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Cambridge Spies (2003)

〜ケンブリッジのスパイたち・・・フィルビー、バージェス、ブラント、マクレーン〜

Story Check & 解説 主な実在の登場人物 年表
ロケ地 キャスト 参考資料とリンク  

| Jerusalem | ケンブリッジ | ケンブリッジ使徒会 | 各国情報機関 (MI6, MI5, KGB)| ユダヤ人 | スペイン内戦、ゲルニカ | 友情か、国か | KGB連絡員オットー | 同性愛 | Middlemarch | 英国王室 | エニグマとブレッチレー | Turnbull & Asser | クリヴィツキー事件 | シェパーズパイ、Birdsカスタード | イギリスとの別れ |

 

エルサレム/Jerusalem

第1話冒頭と最終話のラストに流れる曲は、"イギリス第二の国歌"と呼ばれるほど広く親しまれている讃美歌「Jerusalem」。 ウィリアム・ブレイク(詩人・画家)の詩に、1916年にパリーが曲をつけたもの。 非常に愛国的な色彩を帯びた曲で、毎年夏にロイヤル・アルバート・ホールで開催されるクラシック・コンサートの祭典"プロムス"の最終夜"ラストナイト"では必ずといってよいほど大合唱となる。

映画『炎のランナー』Chariots of Fire(1981)の原題はこの歌の二番の歌詞から取られたもの。また、『旅する女 シャーリー・バレンタイン』Shirley Valentine (1989) 『恋する女たち』Women in Love (1970)等にも登場する。厳かな曲だけにジョークの対象にもなりやすく、モンティ・パイソンシリーズにもしばしば登場する(茶箱に入ってこの歌を歌ったり・・・)。

Jerusalem (1916; orch. 1922)
Word by William Blake (1757-1827)

And did those feet in ancient time
Walk upon England's mountains green?
And was the Holy Lamb of God
On England's pleasant pastures seen?
And did the Countenance Divine
Shine forth upon our clouded hills?
And was Jerusalem builded here
Among these dark Satanic mills?

Bring me my bow of burning gold!
Bring me my arrows of desire!
Bring me my spear! O clouds unfold!
Bring me my Chariot of Fire!
I will not cease from mental fight;
Nor shall my sword sleep in my hand
Till we have built Jerusalem
In England's green and pleasant land.

ケンブリッジの学生生活

4人が出会ったケンブリッジは、ご存知、オックスフォードと並んで最も権威あるイギリスの最高学府。中でも彼らが学んでいたトリニティ・コレッジは、ケンブリッジの中でも一、二を争う有名かつ有力な学寮。

Trinity College
www.trin.cam.ac.uk

彼らの学生生活が垣間見えて興味深い。 コレッジの芝生で談笑する学生たち、食堂に集まってとる朝食、教授らと同席する栄誉あるハイ・テーブルでの食事、ケム川でのパンティング(長い棒を川底に突いて進むボート遊び)等。 ブラント以外の3人が裸になって飛び込んだのもケム川。

ケンブリッジでの学生生活が描かれている映画としては、他に『モーリス』Maurice (1987)等が挙げられる。

Cambridge University
www.cam.ac.uk

 

ケンブリッジ使徒会(The Apostles)

アントニー・ブラント、ガイ・バージェス、ジュリアン・ベルの3人は、「使徒会(The Apostles)」と呼ばれるケンブリッジの中でもエリート中のエリートが集まるシークレット・ソサエティに所属していた。 ドラマの中にもフィルビーとマクレーンが、ブラントとバージェスが使徒会に入っていると言う台詞が。

ケンブリッジ使徒会は、1820年の創立以来、詩人のテニソンや哲学者バートランド・ラッセル、ヴィトゲンシュタイン、経済学者ケインズ、作家E.M.フォースターやリットン・ストレイチー、そしてイギリスを震撼させたダブルスパイのガイ・バージェスやアントニー・ブラントら、さまざまな分野に多くの足跡を残した知識人たちを輩出した。

情報機関 (MI6, MI5, KGB)

MI6 = Military Intelligence 6
(イギリス)軍事情報活動第6部(秘密情報部)。SIS(Secret Intelligence Service)とも呼ばれる。

MI5 = Military Intelligence 5
(イギリス)軍事情報活動第5部(保安部) www.mi5.gov.uk

KGB = Komitet Gosudarstvennoy Bezopasnosti
(旧ソ連)国家保安委員会

CIA = Central Intelligence Agency
(アメリカ) 中央情報局

FBI = Federal Bureau of Investigation
(アメリカ) 連邦捜査局

ユダヤ人に対する感情

パブでフィルビーがミリアムという女性と談笑していた時、彼女にぶつかって飲み物をこぼした学生は、彼女がユダヤ人であるという理由で謝罪を拒む。 第二次大戦も近い1934年という時代、ナチスがユダヤ人への弾圧を強めていった時代という背景もあり、国粋主義的な人々はユダヤ人への差別を隠そうとしなかった。

スペイン内戦、ゲルニカの悲劇

スペインでは1936年2月の総選挙の結果、 人民戦線派が勝利し民主改革を提唱。富裕層(地主、資本家、教会)は労働者階級の台頭を恐れた。 7月18日、ファシストのフランコ将軍が新政府に対して反乱。労働組合を核とした民兵がファシストに対抗し内戦が始まった。

フランコ将軍 /Francisco Franco y Bahamonde(1892-1975)
スペインの政治家。国家主席。1936年人民戦線政府成立に対抗し、反政府クーデターを組織。国民政府主席および軍司令官となる。二年半にわたる内乱に勝利をおさめ、独裁的な国家に統一した。
フィルビーはこのフランコ将軍に勲章を与えられている。

イギリス人からもファシズムに反感を持つ者たちが多数スペイン内戦に参加していた。 ジュリアン・ベルもそのひとりで、周囲の反対もあって直接戦闘には参加していなかったが、救急車で移動中に爆撃され死亡した。
映画『アナザー・カントリー』でも共産主義の青年Judd(詩人ジョン・コーンフォードがモデルといわれている)はパブリック・スクール卒業後スペイン内戦に参加し命を落とす。

ゲルニカの悲劇とは、1937年4月26日にスペイン北部バスク地方の村ゲルニカがフランコ将軍の要請により出撃したナチス・ドイツ軍に寄って空爆された事件。ピカソの有名な作品「ゲルニカ」はこの事件を描いたもの。 ドラマではフィルビーがこの凄惨な現場の取材に訪れている。 彼はフランコ側から報道する立場にいたため、ドイツ軍の空爆だということを否定せざるを得なかった。

国を裏切る勇気

フランコ将軍の暗殺に失敗したフィルビーを優しく迎えるバージェス。 バージェスの台詞「If I had to betray my country or betray my friend, I hope I should have the guts to betray my country.」は、彼と同じくケンブリッジ出身の作家(使徒会員でもあった)E.M. フォースターの有名な言葉。

自分の国を裏切るか、自分の友人を裏切るか、どちらかを選ばなければならないとしたら、国を裏切る勇気を持ちたいと思う。
(If I had to choose between betraying my country and betraying my friend, I hope I should have the guts to betray my country. 1938年 E.M.フォースター)

KGB連絡員オットー

ロンドンのリージェント・パークでしばしば4人に接触していたKGB連絡員オットーは実在の人物。 チェコスロバキア出身で、第一次大戦前は司祭だったという。

ソ連の指導者スターリンは、1934年に後継者と見られていたキーロフが暗殺されたのを契機にいわゆる「血の粛清」(1934-38)と呼ばれる大掛かりな粛清を開始し、独裁者としての地位を固めた。 この粛清で1200万人以上が逮捕され、数百万人が処刑・収容所への収容で命を落とした。 ドラマの中でも語られていたが、オットーも1938年にソビエトに召還され、処分されることになった。

同性愛

バージェスは比較的あけっぴろげな同性愛者で、自分の性的嗜好を隠そうともせずしばしば公衆トイレ等で相手を探していたらしい。 予定を聞かれて「ハイドパークコーナーのトイレに行く」等と答えている場面も(第3話)。ある日持っていたペーパーバック(ジョージ・エリオットのMiddlemarch)のページを破いてメッセージを書き、トイレの隣の個室に渡したところを通報され逮捕されてしまった。 現在とは異なり、当時は同性愛が法律で禁じられていた。バージェスはボウ・ストリートの裁判所に出頭することに。

ケンジントン宮殿に招かれたブラントは、ジョージ6世の妃エリザベスに「ゲイやスパイは口ひげを生やさないわ。何かを隠している人には口ひげを生やさないものよ」と言われて苦笑する。ブラントはその両方だったのだから。

第4話でバッキンガム宮殿を訪問したブラントが、エリザベス皇太后(クイーン・マザー)と親しく話している場面。 皇太后は"You and I, Anothony. 2 Queens in pod."と言って笑う。 "Queen"には「女王・王妃」と「おかま」の二つの意味があるため、これはその掛詞。

『ミドルマーチ』/Middlemarch

ヴィクトリア朝を代表する作家のひとりジョージ・エリオットによる、イギリス近代文学の最高傑作と謳われている作品。 バージェスがトイレでボーイ・ハンティングをしていた時に、『ミドルマーチ』のペーパーバックのページを破いてメッセージを書き込んでいた。 また、永遠にイギリスを去ろうとしていた彼が、ブラントにもらっていたのもこの本。

『ミドルマーチ』講談社文芸文庫(全4巻)


George Eliotの住んでいた家

エニグマとブレッチレー・パーク

ドイツがソビエトを攻めるという重要な機密を知りえたのは、イギリスがドイツの暗号「エニグマ」解読に成功していたため。 この「エニグマ」解読に尽力した研究者たちが集まっていたのが、ブレッチレー・パークだった。

ブレッチレー・パークは、Buckinghamshireのミルトン・キーンズ近郊にあるマナーハウスを、1939年8月軍が接収して国立暗号研究所(GCCS: Government Code and Cypher School)として1946年まで使用していたもの。オックスフォード、ケンブリッジなどからアラン・チューリングをはじめとする非常に優秀な人材を集めて暗号の解読研究にあたっていた。戦時中は"Station X"と呼ばれ、極秘中の極秘事項としてひた隠しにされていた。1941年5月に英国海軍が命懸けでドイツ軍の潜水艦"Uボート"から持ち帰った暗号機「エニグマ」を研究し、ついに解読に成功し連合国側を勝利に導いた。

ブラントが "沈黙してしまったスパイ"ケアンクロスの様子を見に行ったのも、このブレッチレーパーク近く。ケアンクロスはブレッチレー・パークに勤務しており、ここで得た情報をソビエト側に流していた。

ブレッチレーパークを描いた作品には、『エニグマ』 Enigma (2001) 『掟/ブレイキング・ザ・コード』Breaking the Code (1996)等がある。

ターンブル&アッサー/ Turnbull & Asser

洒落者のバージェスは、ドラマの中で高級紳士服の老舗ターンブル&アッサーを何度か訪れている。 ソビエトに逃亡する前にブラントとともに訪れたバージェスは、「(寒いところに行くのだから)コートをプレゼントさせてほしい。最高のコートを着ていてほしいから」と言われ、彼の真意を理解する。

ターンブル&アッサーはかのウィンストン・チャーチルからチャールズ皇太子、ジェームズ・ボンドも愛用していたことでも知られる王室御用達の高級紳士服店で、最高級のシャツメーカー。

www.turnbullandasser.com

 

クリヴィツキー事件/Walter Krivitsky

1939年 ソビエト側の情報員Walter Krivitskyが、イギリスに潜入している61人のジェージェントがいると英国側に情報をもらそうとしたことがあった。 名は特定できないが"背の高い金髪の名家出身でボヘミアンテイストのスコットランド人"(マクレーンのこと)とがいると。結局 1941年 2月10日 Walter KrivitskyがワシントンのBellevue Hotelで遺体となって発見される。

 

シェパーズパイ、スポティッド・ディック、Birdsカスタード

アイリーンという女性と再婚したフィルビーに「結婚生活はどう?」と尋ねるマクレーンの妻メリンダ。アメリカ人である彼女は夫を理解するために、イギリスの習慣や文化について勉強しているようだ。 「シェパーズ・パイとコッテージ・パイの違いがわかる? 下着にもアイロンをかける?」

シェパーズ・パイやコテージ・パイはイギリス独特の料理なので、外国人にはピンとこないもの。シェパーズ・パイは羊の挽肉もしくは細切れ肉を煮込んだものの上にマッシュ・ポテトをのせて焼いた料理。 コッテージパイは、羊の代わりに牛肉を用いる。>>シェパーズ・パイ

また、メリンダはディナーの席でバーズ・カスタードクリームにまつわる創業者の心温まるエピソードを披露する。 「Birds」は粉状のインスタント・カスタードクリームのトップメーカーで、イギリスの家庭には欠かせない商品。

この時、「スポティッド・ドッグ?いえ、ダックだったかしら?」と言いつつ、イギリスの伝統的なお菓子「Spotted Dick」を持ってくる。これは干しブドウやナツメグなどのスパイス類を入れた蒸しケーキ。『ラルフ一世はアメリカン』 King Ralph (1991)にも登場。

イギリスとの永遠の別れ

ダブル・エージェントであることが発覚しそうになったバージェスとマクレーンは、金曜日の深夜、サウサンプトン港に向かって車を走らせる。 「暗くなかったらいいのに。イングリッシュ・カントリーサイドが見えない・・・」 目に焼き付けておきたかった美しいイギリスの田園風景を車窓から見ることはできなかった。

彼らが乗ったフランス行きの船の出航時間は深夜23時だったと記録にある。 ドラマと同じく、実際彼らは港にいた人に「月曜には戻る」と声をかけて乗船していた。 イギリスから遠ざかるに従って夜も明け始め、薄明の中にイギリスの「ホワイトクリフ」と呼ばれる白い石灰岩質の崖が見える。

 


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