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タイトル*し


『シークレット・エージェント』The Secret Agent (1996)

監督・脚本:Christopher Hampton
原作小説:ジョセフ・コンラッド「密偵」
音楽:フィリップ・グラス

Story

政治亡命者や無政府主義者たちの吹き溜まりとなっていた、ヴィクトリア朝ロンドンの裏通り。書店主ヴァーロック氏も夜な夜な同志たちと熱く語り合う無政府主義者のグループに入っていたが、実は彼はロシア大使館とロンドン警視庁ヒート警部との双方に通じているダブル・スパイでもあった。 しかし若く美しい妻ウィニーはそんな彼の裏の顔を知る由もない。
ある日ロシア側は、最近目覚しい実績を上げていない彼に、大英帝国の繁栄の象徴たるグリニッジ天文台を爆破する任務を命ずる。ヴァーロック氏は自分に懐いている知的障害を持った義弟スティーヴィーを連れてグリニッジへ向かうが、そこに思いがけない悲劇が・・・
ジョセフ・コンラッドの小説「密偵」を原作にした文芸ドラマ。

 

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大英帝国の栄華の象徴:グリニッジ標準時

日の沈まない国として、栄華を極めていたヴィクトリア朝のロンドン。ロンドン郊外のグリニッジには経度0の子午線が通っており、その時間「グリニッジ標準時(Greenwich Meantime=GMT)」が世界の基準となっている。いわば、「時さえも支配した大英帝国」の象徴のひとつが、このグリニッジ天文台にあるというわけである。実際にこれを狙った爆破未遂事件もおきているとか。

この天文台は、チャールズ二世が1675年に天文学者フラムスティッド(1646-1719)のために建てたもので、クリストファー・レンの設計による。現在の天文台はサセックス州に移転している。
ヴァーロックは爆弾を仕掛けるために、グリニッジ・パーク最寄のMaze Hill駅で下車した。

ヴィクトリア朝の暗黒面

ヴァーロック氏の職業は、ポルノ書店主。「倫理的で慎み深い、善き家庭人」が理想とされていたヴィクトリア朝という時代は、たとえば「脚(leg)」という表現さえも淫らな言葉として口にできなかった、抑圧された時代でもあった。 その半面で社会の表面から押し隠された性的フラストレーションは地下へともぐり、ヴァーロック氏の店で売られていたようなポルノ写真が発達したというのも皮肉な話である。 娼婦の数もこの時代に爆発的に増え、あの切り裂きジャック(Jack theRipper)のような陰惨な犯罪も頻発した。

鉄道の周辺

オシポンは汽車が出るまでの時間つぶしに、ひとりで駅構内のパブに入る。映画『逢引き』にも駅構内のカフェが出てくるが、発車待ちの乗客のためのこうした施設がついている駅は少なくないようだ。
今も昔も、イギリスの列車は外側についているハンドルを回してドアを開ける。列車から降りるときは、窓から手を外に出して開けるようになっている。

原作者ジョセフ・コンラッド

Joseph Conrad (1857-1924)
ポーランドに生まれ後にイギリスに帰化した、20世紀英国文学を代表する作家の一人。船員生活を経て、遅くなってから習得した英語で小説を書き始める。「ロード・ジム」などの海洋小説のほか、フランシス・フォード・コッポラ監督作品『地獄の黙示録』の原作ともなった「闇の奥(Heart of Darkness)」の作者としても知られ、『輝きの海』Swept from the Sea (1997) は短編「Amy Forster」を原作に映画化。

この「The Secret Agent」は、以前ヒッチコックの『サボタージュ』Sabotage (1936)としてサスペンス部分に重きを置いて映画化されている。

 

ロケ地

Greenwich Park, Greenwich, London
旧王立天文台(Royal Observatory), Greenwich, London
Loughborough Station(Great Central Railway), Leicestershire

キャスト

Bob Hoskins .... Verloc (無政府主義者でダブルスパイ、ウィニーの夫)
Patricia Arquette .... Winnie (ヴァーロックの妻)
Christian Bale .... Stevie (ウィニーの弟・知的障害者)
Eddie Izzard .... Vladimir (ロシア大使館第一書記官)
Jim Broadbent .... Chief Inspector Heat (ロンドン警視庁警部補)
Julian Wadham .... ハロルド警視監(ヒートの上司)
Gerard Depardieu .... Ossipon (無政府主義者)
Roger Hammond .... Mr Michaelis (無政府主義者)
Robin Williams .... 爆弾魔
Elizabeth Spriggs .... ウィニーの母
Peter Vaughan .... 御者

ジュリアン・ワダムは舞台などでも幅広く活躍する実力派。 他にもパトリシア・アークエット、ジェラール・ドパルデュー、ロビン・ウィリアムスなど 有名俳優が多数出演。

参考資料とリンク

imdb.com/Title?0117582

(1996年 イギリス 95分)


『シーズン・チケット』Purely Belter (2000)

監督・脚本:マーク・ハーマン・・・『リトル・ヴォイス』『ブラス!』
原作:Jonathan Tulloch (ベティ・トラスク賞受賞作"The Season Ticket") ・・・ゲーツヘッド出身

コピー:「涙が出そうになった時、ぼくらはスタジアムの風を想う。夢を信じた二人と一匹の物語。」
原題の"Purely Belter"とは、"最高!"という意味。

Story

「早目に競技場に行ったらまずは紅茶だ。砂糖は二つ、ミルクもたっぷり入れる。席に座ってゆっくり紅茶を飲みながら観戦…最高だ!」

イングランド北部、ニューカッスル近郊の街ゲーツヘッド。15歳のジェリーはふたつ年上の親友スーエルといつも一緒。地元のフットボール・チーム"ニューカッスル・ユナイテッド"の大ファンである彼らは、ひとり500ポンドもする年間観戦券=シーズン・チケットを手に入れるために悪戦苦闘する。廃品回収から万引き、泥棒まで!

ジェリーと彼の母は父親からの暴力から逃れるために身を隠して住居を転々としていたのだが、母の元に来ていたソーシャル・ワーカーは不登校のジェリーに、ちゃんと学校に通ったらフットボールのチケットをあげると約束。先生のいじめにも耐え、ご褒美のチケットをもらったジェリーたちだったが、なんとそれはライバルの"サンダーランドF.C."側のものだった。敵陣のサポーター席に座って心の中でニューカッスルに声援を送るジェリーとスーエル。やっぱりスタジアムの熱気は何ものにも代え難い。一層シーズン・チケット獲得作戦に熱が入るふたりだったが…

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フットボール(=サッカー)への熱い想い

ジェリーの子供部屋の壁を埋め尽くしているのは、フットボールに関する夥しい数の雑誌の切り抜きやペナント、ポスター類。「Toon Army」(Toon=townで、ニューカッスルF.C.の愛称。Toon Armyでそのサポーターという意味に)ステッカーには、"Hate Sunderland"という文字も見える。後にふたりがサンダーランドのスタジアムに観戦に行った時も、サンダーランドのサポーターたちが「敵はニューカッスル!」と叫んでいたように、この二つのチームは長年のライバル。

オフィシャルサイトに載っているトニー・クロスビー氏の談話によると、普通のチケットが手に入りにくいのは、20年前位前に将棋倒し事故で何十人も死傷者が出てから、立ち見が禁止になりすべて指定席になったために席数が減ったことと、スポンサー付きVIP席ができたために一般に出回る数が限られていることが原因だそうだ。

ニューカッスル・ユナイテッドF.C.
ホーム・スタジアムはニューカッスルのSt. James Park。そのすぐ南に位置するサンダーランドF.C.とはライバル関係。
WebSite>>Newcastle United / Sunderland Association Football Club

Sewellが暑い日も寒い日も常に着用しているのはベンチコート。こんなところにもフットボール好きの影響が。

スター選手アラン・シアラー(ニューカッスル出身)が本人役で特別出演。かっこいいオープンカーに乗ってスタジアムにやってきたシアラーが持っていたCDは意外な趣味で…?

モーニング・ティーはベッドで

Sewellの"父"は朝の紅茶を入れてベッドまで運んでくれるが、年老いて呆け気味の"父"は熱湯用蛇口と水用蛇口の区別がつかず、間違えて水出しの紅茶を作ってしまった(熱湯用蛇口から直接紅茶用の湯に使っているらしい)。
ちなみにイギリスではまだ混合水栓がそれほど普及していないそうで、日本のようにお湯用/水用の蛇口を調節してひとつの口から適温になったお湯が出てくる水栓はそれほど多くないそうだ。

パパの思い出

「初めて競技場に行った時は寒かったから父さんは僕にコートをかけてくれて、ハーフタイムには紅茶を一緒に飲んだ。最高の紅茶だった。砂糖は二つ、ミルクもたっぷり入れて・・・」授業で指名されて"初体験"について語ることになった時、ジェリーがとつとつと話し出したのはお父さんとフットボールを観戦に行った時の思い出だった。しかし現在の父親は酒浸りで妻子に暴力を振るう、優しさの片鱗さえ留めない人物。ジェリーの思い出話も実は…

特別挿入曲として、マイケル・ナイマンが映画『ひかりのまち』 Wonderland (1999) のために書いた"Molly"という曲が使われている。『ひかりのまち』ではダメ親父だけれど息子に対する愛情は人一倍のお父さん(イアン・ハート)が、息子を連れて休日にフットボール観戦に出かけるエピソードがある。「おまえもアーセナルとかもっとマシなチームを応援しろよォ」なんて言いながらも、一緒になってごひいきのチーム(クリスタルパレスF.C.)に声援を送る、優しい愛すべきダメ親父。この『ひかりのまち』の親子像が、『シーズン・チケット』の子供たち(ジェリーだけでなく実はSewellの方も家族関係の傷を抱えている)の悲惨な現実をより一層鮮明に描き出しているようで切なさがつのる。
他にも『シーズン・チケット』と『ひかりのまち』を比べると、"お母さんがビンゴ・ホールに遊びに行く"、"ガイ・フォークス・デイについての言及"など共通点が見つかるので、このマイケル・ナイマンの曲を使ったのは、効果的な演出と言えるかもしれない。

どうしようもないダメ親父

ジェリーの父はアル中で妻子に暴力を振るうため、長女クレアはすでに結婚して家を出ていたが、次女ブリジットは家出。残された母とジェリーは父から身を隠して住居を転々としている。執念深く居場所を探り、やってきてはテレビからヤカンまで金目のものもそうでないものも奪ってしまう。深刻なドメスティック・バイオレンス(家庭内暴力)問題に、ソーシャルワーカーも定期的に派遣されているようだ。

学校

ジェリーが不登校になってしまったのもわかるような、ひどい環境。彼がフットボールのタダ券のために登校するようになったと知ると、徹底的に苛め抜いてやると宣言するネチネチと意地悪そうな先生。
学食でのメニューはローストビーフらしきものにマッシュ・ポテトやミックスベジタブルを添えたもの。

資金造り

ガイ・フォークス・デイ(11月5日)に燃やすための人形を作って街頭で売っていたのは9月。ちなみにその人形もフットボールのユニフォームを着ている。(ガイ・フォークス・デイについては詳しくはこちらをご覧ください。

万引き計画の中に挙がっていた標的は、WHSmithMarks & SpencerBoots、1ポンドショップ(日本の100円ショップのようなもの)など

クリスマスの風景

ジェリーのうちでは貧しいながらもささやかな飾り付けをしてクリスマスを迎える。バックにジョン・レノン&オノ・ヨーコの"Happy Christmas"が流れる中、紙の冠をかぶって過ごす家族。

Sewellのところでは、ぼけ気味の"父"がロースト・チキンのスタッフィング(詰め物)としてクリスマス・プディングを詰めてしまって困ってしまう。

母のささやかな楽しみ

ジェリーのお母さんが出かけていたビンゴ大会。特にワーキング・クラスの女性に人気があり、週末になるといそいそと会場に向かう。
参考:『ガールズ・ナイト』Girls' Night (1998)

社会奉仕活動

軽犯罪や初犯のちょっとした犯罪には、罰金や禁固刑のかわりに「○○時間の社会奉仕活動」が義務づけられることがある。
参考:『ヴァージン・フライト』

 

ロケ地(付近一帯地図)


Newcastle Upon Tyne
 

Stadium of Light, Sunderland

Angel of North

音楽

マイケル・ナイマン『ひかりのまち』 より"Molly"(詳しくは上記"パパの思い出"参照)
ジョン・レノン&オノ・ヨーコの"Happy Christmas"
トラッド・ソング「The Waters of Tyne」など

キャスト

Chris Beattie .... Gerry McCarten
Greg McLane .... Sewell

Charlie Hardwick .... Mrs McCarten(Gerryの母)
Tim Healy .... Billy McCarten(Gerryの父・アル中・廃品回収業)
Kerry Ann Christiansen .... Bridget(Gerryの姉・家出中の次女)
Tracy Whitwell .... Clare (Gerryの姉・長女・シーラという赤ちゃんがいる)

Roy Hudd .... Mr Sewell (Sewellの父・・・?)
Jody Baldwin .... Gemma (Sewellに好かれている少女)
Adam Forgerty .... Zak(アイスホッケー選手・Gemmaの恋人)
Daniel James Lake .... Matthew Brabin(犬好きのサイコ男)
Val McLane .... Maureen(ソーシャル・ワーカー)
Willie Ross .... Ginga(廃品の帝王)
Kevin Whately .... Mr Caird(意地悪な教師)
Libby Davison .... Miss Warren (教師)

 

参考資料とリンク

imdb.com/Title?0246875

オフィシャルサイト(日本)

国内盤DVD

原作本:『シーズン・チケット』ジョナサン・タロック著(アーティストハウス刊)
Amazon.UK: Paperback(1)_(2)/Screenplay/Soundtrack

(2000年 イギリス 97分)


『私家版』 Tire a part (1997)

監督・脚本:Bernard Rapp
原作:Jean-Jacques Fiechter

Story

初老の編集者エドワード卿は、長年付合いのある人気作家ニコラス・ファブリが書上げた私小説を読んで愕然とする。そのなかには30年前にエドワードの最愛の恋人が自殺した真相が記されていた。
ニコラの作品は文学賞も狙えるほどの傑作で、エドワードは編集者としてその出版に協力するものの、ひそかに復讐の計画を練り始めた・・・
名優テレンス・スタンプが敵を精神的に追いつめていく過程が秀逸。

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クラブ

エドワードはジョンと話をするのにクラブで待ちあわせる。皮張りの豪華な椅子、インテリア・・・ポルト酒を銀盆に載せて運んでくる。

ケンブリッジのネクタイ

エドワードの親友ジョンは政治家で、出身校であるケンブリッジのネクタイをしている。そのネクタイをファブリに茶化され、「これはいくら金を積んでも買えん」とへそをまげる。ジョンはイエメン政府から借りたT.E.ロレンス(=アラビアのロレンス)の自筆原稿をなくし困っていた。

ユーロスター

パリ北駅からロンドン・ウォータールー駅まで:エドワードはイギリス−フランス間の移動にユーロスターを使用。

大英博物館:検索は箱に入った図書カードを繰って調べる昔乍らのやり方。
古本屋街:チャリング・クロスあたりの古本屋街だろうか、エドワードは復讐の計画の過程で古本屋を利用。

その他登場する地名

イプスウィッチ(サフォーク州):対戦中に戦死した作家アーウィン・ブラウンの生地で、エドワードは彼の消息を求めてイプスウィッチまで赴いた。
クロイドン:エドワードの親友ジョンが持っている印刷工房があるのがクロイドン。

競馬についてのイギリス紳士らしい会話

ジョン:「エドワード、君は競馬で儲けたことが?」
エドワード:「下品な! 賭けを楽しむための競馬だよ。確かに時々儲かると気分は悪くないがね。」

 

ロケ地

ロンドン/パリ/チュニジア

行き交うダブルデッカー、夜になると光るビッグベンの文字盤、街頭の新聞売り、紳士たちのさざめきあうクラブ・・・といったロンドンの風景がいっぱい。郊外の場面も。

キャスト

Terence Stamp .... Edward Lamb卿 (編集者)
Daniel Mesguich .... Nicolas Fabry (作家)
Frank Finlay .... John Rathbone (エドワードの友人・政治家)
Maria de Medeiros .... Nancy Pickford (文芸評論家・ニコラの元恋人)
Jean-Claude Dreyfus .... Georges Recamier(出版社レカミエの社長)
Hannah Gordon .... Doris (エドワードの秘書)
Amira Casar .... Farida(エドワードの恋人/ヤスミナの娘の二役)
Mahmoud Abderrazak .... Serviteur Yasmina (エドワードの恋人ファリダの妹)
Una Brandon-Jones .... Maggie Brown (作家アーウィン・ブラウンの妹)

 

参考資料とリンク

imdb.com/Title?0120337

『私家版』ジャン=ジャック フィシュテル (著)/ 榊原 晃三 (翻訳) 創元推理文庫

Death by Publication : An Arcade Mystery
by Jean-Jacques Fiechter

Death by Publication
by Jean-Jacques Fiechter

(1996年 フランス 86分)


『視姦』The Governess (1998)

監督・脚本:Sandra Goldbacher
撮影:アシュレイ・ロウ…『スティル・クレイジー』『トゥエンティフォー・セブン』『セカンドベスト』
音楽:Ed Shearmur…『鳩の翼』『マーサ・ミーツ・ボーイズ』『ガールズ・ナイト』『チャーリーズ・エンジェル』『彼女を見ればわかること』

Story

舞台は1840年代のイギリス。父の急死によって自力で生計を立てていかなければならなくなったロジーナ。身に付けた教養を活かして住み込みの家庭教師として働くために、ユダヤ人であることを隠して名前もキリスト教徒風に「メアリー」と偽り、ロンドンからはるばるスコットランドのスカイ島にあるカヴェンディッシュ家に赴く。

最初は生意気だった教え子の少女も「メアリー」を慕うようになり、広い邸宅でのゆったりした生活にも慣れてきた頃、ロジーナは風変わりな実験に熱中する当主に興味を持つ。 彼が苦労していた写真を定着させる方法を発見したことから、毎日のように共に実験と研究を重ね、やがてロジーナはカヴェンディッシュ氏に惹かれるようになってゆくが・・・。

 

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とんでもない邦題---実はちゃんとした英国時代劇

まず最初にお断りしておかなければならないのだが、日本未公開作品ということで『視姦〜無修正版〜』などとトンデモナイ邦題がつけられたうえに、「女教師に誘惑される父と息子…。禁断の三角関係を描いた背徳のエロス大作!」などというアオリ文句がパッケージに印刷されているため、その方面の刺激を期待してレンタルされた男性も多かったかもしれないが、内容は全く違うのである。

第一、主演はあの『サークル・オブ・フレンズ』 Circle of Friends (1995) のミニー・ドライバー・・・知的で個性的風貌ではあっても、決して異性の即物的関心を集める女優とは言い難い(ファンの方、失礼)。その上「無修正」という形容詞は、なんと(裸で眠っている場面の)トム・ウィルキンソンおじさまのみにかかるのであり、ミニーに関しては胸がちらりと見えるだけ。しかも「禁断の三角関係」などではなく、ミニーと息子役のジョナサン・リース・マイヤーズは関係を持っていない(片思い)。

この作品の原題「The Governess」は、「家庭教師」という意味。国際的に著名な実力派俳優を揃えたBBC製作の時代劇なので、安心してご覧ください。

ガヴァネス(家庭教師)

ガヴァネスとは、主に住み込みで上流から中流階級の子供の教育にあたった女性家庭教師のこと。19世紀のイギリスでは、働いて収入を得る女性はレディではないと見なされており、未婚の女性がレディの体面を保ちつつ就ける仕事はガヴァネス以外にはなかったとか。父親の急死で生活に困ったロジーナは裕福な商人とのお見合いをセッティングされるが、"愛のない結婚なんて"とガヴァネスとして生きる道を選ぶ。

ガヴァネスが登場する映画:
『ジェイン・エア』Jane Eyre (1996) ガヴァネスが当主と結ばれる。作者のシャーロット・ブロンテ自身もガヴァネスの経験あり。
『ファイアーライト』 Firelight (1997) 主人公であるガヴァネスと当主とのロマンス。
『エマ』Emma(1996) エマが慕うMrs Westonも元ガヴァネス。

参考文献:『ガヴァネス ヴィクトリア朝の<余った女>たち』川本静子・著/中公新書
サッカレー『虚栄の市』、シャーロット・ブロンテ『ジェイン・エア』、ヘンリー・ジェームズ『ねじのひねり(ねじの回転)』など、イギリス小説に登場するガヴァネスを題材に歴史的背景をわかりやすく解説した本。たいへん興味深く読めるのでおすすめ。

ユダヤ人

冒頭にロジーナが生まれ育ったロンドンにある南欧系ユダヤ人コミュニティが描かれている。ユダヤ人は古くから金融業に携わるものが多く、ロジーナの父も金の貸し借りで相手に逆恨みされ殺されたらしい。

監督のSandra Goldbacher自身、父親がイタリア系ユダヤ人で、母はスカイ島(スコットランド)の出身とか。

カメラ・オブスキュラ(camera obscura)

カヴェンディッシュ氏が研究していたのは、ラテン語で「暗室」という意味を持つ、カメラの原型「カメラ・オブスキュラ」。
この作品のビデオの宣伝文句に「昼は家庭教師、夜はモデル」とあるが、たぶんこれは誤り。この時代のカメラ・オブスキュラは十分な光がないと感光しないため、昼間でないと撮影できないからだ。それにロジーナの立場は「モデル」というよりは「研究助手」に近いような。

現在のエディンバラにも、このカメラ・オブスキュラを見せてくれる施設がある。
Camera Obscura, Castle Hill, The Royal Mile, Edinburgh, Scotland(エディンバラ城のすぐ近く)

「エディンバラのプリンシーズ・ストリートで写真屋を開きたい」

プリンシーズ・ストリートはエディンバラの目抜き通り。字幕では"プリンセス通り"となっていたが、通常ガイドブックでは「プリンスィズ」「プリンシーズ」と表記されることが多い。"princess(王女)"ではなく"princes(王子の複数形)"なので。

エリート教育を受けた息子

クレメンティーナの兄ヘンリーは「人が自由に殺せる有名校に行った」と家族に言われているオックスフォードの学生。 この時代にオックスフォードで学んでいるということは将来が約束されたエリートということで、順調に学業を修めれば文字通り他人を意のままに動かす権力も勝ち得たであろう。その期待に反して、ヘンリーは怠けているようなのだが・・・。とりあえずラテン語をしゃべれるというのは、教養の証。

音楽

挿入歌・テーマソングは、ワールド・ミュージック界で一世を風靡した歌姫オフラ・ハーザ(Ofra Haza)。

 

ロケ地

Brodick Castle, Isle of Arran, Scotland

舞台はスカイ島となっているが、実際に撮影が行われたのはアラン島。撮影許可が下りたのは、この映画が初めて。National Trust of Scotlandによって管理されている。

Wrotham Park, Barnet, Hertfordshire, England

www.wrothampark.com
Address: Barnet, Hertfordshire EN5 4SB, England

Thame Park, Oxfordshire(English Heritage管理施設)

Hampton Court House, Richmond on Thames

Somerset House, London

…19世紀ロンドンのイーストエンドの風景としてここの中庭が使用された
エドワード6世の摂政を勤めたサマセット公が1547年から建造させたルネサンス時代の邸宅。 その後イニゴ・ジョーンズとジョン・ウェッブが改築したが、ジョージ三世の命により取り壊される。現在の建物は1776-86年にスコットランドの建築家ウィリアム・チェンバーズの設計によるもので、海軍省をはじめとして多くの省庁が入っていた。東翼にはロンドン大学キングズカレッジや、コートルード美術館(Courtauld Institute of Art)がある。

Address: Strand, London WC2R ORN

 

Awards

Evening Standard British Film Awards
受賞:Evening Standard British Film Award Best Technical/Artistic Achievement(Ashley Rowe)

キャスト

Minnie Driver .... Rosina da SilvaまたはMary Blackchurch

Tom Wilkinson .... Mr Charles Cavendish(Rosinaの雇い主・科学者)
Harriet Walter .... Mrs Cavendish
Jonathan Rhys-Meyers .... Henry Cavendish (長男・オックスフォードの学生)
Florence Hoath .... Clementina Cavendish (Rosinaの教え子)
Arlene Cockburn .... Lily Milk (Cavendish家のメイド)

Bruce Meyers .... Rosinaの父
Diana Brooks .... Rosinaの母
Emma Bird .... Rebecca (Rosinaの妹)
Adam Levy .... Benjamin (Rosinaの婚約者)
Countess Koulinskyi .... Sofka (Rosinaのおば・女優)

メイドのリリーを演じたArlene Cockburnは、『アシッドハウス』『ウィンター・ゲスト』にも出演。

ロジーナの教え子を演じたのは『フェアリーテール』のFlorence Hoath

参考資料・ソフト

imdb.com/Title?0120687

Official
http://www.spe.sony.com/classics/governess/

参考文献:『ガヴァネス ヴィクトリア朝の<余った女>たち』川本静子・著/中公新書

(1998年 イギリス 113分)


『静かなる男』 The Quiet Man (1952)

制作・監督:ジョン・フォード
脚本:Frank S. Nugent
原作:Maurice Walsh

Story

1920年代後半のアイルランド。アイルランドの片田舎に、アメリカからやってきた長身の男、ショーン・ソーントン。ボクサーだった彼は引退して彼の生まれた村イニスフリーに家を買って住むことにしたのだ。何事ものんびりしていて牧歌的な村で、彼はひとりの美しい女性メアリー・ケイトを見初めるが、彼女の兄の乱暴者ウィル・ダナハーが結婚に大反対。周りの神父や牧師たちの協力してなんとか結婚式にこぎつけるが、式の当日にへそを曲げたダナハーは持参金を渡さない。二度と闘わないと決心を固めていたショーンだったが・・・?

Check!

Castle Town駅にて

Inisfreeに向かうショーンが下車したCastle Town駅。道を尋ねると、駅員が何人も集まって来てああでもないこうでもないと大騒ぎ。このあたりで釣りが盛んなようで、駅でも釣りを勧められる。

ショーンがこの駅に着いた時も何時間も遅れていたが、後にメアリー・ケイトがここから列車に乗ろうとした時もやはりずいぶん遅延した。日常的に列車の遅れはあたりまえというのんびりした場所。

ティラン夫人

ダナハーが想いを寄せている後家のティラン夫人。彼女の一族はノルマン時代からこの地に住んでいるという古い家柄。

しきたりとマッチメイカー

アメリカからやってきたショーンにとって「教会で聖水を掬ってあげるのは正式に婚約した男女のみ」、「家長の許可がないと結婚できない」といった古いしきたりには戸惑うばかり。聖水盤はそこに指先を浸して十字を切る時に使うもの。

"クラクションを鳴らしたらすぐに女の子が飛び出してくる"ようなアメリカと違って、昔のアイルランドの男女交際はとても保守的。結婚の意志は本人に直接ではなく、間を取り持つマッチ・メイカー(仲人)によって伝えられている。婚約してもしばらくはマッチ・メイカーのお守り付きでデートをしなければならないようだ。現代ではそんなことはないようだが、結婚適齢期の若者が少ない地方では、マッチメイカーが男女の取り持ちに活躍する。
>参考:『恋はワンダフル!?』The MatchMaker (1997)

ダナハー家

ダイニングは青と白で統一されスッキリした印象。テーブルクロスは青と白のギンガムチェック。戸棚にきちんと飾られた皿はどれも白地に青。

メアリー・ケイトが自分の財産として大切に思っている品々・・・スピネット(ピアノに似た楽器)、よく磨き込まれた年代ものの家具・・・これらは彼女の家に代々(300年くらい)伝わる大切な宝物なので、どうしても執着してしまうようだ。

酒場にて

村人が集まるバー"Pat Cohan"。よそ者ショーンが入ってきた時、その場の者たちは緊張したが、すぐに打ち解ける。オーダーしたのは黒ビール"ポーター"。

パブの場面でロケに使われていた建物は、実は雑貨屋。現在も観光客の撮影用に、外にパブの看板を掲げている。

ショーンの家の手入れ

父が住んでいた家を無事買い取ったショーンは、早速家の手入れにかかる。Thached House(萱葺屋根の家)で、窓枠などにアイルランドの国民色ともいえる緑色のペンキを塗り、庭には薔薇の花を植える。もっとも地元の人から見ると緑というのは変わった選択だったようだが。

この庭のように、アイルランドではどこでも土を耕すとゴロゴロと石が出て来るため、石を積み上げた石壁が多い。

ゲール語

メアリー・ケイトが神父に相談を持ち掛けた時に、「ゲール語で話しても良いでしょうか」と尋ねる

Whiskey

ウィスキーを水割りにしようかとすすめるメアリー・ケイトに対し、「ウィスキーはウィスキー、水は水で飲むんだ」と主張する飲兵衛のミケリーン。アイルランドのウィスキーは「Whiskey」と綴り、スコットランドの「Whisky」と区別する。

Queensberry Rules

ショーンとダナハーのけんかの場面で、「クイーンズベリー・ルールに乗っ取って」と宣言されているが、これは、グラブの使用、ラウンド制制などを定めたボクシングの標準規約のこと。

語源はこのルールを定めたQueensberry侯爵(1844‐1900)から。『オスカー・ワイルド』を同性愛者と侮辱したあのクインズベリー侯(ボジーの父)その人である。

カトリックとプロテスタント

何かと対立と抗争が絶えないカトリックとプロテスタントだが、この村の神父と牧師は不思議に仲が良い。

プレイフェア牧師と主教が馬車に乗ってやってきた時、「プロテスタントになったつもりで祝福を送ろう」と、村人に混じってロネガン神父たちはスカーフで襟元(神父服のカラー)を隠し、帽子を脱いで挨拶する。

ショーンもダナハー一家も、そして村人たちのほとんどがおそらくカトリックのようで、プロテスタント牧師プレイフェアは、信者を増やすのに苦戦しているようだ。

 

ロケ地

Cong, Co. Mayo, Ireland

参考:Quiet Man Heritage Cottage
Cong村には、この作品に出て来るコテージを改装した「Quiet Man Heritage Cottage」があり、撮影に使われた暖炉やテーブルが展示されている。

右の写真は「Pat Cohan Bar」で、実は雑貨屋。手前にガソリンスタンドが。

Ashford Castle, Cong, Co. Mayo

・・・冒頭に出て来る城。
1228年に築城され、アーディロン卿やギネス家が所有していた。コリブ湖北岸に立つ美しい城。1939年に高級ホテルとしてオープン。この作品の撮影時には、ジョン・ウェインらも宿泊していた。

Oughterard, Co. Galway, Ireland

コネマラ

Awards

米アカデミー賞:監督賞、撮影賞受賞。5部門ノミネート(作品賞、助演男優賞、脚色賞、美術監督・装置賞、録音賞)

ヴェネチア国際映画祭: 国際賞、国際カトリック映画事務局賞受賞

音楽:Victor Young

"Galway Bay"
"The Isle of Innisfree"
"The Humour is on me Now"
"The Young May Moon"

 

キャスト

John Wayne .... Sean Thornton
Maureen O'Hara .... Mary Kate Danaher
Barry Fitzgerald .... Michaleen Flynn (飲兵衛の御者・ショーンの仲人に)
Ward Bond .... Peter Lonergan神父
Victor McLaglen .... Red Will Danaher(Mary Kateの兄・村の実力者)
Mildred Natwick .... Sarah Tillane(資産家の後家さん・Danaherの想い人) Arthur Shields .... Reverend Cyril 'Snuffy' Playfair (プロテスタント牧師)
Eileen Crowe .... Mrs Elizabeth Playfair (牧師の妻)
Harry Tyler .... Pat Cohan (パブの主人)

ミケリーン役のBarry Fitzgeraldと、プレイフェア牧師役のArthur Shieldsは兄弟だそうだ。

参考資料とリンク

imdb.com/Title?0045061

国内盤DVD

(1952年 アメリカ 129分)


『死にゆく者への祈り 』A Prayer for the Dying (1987)

監督:Mike Hodges
脚本:Edmund Ward / Martin Lynch
原作:Jack Higgins

Story

北アイルランドで誤ってスクールバスを誤爆してしまった、IRAテロリスト、マーティン・ファロン。ひとり組織を抜けロンドンやってきた彼は、今や警察とかつての同志の両方から追われる身に。もう殺しには関わりたくないと思いつつ、国外脱出の条件として暗黒街の元締めジャック・ミーアンの依頼で暗殺を請負うが、その現場をカトリック神父デコスタに目撃されてしまう。口封じのために「懺悔の内容は決して他人に明かしてはならない」という掟を利用し、神父本人に殺人を告白するマーティンだったが・・・

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カトリック信仰

アイルランド出身のマーティンは、当然カトリック信者だが、イングランドではカトリックは少数派。

神父は、懺悔された内容を消して他人に漏らしてはいけないことになっているため、デコスタ神父はマーティンが殺人犯だと警察に知らせることができなくなってしまった。

参考:『司祭』 (1994) では、告悔の内容を口外するかどうかで苦しむ神父の姿が描かれている。

葬儀屋

暗黒街のボスジャック・ミーアンの表の顔は"葬儀屋経営"。貧しい生まれで母親が女手ひとつでジャックとビリーの兄弟を育ててくれたことから、ボラれそうになった老婦人を助けてあげるなど、意外に優しい面も。

マザーグース:"Three blind mice"

ビリー・ミーアンが盲目の少女アンナを襲った時、口ずさんでいたのはマザーグースの"Three blind mice(三匹のめくらのねずみ)"という歌。緊迫した状況に使われることによって、より恐怖感を煽っている。ロンドンでロングラン公演されているアガサ・クリスティーの戯曲『Mousetrap(ねずみとり)』にもこの歌が使用されている。

Three blind mice, see how they run!
They all ran after the farmer's wife,
Who cut off their tails with a carving knife,
Did you ever see such a thing in your life,
As three blind mice?

 

ロケ地:ロンドン

Luke Street(教会と遊園地のある通り/イーストエンドにある)
>UK Street map

キャスト

Mickey Rourke .... Martin Fallon
Bob Hoskins.... Michael Da Costa (カトリック神父・アンナの叔父)
Sammi Davis .... Anna (神父の姪・盲目の少女)
Alan Bates .... Jack Meehan(葬儀屋・裏社会の顔役)
Christopher Fulford .... Billy (Jack Meehanの弟)
Camille Coduri .... Jenny (高級娼婦・Martinの身柄を預かる)
Liam Neeson .... Liam Docherty (IRAテロリスト・Martinのかつての同志)
Alison Doody .... Siobhan Donovan (Dochertyの同志)
Maurice O'Connell .... Miller警視

参考資料とリンク

imdb.com/Title?0093771

『死にゆく者への祈り』ジャック・ヒギンズ (著)
/ 井坂 清 (翻訳) ハヤカワ文庫 NV 266

(1987年 イギリス 108分)


『10番街の殺人』 10 Rillington Place (1971)

監督:Richard Fleischer
脚本:Clive Exton
原作:Ludovic Kennedyの著書_Ten Rillington Place_

Story

舞台は大戦後のロンドン西部。1949年にリリントン・プレイス10番地のフラットに越してきたのは、幼子を抱えたティムとベリルのエヴァンズ夫妻。生活に追われて心がささくれ立っていたティムは、夜中に妻と大声で口論することも少なくなかった。フラットの一階に住んでいた元警官のクリスティーは、この若夫婦に何かと世話を焼いていたが、その穏やかな仮面の下に隠れていたのは、残虐な手口で若い女性を次々に手にかけていたシリアル・キラー(連続殺人犯)だった!

クリスティは、ティムがあまり頭の回転が悪く夢見がちな性格を利用して、罪をなすりつけるが・・・?ロンドンで実際に起こった有名な連続殺人事件をもとにしたサスペンス。

 

登場人物のモデル

ティモシー(ティム)・エヴァンズ

ティムが自首したのは、ウェールズの警察署。読み書きができないため、供述調書には署名の代わりに×印を書かされる。

事実と妄想の区別がつかないうえに、日頃からパブなどで大風呂敷を広げていたり、妻と大声で口論していたりしたこともあって、冤罪を晴らせないまま事件の翌年(1950年)ペントンビル刑務所で死刑に処される。

ジョン・クリスティー

ヨークシャー出身。1916年陸軍に招集され、第一次世界大戦中フランスでの戦闘に従軍し、爆風で5ヶ月間視力を失い、シェルショック(精神的外傷)により3年半口が聞けなかった。1920年妻のエセルと結婚するが、その3年後彼女を捨てロンドンに上京し、軽犯罪を繰り返していた。エセルは9年間の別居後、ロンドンに出向き、夫とよりを戻した。ふたりがリリントン・プレイスに引っ越してきたのは1939年。翌年第二次世界大戦が勃発し、クリスティは巡査として1943年12月まで勤務。この大戦中にクリスティは最初の殺人を犯す。(映画でも灯火管制の中女性を殺めるクリスティが描かれている)

ティモシー・エヴァンズの処刑後もこのフラットに住み続けていたが、1952年にクリスティ夫人が失踪。家財道具をすべて売り払ったものの、クリスティはしばらく何もない部屋にとどまっていた。

クリスティが引っ越すことになり、新しいジャマイカ人の住人が棚を取りつける作業をしていたときに、壁の空洞を発見。どの死体もガスを嗅がされた後、絞殺されていた。壁の中から見つかった4つの死体(その中にはクリスティ夫人の遺体も)以外に、庭からもさらに2体の白骨が発見されて大騒ぎになる。クリスティはテムズ川の土手で警官に職務質問され、逮捕された。*実際のクリスティーの写真を見ると、映画の中でアッテンボローが演じた姿と、驚くほど酷似している。

参考文献:『恐怖の都ロンドン』スティーブ・ジョーンズ(著)友成純一(訳)ちくま文庫

 

ロケ地

ロンドンのノッティング・ヒル
The Electric Cinemaなど

Awardsなど

1972年英国アカデミー賞(BAFTA)助演男優賞にジョン・ハートがノミネート

キャスト

Richard Attenborough .... John Reginald Christie
John Hurt .... Timothy John Evans
Judy Geeson .... Beryl Evans
Pat Heywood .... Mrs Ethel Christie
Isobel Black .... Alice(ベリルの友人)

Phyllis MacMahon .... Muriel Eady(最初の犠牲者)
Ray Barron .... Workman Willis
Douglas Blackwell .... Workman Jones
Jimmy Gardner .... Mr Lynch (ティムの叔父)
Gabrielle Daye .... Mrs Lynch(ティムの叔母)
Edward Evans .... Det. Inspector
Tenniel Evans .... Detective Sergeant

参考資料とリンク

imdb.com/Title?0066730

『恐怖の都ロンドン』スティーブ・ジョーンズ(著)友成純一(訳)ちくま文庫

VIDEO

(1971年イギリス106)


『情事の終わり』The End of the Affair (1955)

監督:エドワード・ドミトリク
原作:グレアム・グリーン
脚本:レノア・コフィー

Story

作家のベンドリックスは、次回作のために高級官僚ヘンリーを取材していた。ヘンリーの自宅で催されたシェリー・パーティーで、彼は他の男とキスしていたヘンリーの妻サラに心惹かれ、ほどなく恋に落ちる。ふたりはヘンリーの目を盗んで密会を重ねていたが、ある日ベンドリックスの部屋にいた時に空襲を受け、彼はドアの下敷きになり気絶してしまう。そしてその日以来サラは彼の前から姿を消した。

2年後、偶然ヘンリーに再会したベンドリックスは、サラが誰か他の男と逢っているのではないかとヘンリーが悩んでいるのにかこつけて、嫉妬に駆られながらも私立探偵を雇ってサラの身辺を調査させる。そして明らかになった驚くべき真実とは・・・?

 

Check!

原作者のグレアム・グリーンについて、舞台設定についてなどは、この作品のリメイク『ことの終わり』の作品紹介を参照してください。
>>『ことの終わり』 The End of the Affair (1999)

戦争の時代

モーリス・ベンドリックスは、第二次大戦で負傷し除隊になったために作家になった。ロンドンの街には日々戦争が暗い翳を落とす。
夜になると空襲警報が鳴り響き、灯火管制をしいているために(街灯も家の明かりもない)夜になるとあたりは漆黒の闇。

クラブ

ベンドリックスが話し合いのためヘンリーを自分のクラブに呼ぶ場面がある。クラブとは会員制になっていて、有名なクラブは有力者の推薦や社会的地位がないと入会できない。クラブないで読書したり、飲食したり、宿泊したりできる。秘密の話をするにも人目を気にしないで済む。

ハイドパーク・コーナー

ハイドパークには、誰でも自由に自分の考えを演説できる場所がある。このハイドパーク・コーナーも登場する。

V-E Dayの熱狂

対独戦争でドイツ軍降伏を記念した日。サラとヘンリーもSt.ジェームズ・パークにその祝典を見に行く。バッキンガム宮殿には王室の人々も顔を出す。

 

キャスト

Van Johnson .... Maurice Bendrix(作家)
Deborah Kerr .... Sarah Miles(高級官僚Henryの妻)
Peter Cushing .... Henry Miles(高級官僚)
John Mills .... Albert Parks(Savageの部下・子連れ探偵)
Christopher Warbey .... Lancelot Parks (Albertの息子)
Charles Goldner .... Savage(探偵事務所所長)
Michael Goodliffe .... Richard Smythe (サラが訪問していた謎の男)
Josephine Wilson .... Miss Smythe
Stephen Murray .... Father Crompton(カトリック神父)
Nora Swinburne .... Mrs Bertram
Frederick Leister .... Dr. Collingwood
Mary Williams .... メイド
O'Donovan Shiell .... 医師
Elsie Wagstaff .... ベンドリックスの大家
Nan Munro .... Mrs Tomkins(コテージの持ち主)
Joyce Carey .... Miss Palmer

参考資料とリンク

imdb.com/Title?0048034

 

(1955年 イギリス 110分)


『ショッピング』Shopping (1994)

監督・脚本:Paul Anderson(デビュー作)

 

Story

近未来のイングランド、とある荒んだ工業地帯。スリルとスピードが大好きな不良少年のリーダー、ビリーは3ヶ月の刑期を終え出所すると、全く反省の色のない彼はすぐに迎えに来た恋人のジョーとともに高級車を盗み、商店につっこみ強盗をする暮らしに戻ってしまった。彼らはこの荒っぽい強盗を"ショッピング"と呼ぶ。古巣に帰ってみると、ビリーに反感を持っていたトミーが不良少年グループの一部を仕切っており、彼はギャングともつながっていた。ビリーとトミーの対立とともに、彼らの"ショッピング"はエスカレートしていくが・・・

 

Check!

不良少年たちの住む狭い世界

Billyは飛行機に乗ったこともなければ、海外旅行の経験もなく、ダーラム(イングランド北部)の刑務所で過ごした期間を除けば生まれ育った街にずっと暮している。一方、ジョーは北アイルランドから流れてきたらしく、破壊された様子を見てまるで故郷にいるようだという感想を漏らす。

Tommyの刺青

左右の腕にそれぞれ、「盗賊」、「幸福」と漢字で刺青をしている。

アレッシ社製のケトル

ビリーたちが高級店「アラスカ」から"ショッピング"した品物は、イタリアの人気ブランドアレッシ社のやかん。ビリーは、そのヤカンが90ポンドもするのを知って興奮する。

ナチュラル・ナイロンズ

この作品に出演しているジュード・ロウ、セイディ・フロスト、ショーン・パートウィーは、のちにユアン・マクレガーらとともに製作会社ナチュラル・ナイロンズを作る。

ちなみにこの作品をきっかけに、ジュードとセイディは親しくなり、のちに結婚する。

ロケ地

Isle of Dogs

ロンドン・イーストエンド

キャスト

Jude Law .... Billy (不良少年たちのヒーロー)
Sadie Frost .... Jo (Billyのガールフレンド?)
Sean Pertwee .... Tommy (Billyと対立する青年)
Fraser James .... Be Bop
Sean Bean .... Venning (ギャング)
Marianne Faithfull .... Bev
Jonathan Pryce .... Conway (警察)
Daniel Newman .... Monkey (Billyの仲間)
Lee Whitlock .... Pony (ドラッグの売人)

参考資料とリンク

imdb.com/Title?0111173

国内盤DVD

(1994年 イギリス 105分)


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