破した1690年のボイン川の戦いを忘れるな)」や、ユニオンジャックの落書きが。
黒い服にオレンジ色のサッシュ(たすきのようなもの)をかけ、オレンジ公ウィリアムの旗を掲げて、鼓笛隊の演奏に合わせて行進するのは、いわゆる「オレンジ党、オレンジ結社(Orange Order)」と呼ばれるプロテスタントの人々。 オレンジ公ウィリアム(英国王ウィリアム三世)がボイン川(ダブリン北部)で前英国王ジェームズ二世(カトリック)を撃破った日である7月12日にパレードが行われることが多い。カトリックに対するプロテスタントの優位の象徴であるオレンジ公を掲げてのこのパレードは、しばしばカトリック住民に対する威圧としてカトリック居住区で行われることも多い。
北アイルランドでは、警官のほとんど(95%以上)がプロテスタント。IRAを弾圧し取り締まる立場にあるので、自然とテロの標的にされやすくなる。
アメリカで「Mixed Marriage」というと、白人と黒人、黒人とアジア人・・・といったように「肌の色が違う異人種間の結婚」を指すことが多いようだが、北アイルランドでは「異宗教間の結婚(プロテスタントとカトリック)」を意味する。図書館でマーセラの夫がIRAに殺されたことをキャルに耳打ちした男が、「Mixed Marriageは良くない」と言っているのは、マーセラはプロテスタント系男性と結婚したカトリック系住民だということ。姑モートン夫人が部屋にダイアナ妃とチャールズ皇太子のカレンダーをかけてといういるのが、いかにもプロテスタントの家庭らしい。
カトリック系住民が95%以上を占める南のアイルランド共和国(Eire)と違い、イギリス領の北アイルランド(アルスター地方)ではプロテスタント系住民が多数を占め、支配階級として社会の中枢にいる。 この時代は両者の対立が非常に激しかった頃で、カトリック系住民であるキャルの家にもUVF(アルスター義勇軍)からと称する嫌がらせの手紙が届き、通りを歩いているとユニオン・ジャックの服を着た男たちにリンチに遭い、彼のささやかな家も焼き討ちに遭ってしまう。 北アイルランドのベルファストでは1970年代初めにカトリック系住民が集団で特定地域に移住させられ、ゲットー化している。このような地域は劣悪な環境におかれ、貧困に苦しんでいる。先述のオレンジ党のパレードもわざわざこのカトリック居住区を行進して威圧することが多い。
屠畜場に勤めるキャルの父は「ここならカトリックでも雇ってくれる」と、息子にも同じ職場で働くことを勧めるが、これはつまりカトリックには働き口が限られているということ。モートン氏の農場で一緒に働くことになったダンロップ氏(オレンジマンの行進に参加していた)も「運がいいぞ、普通はお前たちのような連中は雇わないんだから。」と言う。ダンロップ氏は車のフロントガラスに、ユニオンジャックとオレンジ公ウィリアムの絵がついたステッカーを貼っているので、検問でもすんなり通れる。
穏やかな物腰ながら凄みのあるIRAメンバーSkeffington氏。彼の「ピアースも嘆いた。"我が子は信仰篤く戦わない"と」という言葉に、「1916年は違った」と異論を唱えるキャル。それに対しSkeffington氏は「1916年だろうが1960年だろうが状況は変わっちゃいない。私はデリーで13人の同胞が殺されるのを見た。」と語り始める。
ピアースというのは、詩人にして民族主義者のPatrick Henry Pearse(1879-1916)のこと。イースター蜂起の際にダブリン中央郵便局正面で「アイルランド共和国樹立宣言」を読み上げた。イースター蜂起で英国軍により処刑される。
「1916年」は、1916年4月24日にイギリス支配の圧制に対しアイルランド人が立ち上がった「イースター蜂起(Easter Ribellion)」を指す。 パトリック・ピアス、デ・ヴァレラ(のちのアイルランド共和国大統領、映画『マイケル・コリンズ』Michael Collins (1996))、ジェイムズ・コノリーらに率いられた1500人のアイルランド義勇兵、第一次大戦を機にイギリスからの独立を図ろうと立ち上がったもの。 この蜂起はまもなく英国郡によって鎮圧され、16人の指導者が処刑された。
「デリーで13人のアイルランド人が犠牲になった」というのは、1972年1月30日にデリー(またはロンドンデリー)のカトリック系住民居住区ボグサイドで起きた「血の日曜日事件(Bloody Sunday)」のこと。公民権運動のデモに向かって英国軍パラシュート部隊が発砲し、13人の犠牲者を出した。これをきっかけに、イギリスによる北アイルランド直接統治が始まることになる。
「Cal」の発音はどちらかというと「カル」に近いようだ。
Drogheda, County Louth, Ireland
・・・Ship Streetなど
http://www.drogheda-tourism.com/Newbridge, Co. Kildare
モートン家の農場Delgany, Co. Wicklow
ジャガイモ畑Charleville Mall Library, North Strand, Dublin 1
図書館Navan, Co Meath
Sally Gap, Wicklow Mountains
Crone Wood, Glencree, Co. Wicklow (near Powerscourt Waterfall)
カンヌ国際映画祭:女優賞受賞(ヘレン・ミレン)、グランプリノミネート
英アカデミー賞(BAFTA):2部門ノミネート(女優賞=ヘレン・ミレン、新人賞=ジョン・リンチ)
Helen Mirren .... Marcella Morton (警官の未亡人)
John Lynch .... Cal McCluskie (カトリックの青年)Donal McCann .... Shamie McCluskie (キャルの父・屠畜場職員)
John Kavanagh .... Skeffington (IRA活動家・教師)
Ray McAnally .... Cyril Dunlop(プロテスタント・時々Morton家の手伝いに)
Stevan Rimkus .... Crilly (IRA活動家・屠畜場職員)
Kitty Gibson .... Mrs Morton (Marcellaの姑)
Seamus Forde .... Mr Morton (Marcellaの舅・息子を殺された際に傷を負う)
Audrey Johnson .... Lucy (Marcellaの娘)
Brian Munn .... Robert Morton (暗殺された警官・Marcellaの夫)
Edward Byrne .... Skeffington Sr (IRA活動家Skeffington氏のの父)
Louis Rolston .... Dermot Ryan
Tom Hickey .... クリスマスに説教していた男
Gerard Mannix Flynn .... Arty (Calの知人)
(1984年 イギリス 105分)
製作:イスマイル・マーチャント
監督:ジェームズ・アイヴォリー
脚本:ルース・ジャブヴァーラ
音楽:リチャード・ロビンス
原作:ヘンリー・ジェームズ『金色の盃』
舞台は20世紀初頭(1903-1909)、エドワード朝のイギリス。 美貌と才気を兼ね備えたアメリカ人女性シャーロットは、イタリアの没落貴族アメリーゴと恋をしていたが、お互いの貧しさゆえ結婚することが出来なかった。 アメリーゴが婚約したのはマギーというアメリカの億万長者の娘で、シャーロットの幼なじみ。 知人のファニーがアメリーゴとシャーロットとの経緯を知らせないまま仲人を務めたのだ。結婚式の三日前、シャーロットはマギーへの結婚祝いを選ぶという口実でアメリーゴと出かけ、骨董店で金色の盃を手にするが、一見完璧に見える美しい盃にはひびが入っていたので、そのまま買わずに帰る。
一方、幼なじみのマギーの招待でシャーロットは彼女の屋敷を訪れる。 マギーとアメリーゴがローマに旅行に行っている間、シャーロットはマギーの父親である親子ほども年の離れた富豪のヴァーヴァー氏に見初められ、プロポーズを受ける。 集めた美術品を故郷に持ち帰り、芸術を知らない炭鉱町に立派な美術館を建てるという生涯の夢を実現させるパートナーにシャーロットを選んだのだ。 こうしてかつて結ばれなかった恋人同士は、義母と娘婿という奇妙な関係になってしまった。
こうして二組の結婚生活が始まったが、マギー父娘のあまりにも強い絆を前にシャーロットの疎外感は強まる一方。 しだいにアメリーゴと近づくようになるのだが・・・
本作は、ヘンリー・ジェームズ(1843-1916年)が1904年に発表した小説_The Golden Bowl_(『金色の盃』または『黄金の盃』)の映画化。ヘンリー・ジェイムズはアメリカ・ニューヨークに生まれるが、幼少の頃から母国とイギリスを行き来し、のちイギリスに帰化する。
ヘンリー・ジェイムズ作品はたびたび映画化されており、近年話題になった『鳩の翼』The Wings of the Dove (1997) 、ジェーン・カンピオン監督作品『ある貴婦人の肖像』The Portrait of a Lady (1996)、ウィリアム・ワイラー監督作品『女相続人』(1946)(原作は_Washington Square_)、そしてたびたび映画やTVなどで映像化されている『ねじの回転(The Turn of the Screw)』。
イスマエル=マーチャント・プロでは、本作以前に『ヨーロピアンズ』The Europeans (1979)、クリストファー・リーヴ&ヴァネッサ・レッドグレイヴ主演で『ボストニアン』The Bostonians(1984)を映画化している。
ヴァーヴァー氏のロンドンでの住まいはクリーヴランド・ロウ。その娘マギー夫婦の新居はカールトンハウス・テラス。この二つはSt.JamesParkとPallMallに挟まれた閑静な高級住宅街で、いわゆるセント・ジェームズ界隈と呼ばれるエリアにある。
上流階級の間で趣向を凝らした衣装に身を包んで参加する仮装舞踏会が催されるのはよくあること(たとえば映画『レディ・カロライン』 Lady Caroline Lamb (1972) )。 この作品の仮装舞踏会は、1890年代にロンドンのパークレーンにあるデヴォンシャー公爵邸で催された舞踏会の記録に基づいて演出されているとか。
シャーロットとアメリーゴは、ロンドンに変える時間が遅れた言い訳としてグロスター大聖堂を見に行っていたことにしていた。 ふたりともこのグロスター大聖堂に葬られていた有名な王が、リチャード二世だったかエドワード二世だったかわからない。
正解はエドワード二世の方。 エドワード二世は近くのバークレー城で肛門から焼火箸を突っ込まれるという残酷な方法で殺害され(王の身体に傷を残してはいけないので)、グロスター大聖堂に埋葬された。>>映画『エドワードII』Edward II(1991)ちなみにリチャード二世の遺体は、リチャードから王位を簒奪したヘンリー四世がロンドン郊外キングス・ラングリーのドミニカン・チャーチに埋葬したが、その息子であるヘンリー五世は即位するとすぐロンドンのウェストミンスター・アビーに改葬した。
カッスルディーン夫妻の招きでマッチャムに滞在していたアメリーゴ。 帰りが遅くなり夕食は軽く済ませてきたと妻に告げるにあたって、「Innでシェパーズパイを食べてきた」と言う。 Innとは宿とパブ(食事も出来る)を兼ねたようなもの。 シェパーズパイは、煮込んだ羊肉の上にマッシュポテトを載せて焼いた料理。
シャーロットとアメリーゴは、人目を避けて逢う時にマダム・タッソー蝋人形館に行った。「ここなら我々の知り合いが来そうにないから」と。現在でも観光客でごった返すロンドンの名所だが、当時も館内にいたのはおのぼりさんや子供たちばかりで、シャーロットたちが知人に見つからずに話をするには絶好の場所と思われる。
また、蒸気機関博物館に行く場面も。
美術品蒐集に情熱を傾けるヴァーヴァー氏の屋敷には、美術品や値の張りそうなアンティーク家具、調度品がたくさん。 マギーの幼い息子を銀のワインクーラーで行水させている場面にはため息。 骨董店でのやり取りの間にも、たくさんのアンティークが画面に登場する。
・・・ヴァーヴァー氏が借りているカントリーハウスFawns荘として。
ラトランド公爵の館
住所:Grantham, Lincolnshire NG32 1PD
・・・ヴァーヴァー氏が借りているカントリーハウスFawns荘として。
Burghley House
Stamford, Lincolnshire PE9 3JY
http://www.burghley.co.uk/
・・・マギーとアメリーゴのロンドンでの住まいの外観として
multimap.com
・・・マギーとアメリーゴの屋敷内部、ヴァーヴァー氏の屋敷の内部として
ロンドン市長の住まい
住所:London EC4N 8BH
・・・ランカスターハウスでの仮装舞踏会場として
Grand HallとMusic Roomが使用された
住所:Stable Yard, St. James' London SW1A 1BB
住所:Stowmarket, Suffolk, IP14 6EF
http://www.helmingham.com/
www.kbsm.org
Green Dragon lane, Brentford, TW8 0EN
Prince Massimo's Castle, Arsoli, Rome, Lazio, Italy
ローマ近郊にあるアメリーゴのウゴリーニ城として
Uma Thurman .... Charlotte Stant(アメリカ人・Adamの妻・Amerigoの元恋人)
Jeremy Northam .... Prince Amerigo(イタリアの没落貴族・Maggieの夫)
Kate Beckinsale .... Maggie Verver(アメリカ人富豪Adamの娘・Amerigoの妻)
Nick Nolte .... Adam Verver (アメリカ人億万長者・美術蒐集家)Anjelica Huston .... Fanny Assingham(Charlotteの友人・Maggieの縁談を取り持つ)
James Fox .... Colonel Bob Assingham (Fannyの夫)
Madeleine Potter .... Lady Castledean(Charlotteらを自邸に招待した貴婦人)
Nicholas Day .... Lord Castledean
Peter Eyre .... Jarvis(金色の盃を売った骨董店主)
Nickolas Grace .... アメリーゴの先祖の解説をする講師
Robin Hart .... Mr Blint(Lady Castledeanの浮気相手)
http://us.imdb.com/Title?0200669
オフィシャルサイト
http://www.merchantivory.com/goldenbowl/news.html
http://www.cinemaparisien.com/thegoldenbowl/原作
『金色の盃』 (上巻・下巻)
ヘンリー・ジェイムズ (著), 青木 次生 (翻訳) 講談社文芸文庫 (2001/08/01)
(2000年 英=米=仏 134分)
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