タイトル*
監督:スティーブン・フリアーズ『危険な関係』『ハイ・フィデリティ』
脚本:ジミー・マクガヴァン・・・『心理探偵フィッツ』『ハート』
原作:_The Black Crack Boy_ by Joseph McKeown
1930年代、二つの大戦の狭間で不況の風が吹き荒れるリヴァプール。内気で吃音気味の7歳の少年リアムは、敬虔なカトリック信者の両親と兄・姉の5人暮らし。 初聖体拝領をひかえて学校では準備のために連日神様のお話に耳を傾けていた。ある時、父が勤めていた造船工場が突然閉鎖されてしまい、貧しい一家はたちまち生活費にもこと欠くように。 姉のテレーザは裕福なユダヤ人家庭にメイドとして働き始めるが、自分の家とのあまりの違いに驚き、また奥様の不倫を目撃し戸惑う。やがて誇り高い労働者である父は、低賃金で働くアイルランド移民や裕福なユダヤ人たちに憎しみの目を向けるようになり、ファシスト運動に身を投じてゆくが・・・
イギリス人にとって大晦日は飲んで歌って騒ぐお祭り気分の夜。 リアムの両親もパブに出かけて踊り、夜空には花火が打ち上げられている。
イングランド人でありながら(=アイルランド移民でもないのに)、カトリックを信仰しているリアム一家。 貧しいながらも父の給料日になると献金を集めに来る神父様に寄付金を払ってしまい、生活費にも事欠く有様。
リアムが通う小学校でも宗教教育に熱心で、特に初めての聖体拝領を控えて訓話にも一層熱が入る。地獄の業火の話、罪の話など、小さな子どもにはトラウマになりかねない恐ろしい説教が繰り返される。カトリックの常として、教会での懺悔が重要視される。 かわるがわる懺悔用の小部屋に入って、神父に罪を告白し、神の赦しを請う。
イギリスではカトリックは少数派だが、アイルランド移民が多いこともあってリヴァプールに住むカトリック信者が少なくない。 街の中心部には英国国教会とカトリック教会のふたつの大聖堂が建っている。
リヴァプールのカトリックが描かれている作品:
『司祭』Priest (1994)
『遠い声、静かな暮し』 Distant Voices, Still Lives (1988)
初聖体拝領とは7-8歳になった子供が始めて聖餐式(ワインをキリストの血に、パンをキリストの体に見立てていただく儀式。実際はパンでなく丸いウェファースのようなものを舌にのせてもらう。)に参加すること。カトリックの子どもたちにとって、これは人生の一大イベント。男の子は黒いスーツのようなもの、女の子は白いドレスに白いベールかぶって儀式にのぞむ。儀式にあたってその前に懺悔を済ませておく必要がある。
初聖体拝領が終わった子どもたちは、大人からおこづかいをもらえる習慣がある。尼さんたちが、着飾っていていかにも初聖体拝領を済ませたばかりといった風情の子どもたちに小銭を与えたのもそのため。儀式の後もらった小遣いを握り締めた子どもたちで映画館は一杯に。
参考:
『レイニング・ストーンズ』Raining Stones(1993)
初めての聖体拝領に娘に着せるドレスを買うために奔走する父親が描かれている。
『アンジェラの灰』 Angela's Ashes (1999)
『私が愛したギャングスター』 Ordinary Decent Criminal (2000)
19世紀のジャガイモ飢饉により、多くのアイルランド人は海外に移民していった。 移民するにあたって彼らがまずやってきたのは、お隣イギリスの港町、リヴァプール。 ここからさらにアメリカへ、ロンドンへと流れていったが、中にはそのままリヴァプールにとどまるアイルランド人も少なくなかった。 このような事情でリヴァプールは今でもアイルランド系住民の割合が非常に高い(人口の4割近いとか)。映画『ヒア・マイ・ソング』Hear My Song (1991)にもこのようなリヴァプールに根を下ろしたアイルランド系移民コミュニティが描かれている。
パブで「I'll Take You Home Again Kathleen」とアイリッシュ・トラッドを気持ちよさそうに歌うアイルランド系のリジーは、「この国が気に入らなきゃ帰りな」と言われ、ムキになって今度はIRAの歌(The Belfast Brigade?)を。
それに対抗して文句をつけた女は「For it's here I am an Orangeman, just come across the sea...」とオレンジ党員の歌を歌い始める。のちにリアムが真似をしてオレンジ党員の歌を口ずさんでいると、「プロテスタントの歌は歌うな」としかられる。 リアムの家庭は「イギリス人なのにカトリック」という少々複雑な状況にあるからだ。オレンジ党、またはオレンジ結社(Orange Order)とは、18世紀末に北アイルランドでプロテスタントにより結成された組織。 プロテスタント優位の象徴であるオレンジ公ウィリアムにちなんで、オレンジをシンボル・カラーとする。夏になるとオレンジ色のサッシュ(たすき)をかけて、オレンジ党員の歌を歌いながら行進するパレードが催される。 ちなみにスコットランドはグラスゴーのプロテスタント系フットボール(サッカー)チーム、レンジャースも応援のときにオレンジ党員の歌を歌う。>>オレンジ結社www.orangenet.org
リアムの父は、低賃金で働くことを厭わない外国人労働者(=アイルランド系移民)たちに職を奪われ、しだいに彼らに対する憎しみを募らせていく。
姉テレーザがメイドとして働きに行くことになったお屋敷の主人は、父が働いていたクィーンズ造船所のオーナーだった。 広い庭、豪華なインテリア。そして食べ残しも惜しげなくゴミ箱行きにする裕福さ。奥様やお嬢様の優雅な立ち居振る舞いをテレーザはうっとりと眺める。
また、リアム一家がよく利用している質屋もユダヤ人の経営。(昔教会ではキリスト教徒に利子を取って貸し金業を営むことを禁じ、かわりにユダヤ人にやらせていた。そういった伝統もあってユダヤ人の貸金業者は非常に多い) 衣類を質に入れ、生活費の足しにしている。初聖体拝領式にはどの親も借金をしてまで我が子の一世一代の晴れ舞台のために立派な衣装を誂えるが、式翌日にはそれらは質屋に直行することに。「イエスさまのおかげで借金だらけ。ドレスも翌日にはユダヤ人の質屋行きだ!」
世界に衝撃を与えた1917年のロシア革命、そしてその後の不況や社会不安から、西側諸国でも共産主義や社会主義に共感する者が出始めた。 しかし、共産主義とは「宗教は毒だ」と宗教を否定しようとするもの。 リアムの兄が見に行った労働者集会でもそのことが問題となり、「レーニンとイエス様のどちらかを選べと?」「アカ(=共産主義者)の歌・・・教会を壊す連中の歌を歌うとは!」と声を荒げた男がいた。
この作品の舞台となったのは、ちょうどドイツでもナチスが台頭してきた頃。 同じく1930年代のイギリスを描いた『日の名残り』The Remains Of The Day(1993)も、大陸でのナチズムの台頭や、イギリスに難民として流れたユダヤ人の少女たちが登場する。失業や貧困に苦しむリアムの父たちの憎しみの矛先が向かったのは、自分たちの弱みに付け込んでなけなしの金を搾取している(ように見える)裕福な資本家や金貸し・質屋のユダヤ人、低賃金も厭わずに働くため自分たちの職を奪っている(ようにみえる)アイルランド人移民。黒シャツを着た男たちとともにファシズム運動に身を投じてゆくことに。
リアムの食事はいつも紅茶と厚切りのハニー・トースト。
リアムの姉が勤めていたユダヤ人のお屋敷で使われている揃いの豪華なティーセットが素敵。
リヴァプール, Merseyside
St. Helens, Merseyside
Wigan, Greater Manchester
ヴェネツィア映画祭
Ian Hart .... 父
Claire Hackett .... 母
Anthony Borrows .... Liam
David Hart .... Con (兄)
Megan Burns .... Teresa (姉)Anne Reid .... Mrs Abernathy(リアムの担任の先生)
Russell Dixon .... Father Ryan(カトリック神父)Julia Deakin .... Auntie Aggie
Andrew Schofield .... Uncle Tom (アギーの夫)
Bernadette Shortt .... Lizzie (アイルランド人)
David Carey .... Lizzieの夫
David Knopov .... Mr Samuels (裕福なユダヤ人・クィーンズ造船場オーナー)
Jane Gurnett .... Mrs Samuels (奥様)
Gema Loveday .... Jane Samuels (サミュエル家の一人娘)
Martin Hancock .... David
Sylvia Gatril .... Nunney
Chris Darwin .... Nunney's husband
James Foy .... Lofty
Arnold Brown .... Mr Haling (ユダヤ人質屋)
Billy Moocho .... Clubman
Stephen Walters .... 黒シャツファシスト
Bryan Reagan .... 親方
Sean Styles .... Big Micky
Sean McKee .... Little Micky
George Maudsley .... 政治集会にいた男
http://us.imdb.com/Title?0255321
オフィシャルサイト
www.liam-jp.com
(2000年 イギリス 91分)
監督: メル・スミス
製作: ティム・ビーヴァン
脚本: リチャード・カーティス
アメリカからイギリスにやってきたノッポの売れない役者デクスター。当代一の人気コメディアン ロン・アンダーソンの殴られ役として、夜毎ウェストエンドの舞台に立っていたがいつも失敗ばかり。 ある日舞台に差し支えるほどのひどい花粉症を治療するために病院を訪れたところ、テキパキとした美しい看護婦ケイトに一目ぼれしてしまう。晴れて恋人同士になったものの、ミュージカルの共演者Cherylと浮気してしまい・・・。
『ザ・フライ』の蝿男ジェフ・ゴールドブラムと、見事なコメディエンヌぶりを発揮するエマ・トンプソンのラブ・コメディ。
殴られ役とはいえウェストエンドの舞台に出演しているデクスター。舞台がはねたら自転車に乗って夜のSOHOを走り抜ける。レイモンド・レヴューバー(有名なストリップ劇場)や、リリック・シアター、ミュージカル「レ・ミゼラブル」の看板がかかったパレス・シアターなどが見える。
デクスターが出演するミュージカル版「エレファント・マン」が上演されたのは、ドルリー・レーン劇場。(上演風景はリリック・シアターで撮影された)
売れない役者のデクスターは食費も切り詰めている。ウィータビクス(Weetabix, 小判型に固めたシリアル)にかける牛乳がないので、水道水をかけて食べている!
晴れて看護婦のケイトとデートに漕ぎつけたのに、待ち合わせ場所に現れた彼女は疲れたので帰ると言い出す。食事がダメなら「せめてマリブーでも飲まない?」と誘うデクスター。マリブーはココナッツ風味のラム酒で、イギリスのパブや家庭によく置いてあるお酒。
www.malibu-rum.com
デクスターのエージェントはなかなかやり手。順番を待つ他の俳優たちは、すごい仕事を次々と割り当てられている。 ある俳優が提案されているのは、ハロルド・ピンター、アーサー・ミラー、トム・ストッパードなどいずれも有名な戯曲家の作品ばかり。
Dexterが病院に向かって飛ばした青いアストン・マーティン(ナンバープレートに"COMIC"と書いてある)は、実際に車好きで知られるローワン・アトキンソンの私物だったとか。
カメオ出演として監督のメル・スミス、Mr.ビーンシリーズの脚本担当リチャード・カーティス&ロビン・ドリスコール、"Have I Got News For You"のホストとして知られローワン・アトキンソンともたびたび共演しているアンガス・ディートンなど、英国コメディ界の有名人が多数出演。
他、ジェイソン・アイザックスが医者その2というチョイ役で出演。
Shaftesbury Avenue, London, W1D 5AY
(エレファントマンが上演された劇場として)
Catherine St,London WC2B 5JF
(エレファントマンが上演された劇場の内部として)
Shaftesbury Avenue, London, W1D 4ES
(デクスターが散歩に出かけた見晴らしの良い丘)
Jeff Goldblum .... Dexter King(アメリカ人俳優)
Emma Thompson .... Kate Lemmon(看護婦)
Rowan Atkinson .... Ron Anderson (人気コメディアン)Emil Wolk .... Cyprus Charlie (アンダーソンの舞台の大道具係)
Anna Massey .... Mary(Deterのエージェント)
Kim Thomson .... Cheryl(エレファントマンの共演女優・Dexterと浮気する)
Peter Kelly .... Gavin(エレファントマンの演出家)
Harold Innocent .... Timothy(エレファントマンの共演俳優・トリーブス博士役)
Geraldine James .... Carmen(Deterと同じフラットの住人)
Neil Hamilton .... Naked George(Deterと同じフラットの住人)
Tim Barlow .... Mr. Morrow(犬を散歩させる盲目の男)
Hugh Thomas .... Dr. Karabekian(医者)
Joanna Kanska .... Tamara(デクスターの元彼女)
レンタルビデオあり
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VHS
DVD(リージョン1)
(1989年 イギリス 92分)
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